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2019年5月

2019年5月31日 (金)

工学院 今、保健体育と家庭科がおもしろい!未来を創る知を実装する!(1)

★工学院の柴谷先生の保健体育の授業を拝見した。もし保健体育という情報がなければ、女性学をテーマにした探究の授業なのかと思っただろう。導入は、前回の授業で生徒たちから回収したアンケートの結果をデータ化して、育児に対する固定概念をリフレクションするところから始まった。

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★つまり、生徒と質的リサーチの方法を分かち合って、そこから何が見えるのか?ウオーミングアップしてから、主婦、主夫、働く夫、働く妻に分かれ、育児の問題点を解決するためにどうしたらよいのかロールプレイしながらディスカッション。

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★柴谷先生も生徒も、未体験の状況をイマジネーションを膨らませながらいっしょに学ぶミニPBL型授業だった。プレゼンの内容もマナボードに書き込み、そしてプレゼンする。

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★リサーチは、たしかに疑似的でシミュレーションスタイルだが、explore→exchange→express(リサーチ→ディスカッション→プレゼン)という構成主義的学習を現代化したシーモア・パパートが推奨する3XタイプのPBLのプロトタイプだった。さすがチーム田中のメンバーだ。ナチュラルなPBL授業。

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★とにも、シンプルなミニPBLだが、それゆえジョブスの好きな引き算の美学の世界が広がった。そこに近代産業がもたらし20世紀に頂点を極めた人間の深い闇を避けることなく見つめ直し、そこをいかに払しょくするか、生徒たちは結婚生活や夫婦の関係について考えるにあたって、最初は少しシャイだったが、ここに到って、真剣に議論に没入していった。

★なぜ工学院が21世紀型教育を推進しているのか。それはこの20世紀に凝集した近代産業社会における人間存在の暗闇を払拭し光を取り戻すためだったのかもしれないと感じないではいられない授業だった。


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21世紀教師の歩む道(05)田中歩先生と大久保圭祐先生による「CLILを超える意味と効用を考える」講座

★「グローバル教育カウンシル」の4時間目は、工学院の教務主任田中歩先生と聖パウロ学園の英語科主任・研修部部長の大久保圭佑先生による授業。トピクは「21世紀型教育の英語教育 CLILを例にとって」。

★どうして、田中歩先生と大久保圭祐先生がコラボしたかというと、両先生は、学校を超えて情報交換をしながら、世界標準の英語教育を構想し実践しているからである。その情報交換は、ケンブリッジイングリッシュスクール認定校工学院が活用している“Uncover”というテキストを共有するところから始まっている。

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★同テキストは、CEFRという今やあまりにも有名になっている英語4技能(CEFRは5つに分けているが)のルーブリックに合わせて編集されている。このCEFRは、2020年の大学入試改革の英語の基準に使われていることもあり、日本ではあたかも英語のルーブリックであるかのように思われているが、もともと欧州評議会で創られた基準で、もともと多言語が当たり前の欧州だったが、特に1989年のベルリンの壁崩壊後の移民の大移動を機に、あらゆる言語のコミュニケーションのレベルを合わせるために作られた。したがって、英語以外にも適応されている。たとえば、欧州で日本語を学ぶ場合もCEFRは適用される。

★そして、“Uncover”は、CLIL=Content and Language Integrated Learning(内容言語統合型学習)というシステムを活用している。CLILのCは、Content=内容、Communication=言語技術、Cognition=考える力、Community / Culture=多様性という4つの要素がシステマティックに組み合わされている学習方法。

★それゆえ、田中歩先生は、“Uncover”を通して英語の授業を行っていくけれども、英語という範囲を超えて、言語という広がりのある授業を行っていることになることを指摘した。そして、そのことの実感を共有するために、各学校で英語と他教科との複数のコンテンツが融合している学びについて情報交換するシェアリングを行った。

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★このミニPBLの手法は、ケンブリッジイングリッシュスクール認定校として当然の手法で、2時間目のリヨ校長先生によって行われたカナダのBC州のミニPBLとシンクロする。

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★もちろん、対話することが似ているのだが、そのスタイルが似ているからだけだと、日本中で行われているアクティブラーニングは皆同じだというコトになる。したがって、そこに共通点の本意があるわけではない。

★このチームでの対話は、やはり相当盛り上がった。それぞれの学校の創意工夫は多様で、取り入れられるところは取り入れようという意欲が互いにも燃え上がったからである。内発的動機付けが会場を埋め尽くしたのである。

