三田国際学園のさらなる進化(02)サイエンスリテラシーの中1授業
★中高のMST(メディカルサイエンステクノロジー)コースを担当している辻敏之と教頭の田中潤先生がコラボして実施している中1のサイエンスリテラシーの授業を見学した。
★その部屋は、クラスルームで、サイエンティストが中高生のために選んだ100冊の本がディスプレイされていた。
★そこから、生徒が思い思いの本を手に取り、帯つくりをしていた。GW中に、本を読んできて、帯のタイトルやキャッチフレーズなどを考案し、デザインしているのだと思った。
★しかし、それは違っていた。選んだ生徒1人ひとりの思いを言語化するところから始まる授業だったのである。自分は数学と脳の関係に興味あるから、ここをもっと掘り下げて思考することができる本なのではないかと仮説を立てるところから始まると辻先生は語ってくれた。
★まずは、科学に関連する本の読み方を探究するところから始めているのである。この読書探究のアウトラインは松岡正剛氏が所長をしているあの編集工学研究所のものを活用しているという。というのも、同研究所とMSTクラスが連携して、編集のメソドロジーをサイエンスリテラシーのメソドロジーにいかに変換できるのかというテーマで共同研究しているということのようだ。
★帯を編集するには同研究所の思考ツールを使って行っていたが、そのツールを使えるようになることが目的ではなく、その向こうにある科学論文の読み方・編集の仕方の体得にあると、田中先生は授業見学の合間で説明してくれた。
★授業は、個人ワーク、ディスカッション、プレゼンテーションがサイクルになって展開するPBLだが、大事なことは、個人ワークの時にどこまで深く考えるか、ディスカッション時にテーマやトッピクの驚きを誘発する発想がどういうメカニズムで可能なのか、しっかり対話ができているかどうかである。
★このメカニズムこそ、編集の極意であり、サイエンスリテラシーにおける新しい発見と驚愕誘発、つまりシンパシー拡散の肝であろう。
★ある生徒は、「心はすべて数学である」という本を選択した。そして帯のキャッコピーは「数学と脳の関係をいっしょに考え世界を広げよう」にしたという。まだ中身は読んでいない。表紙と目次と筆者のプロフィールについてページを開いた程度だという。
★しかし、中1でありながら、数学と脳の関係に興味があるから、この本を選んだというのだ。数学と脳が関係しているだろうということはうすうす考えていた。その生徒自身、この世界は実は脳がバーチャルに映し出したものだという認識論にすでに立っているから、もし数学と脳が関係するなら、数学は世界を表現できるはずなのだという仮説が立つはずだというのだという。
★エッ!中1ってこういう感じだっただろうか。いやいやプレゼンした生徒が特別なのだろうと思い直すことにした。しかし、次のプレゼンで、それはあっさり裏切られた。
★その生徒は、「世界はなぜ『ある』のか?」という本を選択した。そのキャッチコピーは「存在する無の世界」と表現した。「ある」と「ない」の対照性こそ「ある」根拠を見つけるヒントになるからだという。そして、この本は「物理」「哲学」「宇宙」「神学」などの学際的な内容のはずであることを示すデザインを描いていた。
★田中先生いわく、「今年の中学生は確かに昨年までとは違いますね。何か一つ自分の興味のあることをすでに相当深めているし広げられる力をもってきています。とくにMSTクラスは、現象の背後のメカニズムについて知ろうとする生徒ばかりです。ただ、それだけに、横とのつながりを忘れがちになる可能性のある生徒もいるし、自分の探究に関係のないタスクは無駄だと合理的に判断してしまう生徒もいる。学際的だと言っていながら、自分の認識した世界で代替えして広がったと思っている生徒ですね。こういう生徒と対話をし、思考しながら、世界をどこまで本格的に広げ新たなおもしろさを見つけることができるのか。成長が楽しみであると同時に、そのためのプログラムを今後さらにパワフルにする必要があると感じています」と。
★辻先生は、「帯をまずはつっくっみるのですが、その後に本を実際に読んでいきます。すると自分の仮説を修正しなければならないことに気づくでしょう。この仮説と検証の過程=編集こそサイエンスリテラシーの基礎です。そして大事なことは、この仮説を自分の内的な力で生み出せる体験ですね。このマインドセットを、教科の授業でも行っていますが、科学としての大きなマインドセットができていないと、各教科の単元を習得するモチベーションをいかに生み出すかという、目の前の利益に終始ることになりかねません。サイエンティスとの3要素は、好奇心とオープンマインドとなぜだろうという問いを抱くことだと言われます。このサイエンティストのマインドこそ、早い時期にシェアすることが大切だと思っているのです」と。科学者としての辻先生の表情がパッと広がった瞬間だった。
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