2019年東京私立中学合同相談会 in 国際フォーラム(8)変化の生み方
★今回の合同相談会は、175校の相談ブース以外にも一般教育情報・入試情報・学校選択情報も得られるブースも幾つも設置されていた。そんな中で、主催者側が、この合同相談会の存在意義あるいはアイデンティティを語るコーナーもあった。
★主催者である一般財団法人東京私立中学高等学校協会の副会長である平方邦行先生(工学院大学附属中高校長)と同副会長長塚篤夫先生(順天学校長)によるセミナーがそれである。お二人とも、今回の文科省の大学入試改革の様々なワーキンググループの私学側の委員としてずっとかかわっている。まさに改革渦中にいる。
★したがって、国がどのように教育を変えようとしているのか身をもって理解しているし、どこで変化が停滞しているのかも了解している。そして、その停滞や変化への妥協に対し、国と激論を交わす場合もしばしばである。
★そのようなことが前提になっているから、日本の教育改革について臨場感あるトークとなり、満席の会場はいっせいに前のめりになっていた。
★お二人とも、政治経済の変化とグローバリゼーションの流れと教育改革の関係を丁寧かつアクロバティックに紐解きながらトークをしていったから、今回の改革が時代の要請に基づいているものであり、変化せざるを得ない理由を語った。国の改革はいつも完ぺきではないが、子供の未来を考えたとき、私立学校は変化を牽引するなミッションがある。≪私学の系譜≫のアイデンティティを高らかに謳った。
★ただ、セミナーのコンセプトは同じだったが、変化の起点や変化の項目については、きちんと違いを明確にして語っていた。だから両者の話を聞くと、具体的な変化の全貌がわかるようになっていた。
★平方先生は、1971年の四六答申からひも解いていった。ニクソンショックによってドルの変動相場制が開かれた重要な時期だし、すでにその経済進化のダイナミクスを予期し同時にリスクを議論するためにあのダボス会議が生まれた年である。グローバリゼーションの出発点と考えてもよいかもしれない。
★議論はあるが、四六答申は、教育の自由化、個人の尊重を開く道を拓いたわけだ。しかし、四六答申は、警鐘を鳴らしはしたが、学歴社会の進行はますますパワフルになっていった。改革は、リスクも抱えるわけだが、自由化とか個性化は、ある意味新自由主義にとっては追い風になってしまったわけである。
★しかも、1989年にはベルリンの壁は崩壊し、グローバリゼーションは膨張することになったが、同時にバブルははじけ、9.11をはじめとする世界同時テロが拡散し、IT革命の紆余曲折、金融資本主義の紆余曲折はすさまじく、イノベーション、イノベーション、そしてイノベーションが叫ばれるAI社会突入の時代になってしまった。
★予定調和的な限られた知識の習得とその活用だけでは、未来をサバイブする力としてはあまりに不足していることは明らかである。そこで、どんな教育、どんな授業が必要なのか、平方先生は工学院の先進事例も交えながら語った。そのとき「思考コード」というブルーム型のタキソノミーの活用が重要であることも語った。論理的思考では、AからBには行けるが、創造的思考では、Aから多様な場所に飛んでいける。たしかにそういう時代だと会場は納得の様子だった。
★長塚先生は、2007年に改正された学校教育法第30条を起点に変化を語っていった。第30条2項にはこうある。「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない。」
★つまり、今回の大学入試改革に伴う学習指導要領の改訂のコンセプトである学力の3要素は、すでにここから始まっているのだと。そして、この学力の3要素は、これまでの学力観とは違って、資質能力論にシフトしたのだと。つまり、コンピテンシーという考え方に移行したというコトをコアビジョンとして語った。
★平方先生は授業の変化について語り、長塚先生はそこで養われるコンピテンシーについて語ったわけである。プロジェクト型学習になることによって、タキソノミーとコンピテンシーの相関である「思考コード」をもとに、「ルーブリック」が展開することで、2024年以降の大学入試は2年後の移行措置的に行われる大学入試改革とはかなり違う様相を呈することになると。
★つまり、現在の中学受験生が大学入試に直面するころには、大学入試改革はもっと大胆になっているのだと。ロ―ドマップをかなり具体的に描いた。
★そのロードマップはいまここからはじまっていて、平方先生も長塚先生も、そのための準備をご自身の経営する学校ですでに実践し、より良き未来になるように文科省に提言を投げかけている日々なのである。
★しかし、大事なことは大学入試のための授業改革でも、大学入試のためのルーブリック活用でもない。子供たち一人一人が世界を変える叡智と才能を開花する準備の足場であり、ソフトパワーを生み出すクライテリアであるということなのだ。当然2030年には、大学入試は教科入試でもAO入試でもなくなる。いったいどんな世界が2024年から2030年には広がるのだろう。自己変容を恐れることないGrowth Mindsetの教育へ。会場は異次元の世界の映像を共有したのだった。
| 固定リンク
最近のコメント