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★そして、田中先生は大久保先生に聖パウロ学園の実践例を語ってもらった。大久保先生の授業実践は、オールイングリッシュだし、外国人教師とのコラボ授業も行っている。文法も行っているが、なによりそのルールを活用して対話したりライティングしたりしているわけだ。

★さらに、ICTを活用して動画や画像、グラフや地図を挿入するメディアミックスの授業展開は、生徒の意欲向上のみならず、生徒の視野を拡大する。大久保先生は海外の大学院で学んできているから、このような授業展開は当たり前なのであるが、英語の教師が全員自分と同じ経験をしているわけではない。同じような水準で授業が展開できるように、英語科の会議でミーティングをするが、“Uncover”を活用することで、そのような授業展開にならざるを得ないシステムになっているという。

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★もちろん、同書を使えば、みな同じように授業ができるかというと、田中先生は、日々研修が必要になると。これは、今回の講師がみな口をそろえて言ったことでもある。水準を保つには、研修によって各教師の授業力をアップデートすることが必須だからだ。

★授業の展開がそのつど変わるのか?そうではなく、教師力や授業力がアップデートされていくことによって、質の良い授業の展開が安定し当たり前になるからである。

★また、大久保先生は、授業以外にも、グローバルなネットワークをできるだけたくさん生徒の学びの環境につなげる実践例も話をした。この瞬間に、教科を越境して学ぶ環境が広がるというコトを参加者は共有した。

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★実は、チームによる対話と大久保先生の実践例という重ね合わせ、レイヤーを重ねると呼んでいるが、CLILという言葉を使う使わないにかかわらず、ああこれだなと腑に落ちる瞬間が生まれる。そのああこれだなというものこそが、CLILということなのである。

★田中歩先生のナチュラルなミニPBLの手法は、CLILという世界標準の大理論を伝えることではなく、それぞれが腑に落ち、気づいた自分なりの理論を生成するプラグマティックな手法なのである。大理論については、当日も紹介があったが、上智大学でCLILを推進している池田真教授の話を聞けばよいわけであり、現場の英語教師はまずマイ理論がコアとして自分の中に生まれ続けることである。

★もちろん、研修が必要なのは、その大理論とマイ理論のギャップを埋めるためである。マイ理論だけだと独りよがりになって、生徒が迷惑を被るからだ。

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★両先生は、基本的にはプラグマティックな教師であるが、同時に学術的な理論も学んでいる。しかし、学術的な理論は、やはり専門の学者に任せざるを得ない。学者は、毎日それに専念して研究している。一方教師は、その理論を活用もするけれど、基本は日々の現場の中から生まれてくる創意工夫の実践家である。しかし、真理は真理である。アプローチは異なれども、大理論とマイ理論はどこかで一致するし、相乗効果が生まれる場合もある。

★CLILという理論も、1994年ころ欧州で生まれた。欧州は、言語と思考は密接な関係にある。思考のない言語を学ぶことはできないし、言語のない思考を学ぶことはできない。もちろん、そこをなんとか脱構築しようという哲学やアートは存在する。しかし、それは強烈な言語と思考の関係があるから、組み替えたくなるわけだ。

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★だから、欧州では、実は中世のころから、CLILのような学びはあったわけだ。とくに太陽王ルイのころになると、欧州では各国の貴族たちは争ってフランス語を話そうとした。今でいうイマージョン教育が上流階級では当たり前だった。

★近代にはいって、そのような学びが階級を超えて広まってきた、そして1989年ベルリンの壁が壊れるや、そのような学習理論が地球市民に共有されることが、欧州評議会では議論された。なぜならそのような学びを地球市民が手にとれないとしたら、それは欧州評議会のミッションである「人権」に反することだからだ。

★多言語、他民族、多文化、多宗教などの多様性の中で、共有するとなると理論が必要になる。システマティックな言語と思考の学習理論が。こうしてCLILは生また。

★したがって、CLIL以前に同じような学習理論はあったわけで、イマージョン教育はその先駆けでもある。だから、田中先生と大久保先生は、CLILという理論を説明するのではなく、CLILに凝集した学びのエッセンスを共有する授業を今回展開したのであった。

 

 

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2019年5月30日 (木)

PBLとダブルダイアローグ 対話をしているようでしていないPBLはPBLにならない。

★このところ、いろいろな先生方と話す機会が急激に増えた。そして、PBL(Project based Learning)には、ダブルダイアローグが必要だというコトに気づいた。一見、相互にやりとりをしているから相互通行型の対話ができていると思いこむ場合が多いが、それが実質的には相互通行型になっていない場合が案外多い。

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★学びとは対話であるから、今目の前の問題を考え解答を得ようとする自分とその問題を解く行為を通して、もっと何か大きな未知なるものに気づいている自分に気づいて、その両者で内省的対話が行われている。こうなると、一つの経験がその経験以上の感性や知性や人間関係界や自然法則などの大きな世界=Something Xに引き込まれていく自分の存在に気づきワクワクしてくるものだ。

★しかしながら、実際には独白では、その豊かさはなかなか広がらないし、そもそも目の前の問題も解決つきにくい。そこで、他者との実際的な対話が必要となる。かくして、Something Xがどんどん広がるには、実際的な対話、つまり直接的な対話と内省的な対話のダブルダイアローグが必要となる。

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★子供の場合、本来そのSomething Xを豊かにしていく対話は経験豊富な大人とのダブルダイアローグが有効なはずだが、通常の大人は、Something Xには興味がなく、目の前の問題を解決することに終始しがちなのは、説明するまでもない。したがって、そのような大人と直接的対話をする子供は、内省的対話は稼働せず、大人の経験や体得した知識をインプットされ、強引に目の前の問題を解決することに引き延ばされるだけで終わる。

★直接的な対話があったとしても、一方通行的詰め込みや引き延ばしと実は変わらないという場合が多いのである。

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★ところが、大人の中には、目の前の問題を解く経験や知識は豊富だが、Simething Xの可能性は、つまり才能の豊かさは自分よりも子供の方があると悟り、子供のSomething Xの部分が拡張するような対話をする。見た目は直接的な対話だが、内省的な対話が子どもの内面に起こるような間接的な対話をするのである。Something Xも豊かなになるが、目の前の問題を解決する経験や知識も自然と拡張する。

★これが20世紀型の一方通行型の講義と21世紀型教育のPBLとの大きな違いである。

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★しかし、究極のPBLは、大人も子供も、つまり教師も生徒も、直接的な対話と内省的な対話の両方が互いに豊かになっていく。このときイノベーションやアーティスティックな創造物が生まれてくる。ファシリテーターは、ジェネレーターにシフトしている。

★そして、対話の肝は、「問い」である。ダブルダイアローグを豊かにする「問い」を生み出すトレーニングがPBL授業では重要になるのは、そういうわけだ。

 

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21世紀教師の歩む道(04)児浦良裕先生の「思考の存在理由を考える」講座

★21世紀型教育機構の「グローバル教育カウンシル」の3時間目は、児浦良裕先生の授業。「21世紀型教育の思考力とは?思考力入試を例にとって」という切り口だった。聖学院の思考力入試は、各メディアに取り上げられるほど有名で、3つの切り口で開発された3種類の入試がある。今回はそのなかで「難関思考力入試」を例に、実際にいくつか問題をグループワークで考えながら進行するミニPBL型授業だった。もちろん、思考力入試の問題をダイレクトに解くことが目的ではなかった。

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★聖学院は、思考力入試や授業をデザインする時、一方で、思考コードを使って、思考の広がりをモニターしながら制作していく。それは、2時間目に、文化学園大学杉並のDDコースのリヨ校長先生によってワークショップが行われたドライビング・クエスチョンの作り方に似ている。

★また、もう一方で、生徒がどこにむかって思考していくのか、その存在理由を先生方とシェアしながら開発もする。これは、1時間目に三田国際の教頭田中潤先生によって行われた授業のゴールデン・サイクルの考え方に似ている。

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★3人の先生方が、どこかでミーティングをして、ビジョンやコンセプトを共有して臨んだわけではない。それなのに、共鳴共振しているのは、21世紀型教育という真理を目指すところで同じ思いだからだろう。つまり、真理は時空を超えて一致するのであろう。

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★難関思考力入試は、昨年から行っている。テーマは違うのだが、最終的な問いの存在理由は一貫している。両方の問いを各チームで考えてもらったあと、その解答を問うのではなく、なぜこのような問題を出したのかその理由について問いかけがあった。

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★高齢者問題とAIの関係を問うたのも、パラリンピックと社会貢献の関係を問うたのも、それは誰も取り残さないということについて思考することを最も大切にしているからだということが先生方と共有された。

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★ただ、そこに至るまで、数多くのデータやグラフから何かを読み取ったり、読み取った思いをレゴで表現したりと、思考コードのB軸周辺をウォームアップしながら考えていけるようにする。思考のプロセスと言えば、それはそうなのだが、むしろマインドセットといったほうが聖学院らしいかもしれない。

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★話は、思考力入試の例だけではなかった。バリでの新しいプログラム作りをしたときの児浦先生の実体験についても語られた。バリで売り上げが半減している会社があり、そこをいかに立て直すか、企画を競い合うものだった。多様な企業から参加していたから、それぞれ最先端のマーケティングの理論や手法を使って、立派な企画を出し合ったそうである。

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★しかしながら、その会社のオーナーは、それぞれの企画案に感謝し喜びながらも、明らかにそこには立っていなかったという。もっとそのようなマーケティングを超えたところに立って、みんなを迎え入れていたという。その存在の大きさに、そもそも経済とか市場とか流通とか、そういうもはなぜあるのかというのを考えさせられてしまったいうのだ。

★結局、私たちが思考するというのは、「人間の存在について考える」ということにいつもつながっているということなのだと児浦先生は気づいたという。聖学院の授業のエッセンスは、思考力入試の対策講座であるミニPBL型授業に凝縮されている。つまり、それが、各教科の授業、多様なプロジェクトと響き合っているわけだ。テーマやトピックはそれぞれ違う。しかし、それは深みにおいて、「人間存在の理由」を問う響きで共鳴共振し合っているのであろう。

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2019年5月29日 (水)

21世紀教師の歩む道(03)リヨ・ホイットニー校長のカナダの「PBLの肝Driving Questionsの作り方」講座

★文化学園大学杉並のDD(ダブルディプロマ)コースは、コースと言えども、カナダのBC州の学校がそのまま入っているインターナショナルスクールそのものである。

★BC州の教育は、非常に質もレベルも高い。公立学校でありながら、IB(国際バカロレア)並みのカリキュラム。しかも、ダイナミックにアップデートされながら進化を続けている。

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★BC州からこのDDコースの校長に就任しているのがリヨ・ホイットニー先生。今回のカウンシル2時間目は、BC州の教育のコアであるPBLのコツの研修だった。ここでいうPBLは、Project based Learningで、21世紀型教育機構と波長が合う。それで、カナダのPBLと日本のPBLの違いに興味をもったリヨ先生は、今回快く参加してくださった。

★BC州の教育はグローバル市民性がベースだから、対話やコラボレーションをして、自発的に深い思考の道をたどっていくのは、ある意味当然なのである。

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★だから、PBLによって、コアコンピテンシーであるコミュニケーション、シンキング、コラボレーションを養うのも当たり前なのである。だれか特別な生徒が学ぶのではなく、このコアコンピテンシーはすべての生徒が学ぶのである。少し考えるとすぐにわかるが、このコアコンピテンシーは、すべての教科を越境できるだけではなく、民主主義の根幹であるからだ。

★だから、PBLを行うことは、それほど難しいことではないのが、カナダの知的文化ということだろう。

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★ただ、BC州では、よりよきPBLのために、教員研修は必須で、充実した研修はいかにしたら可能かと内省しながら取り組まれている。

★リヨ校長先生は、「PBLで、最も大切なのはドライビング・クエスチョン」だという。どのような問いを投げるかで、PBLが浅くなるも深くなるも決まるのである。

★ドライビング・クエスチョンの特徴は、オープン・エンドな問いであり、対話やコラボが必要であり、最終的には根源的な本質的な問いにたどりつくが、そこまでは、多様な身近なドライビング・クエスチョンで思考の道を歩んでいくのである。

★だから、自分で解く、挑戦心や好奇心、自己決定の意志など学びのモチベーションが内側から生まれてくるのである。

★ドライビングということばから、コントロールされるという意味合いも感じないわけではないが、リヨ校長先生は、それは全く違う、教師と生徒が、いっしょに運転しながら先に進み続けるという駆動力を大切にしているのだという。

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★そして、ルーブリックは、このドライビング・クエスチョン集が、重要な役割を果たしていると。生徒のどんなコンピテンシーを豊かにし、成長を促進していくのか、問いとルーブリック項目が合致した時、最高の力を発揮するという。

★したがって、ドライビング・クエスチョンをつくるミニPBLスタイルに移行した。チームでトピックを出し合いながら問いをつくる。その対話がある程度のところまで進んだら、今度はギャラリーウォークをして、気づいたコトや新たな問いを参加者が相互に追加していく。ここでもコラボレーションが行われている。

★このドライビング・クエスチョンにいたる小問のシークエンスの作り方は、3時間目の授業、児浦先生の「思考力入試」の問いの作り方に相当する。また、PBLの存在意義であるドライビング・クエスチョンを大切にするリヨ校長先生の考え方やマインドは、三田国際の田中潤教頭ともシンクロする。

★世間では、PBLとは何か、効果はあるのかを巡る議論はまだまだあるが、21世紀型教育機構の場合は、効果があることに疑念はなく、PBLを実施する存在理由そのものを共有していくことはいかにしたら可能かということが重要であるということが、改めて確認できた講義だった。

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池田靖章校長と立ち話

★昨日夕刻、偶然にも京都で、香里ヌヴェール学院中学校・高等学校校長池田靖章先生にお会いした。15分くらいの立ち話だったが、池田校長がビジョンに基づいて、教師の才能開発と組織開発に乗り出していることが明快に伝わってきた。

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★その日は、香里ヌベール学院のグループ校の小学校で学校説明会を行うために来ていたということだ。あとからそのグループ校の知人から聞くところによると、コースの丁寧な話はいうまでもないけれど、思春期を乗り越える時にどのように教師はサポートし、子供は成長していくかという体制の話と子どもの内面に迫る話で、新鮮だったという。

★中高時代は、生徒にとって疾風怒濤の青春期である。自分に悩み、友情に悩み、学力に悩み、多様な人間関係に悩み、笑顔の奥にフリーズした自分の表情をなんとか解氷しようとするそんな真っ只中にいる。しかし、それはあらゆる世界の痛みを自分ごとにし、そこから自分の殻をやぶり、仲間と共に、導師と共に、世界問題にぶつかっていく体力、知力、感性を身につけ、技術を鍛えている時を過ごしていることを示している。だからこそ、教師は、その殻の破れる音に耳を澄ましている。教師は殻を破る手伝いをするのではなく、生徒自身が自分で殻を破る環境を丁寧に創っていくのだ。池田校長はそう考えているだろう。

★今年6月、池田校長は、SGDsに関連するワークブックを発刊するが、同書は、そういう悩みを自分ごとに転化し、世界問題から自分を捉え直す大きな跳躍台になる。ヌヴェール科という探究活動で、先生方も使っていくが、このワークブックを編集する池田校長のマインドやビジョンに生徒が触れられるかどうかが重要。

★池田校長の廊下での生徒や教師との立ち話マインドセットは、その重要性に気づく有効な瞬間の永遠の場だろう。世界の痛みを身をもって知っている校長。これからの教育のリーダーシップは、そこから出発できる教師の存在が肝だろう。「21世紀」という時代は、学力という客観的な知識の習得に煩わされる時代から内面や思考という存在そのものを共に受け入れ開発していく時代への転換期ということなのかもしれない。

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2019年5月28日 (火)

21世紀教師の歩む道(02)田中潤先生の「21世紀型教育の市場の作り方」講座

★1時間目の講師は、三田国際の教頭田中潤先生。トピクは「21世紀型教育の市場の作り方」。市場というと、狭義のマーケティングを意味するとおもわれがちだが、田中先生は、広義のマーケティングの視角で語られる。つまり、商品をつくって、価格を決め、流通に流し、販売促進をするという一連の流れの話ではない。私立学校でいえば、カリキュラムをつくって、学費を決め、塾や情報誌にリリースし、塾訪問や合同説明会をするということと置き換えてよい。もちろん、それは重要だが、これは市場ができてからの話が中心。

★広義のマーケティングとは、そういう狭義のマーケティングが行える多様な関係総体=そのものやそのサービスを分かち合う信頼関係の総体を創り上げるという話なのだ。大げさに言えば、実は、「世界の創り方」ということ。

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★田中潤先生は、自分の最近こっている料理の話やダイエットのエピソードで会場をリラックスさせ、それが今日の話なのだと、異質のものをつなぐ意外性から話を始めた。参加者は、いきなり潤ワールドのトリコになった。つまり、この段階で、21世紀型教育の市場の作り方の極意は伝授されたわけである。

★いったい何が起こるのだろう?なぜそんなことを言うのだろう?といった?マークの数が頭の中いっぱいになるのである。興味と関心、好奇心、料理の作り方と市場の作り方という越境的な開放的精神。すべてはここから突き動かされる。


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★あのジョブスがApple社に返り咲いて、倒産寸前のApple社を救い現在のApple社の土台を築き上げたのだが、その最初につくったCMが、あの有名な“Think different”。商品の乱立で哲学が見失われていたApple社に、商品のプロモーションビデオではなく、Apple社の哲学、しかもそれは独りよがりではなく、マーケットのすべての参加者に共感を得るものを発信した。人と違う言動をする人を、人はクレージーと呼ぶ。しかし、私たちは、天才と呼ぼう。そして、それは自分の考えを深めとことん実行していくあなたもそうなのだ。そして、それは世界を変えることになるのだと。

★コンピュータは、一人一人が世界を変えることができるとワクワクしている人々に、そのメッセージは伝わったわけである。こうして、Apple社の製品が特別なものではなく、日常に欠かせない当たり前のものであるという存在感を生みだしたのだ。

★いまでは、Apple社は、ゴールデンサイクルといって、中心から外へ広がる「Why→How→What」という考え方に置き換えていて、わかりやすいアップル社の手法になっている。

★田中潤先生は、この市場を創る哲学の感覚を軽く紹介し、実際にチームで対話するミニPBL型の講義を開始した。21世紀型教育機構でも話題になっているSTEAMの中のAの働きや効果についてまず話し合い、それを実現するのにどうしているのか尋ねた。最後にどうしてAを行うのかと。

★つまり、ゴールデンサイクルの外側から中心に思考していくミニPBLで、すこんと根本的な市場の作り方の肝に行き着いたのである。

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★そこからは、この考え方を深める多角的な視点を説明され、それをどのように現場に落とし込んでいくのか、三田国際の思考コードなどで説明された。

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★そのうえで、狭義のマーケティングではなく、広義のマーケティングを行える組織開発の話に動いていった。最新のマーケティング理論や組織開発の理論を紹介しながら、これらの理論が実践できるPBLのエッセンスを伝授していった。結局は、PBLとは何かというより、なぜPBLなのかを問いたいということだったのだろう。

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★そして最後は、サムエル・ウルマンの「青春」の詩で締めくくった。

青春とは人生のある期間を言うのではなく心のありさまを言う。
優れた創造力、逞しき意志、炎ゆる情熱、怯えを退ける勇気、
安易を振り捨てる冒険心、これを青春という。
年を重ねただけで人は老いない。理想を失う時に初めて老いる。

★すてきなメッセージだ。ちなみに、これはリーダーズ・ダイジェストに掲載した時のもので、オリジナルの詩では、次の文言が入っていた。

ときには、20歳の青年よりも60歳の人に青春がある。

★還暦をとうに過ぎた私にもまだ「青春」はあるということだろう。「創造力」「意思」「勇気」「冒険心」「理想」これらは、みなPBLを象徴する言葉である。PBLとは歳を超え世代を超えて「青春」という愛と希望を生み出す学びなのであろう。

★私のみならず、世代の違うそれぞれの参加者に愛と希望が広がった講義だった。

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2019年5月27日 (月)

21世紀教師の歩む道(01)21世紀教師は教育ソフトパワーのリーダー

★5月26日(土)、富士見丘のペントハウスラウンジで「21世紀型教育機構 第2回グローバル教育カウンシル」が開催された。このカウンシルは、21世紀型教育機構の各加盟校の21世紀教師が集って、同機構のビジョンとその実践を共有し、新たな教育ソフトパワーを創発することを目的としている。

★1時間目のホームルームと5つの授業という学校スタイルで、ミニPBL型講演。丸一日の研究会だったが、あっという間に時間が過ぎた。

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★1時間目は、21世紀型教育機構の理事長吉田晋先生から、「21世紀教師のミッション」について講演があった。吉田先生は、第6期・第7期の大学入試改革の審議をスタートした中教審メンバーの1人。日本私立中学高等学校連合会会長として、久しい間、私立学校の教育振興のために奔走し、同時に公立学校の教育の行方も文科省には要望書などを送る活動をしてきた。

★したがって、今回の大学入試改革という日本の教育全体に影響を与えるメンバーとして、中教審メンバーの任期終了後も、様々なワーキンググループの委員を歴任。昨年、文部科学大臣表彰を受賞している。

★今回は、まず、いくつか文科省に意見や要望を送っていることについて説明があった。2020年大学入試改革で、いまだに議論が続いている英語の民間試験導入を巡る問題、税金で成り立っている国立大学の間で、民間試験の活用方針がまとまりきれないことによる、高校生の進路選択の準備への支障などの問題、離島の高校生の民間試験の活用を巡る問題などに触れた。

★とにかく、高2生は、今年の11月ごろからはじまるセンターが発行する共通ID登録をしなければ、「大学入試英語成績提供システム」を活用できない。今のところこのシステムを利用しなくてもよいと発表している大学が、2020年になって、やはり利用することにするなどとなると、志望していたのに受験資格を取得できない可能性もある。もちろん、対応するだろうが、大学進学準備に集中しなければならない時期に、手続き的な手順に関する不安を残したままというのは教育行政やそれを支援する民間試験団体も責任を持つ必要があるのだ。

★だから、吉田先生は、文科省には要望書を出すだけではなく、ワーキンググループの会議の中で、歯に衣着せぬ議論をしているのである。

★また広域性通信制高校のともすれば、「卒業資格」を取ることが目的になり、教育が空洞化している学校もあるなど実態調査し、そのような学校の場合、通信制高校の教育の仕方の修正についても文科省と議論している。

★いずれにも、私立学校のみならず、公立学校にも及ぶ日本全体の範囲で、生徒1人ひとりに正しい教育が行われるよう教育貢献を果たしている。

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★そして、このような教育の政策論や目的と手段の転倒は、今すぐには是正されない。したがって、このような過渡期にあって、私立学校の教師は、特に21世紀型教育機構の加盟校の教師は、この混乱ともいうべき事態に、動揺することなく、信頼性・正当性ある教育を実行していこうと吉田先生は語る。

★そして、そのためには、知識・理解という低次思考でとどまる授業をするのではなく、論理的で創造的な思考力を基礎とするPBL型授業の実践の重要性を指摘する。世界の根本問題を解決し、未来を創っていける人材が成長する授業システムを21世紀教師として開発するソフトパワーを鍛えて欲しいのだと高らかに謳った。

 

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2019年5月24日 (金)

幼児の学びに思考の種

★最近、幼稚園の先生方と対話す機会が時々ある。幼稚園の先生方は、子供たちの生命を守るために、想像以上の気遣い力を発揮している。1時間いっしょにいただけで、こちらは精神的にも筋力的にもくたくたになる。予測不能な園児の動きに振り回されるからだ。

★しかし、よく見ていると、幼稚園の先生方は、1人ひとりの行動をよく観察し、一見予測不能だと思われる子供たちの言動をちゃんと予測できるようになっている。どこまでは手を放していても大丈夫なのか、一人一人の言動範囲を把握している。もちろん、思い込みという場合もあるから、複数態勢で、見守っている。

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★子供たちは自由の範囲を超えると、すぐに身体的危機に遭遇するから、絶妙のポイントで、声掛かけをしたり、さあ手をつなごうねと行動をとる。手をつなぐことは、絆の確認という心地よさを子供たちは先に体験しているから、そこは危ないからダメだよと言われているのではなく、あなたが大事だよと言われていると体感しているのだ。

★もちろん、ギリギリの身体にかかわる失敗もしなければ、何が危険かわからないから、守るタイミングは実に難しい。あまり先回りしすぎると、規律的雰囲気が蔓延し、幼稚園のおもしろさがなくなる。それでは、子供たちの自由な発想が生まれてこない。

★そういう意味では、砂場はすてきな学びの場である。もちろん、砂場を衛生的に保つという技術的なことは前提だが、そういう安全な砂場では、子供たちは、アーティストだし、建築家だし、ランドスケープのデザイナーだし、見立てをしながら、日常的な生活を再現したりしている。もちろん、そんな意識はないだろうが。

★同時に、砂場で遊ぶと、靴の中に砂が入り、なかなか厄介なことになるというとことを身を持って実感する。すると、こんどは裸足になって砂場に入ることを学ぶ。ところが、砂場から出て、幼稚園の教室に入ろうとすると、砂が足や手にこびりついている。砂場に水まで持ち込むから。

★そうすると、今度は水道で、砂をキレイにおとして、タオルで拭いて、教室に戻るというコトになる。そういう子供たちの行動をじっくり観察し、砂場に危険な物がないか衛生か、管理しながら、子供には自由な行動ができるようにしておく。

★なんて幼稚園の先生は、たいへんなのか。労力というより、創意工夫の連続。創造的な仕事が幼稚園の先生方の仕事であることを実感している最近なのである。

★それにしても、子供たちは、雨が降るとグラウンドに一か所水が溜まるところがあるのを発見するのは得意だ。最近では、砂場ではなく、そこを砂場の替わりにしている。砂を固めるだけでに水を使うのではなく、水たまりをあえてつくって、何を創っているのかわからないけれど、土を柔らくして、掘り続けている。

★ひたすら、協力して、没入して遊んでいるのだ。

★その幼稚園は、モンテッソーリの教育も導入しているから、様々な道具で、認知や感性を育む環境があって、そこでも子供たちの言動はおもしろいのだが、この本来砂場でない場所を、砂場として「同化」し、砂場以上の機能を見つけて「適用」を拡大し、「創造」へつなげていく。

★限られた条件の中で創意工夫する創造性も、限られた条件を超えていく創造性も、両方とも楽しんでいる様子だ。

★そんな遊びの中で、ころぶ子供がいたら、大丈夫?と手をとって起こす倫理性もそこでは垣間見ることができる。

★幼稚園の中では、子供たちの未来の多様な種が生まれている。もし、幼児期にこの多様な体験を通過しなかったら、どうなるのだろう。

★最近、幼児期の教育の重要性が唱えられているが、その意図がわかるような気がする。

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八雲学園 世界を世界とともに創る。

★21日に、中国から「北京市青少年文芸交流団」の高校1・2年生12名と引率の先生3名が八雲学園に来校した。八雲学園は、RS(ラウンドスクエア)に加盟して以来、国際交流の機会が増えているから、てっきりRSのつながりかと思った。しかし、そうではなかった。

★高等部長菅原先生によると、「北京市青少年文芸交流団は、北京市人民対外友好協会が組織した団体。日中青少年交流の促進、両国の相互理解の増進、友好関係を深めるなどの目的を有しているという。今回東京都日中友好協会の招待を受け、20日から25日かけて訪日し、交流活動を行う」ということだ。

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★世界は、グローバル社会になって、国家レベルでは、影の部分である懸念材料が増えているような気がするが、自治体や都市どうしの関係では、光を放つ機会も見え隠れする。国際社会からグローバル社会にシフトして、影ばかりが話題になるが、こうした光の部分が、個人単位、都市単位、学校単位で起きている。

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(写真提供は、菅原先生)

★「草の根」活動はとても大切であるが、もしかしたらこの表現は、国際社会だから使われた言葉かもしれない。というのも、今回のような活動は「草の根」活動のレベルとしては、大きすぎる。国際社会では、出口のないどうしようもない閉塞感がどこかあった。グローバル社会も同じ構造のように見える。いやもっとその閉塞感は大きい感じがする。しかし、出口がないという感じはしない。一人の人間、自治体などが光の世界に変えようと動き出せば、そこに新しい世界の突破口が開く可能性は大きい。

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★今回のような八雲学園の動きはそれを示唆しているのではないだろうか。いずれにしても、教育と芸術の交流が世界を動かしていく時代になりつつある。時代の要請に耳を傾け、いちはやくそれを実践していく先進的な八雲学園だからこそ、このように俊敏に動けるのであろう。

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★イエール大学との芸術国際交流といい、RSの多様なグローバルな交流といい、今回のようなアジアとの交流の先駆け的な活動といい、八雲学園の生徒は、「世界」の人々と共に学びながら、「世界」を動かしていく影響力を自分の内なる核の「世界」としている。この「世界」の多重構造を実感できる学校。それが八雲学園である。そしてその象徴が近藤校長その人であろう。近藤校長は、いつも「国に頼ることを考えてはいけない。一身独立することがまず大事だ。結果的に国を助けることにはなるだろうが、一身独立もしていないで、頼るのは、やめたほうがよい」と語っている。

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★気概と実行力とそれを達成する高度な技術の持ち主である。スーパープラグマティストなのである。八雲学園が希望の私学であるのも十分に納得できるであろう。

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21世紀私学人(04) 児浦良裕先生 世界を創る才能開発リーダー 根源的問いを語り継ぐ

★聖学院の児浦良裕先生は、数学の教師であり、21教育企画部長であり、広報部長であり、国際部長である。そして、21世紀型教育機構の21世紀型教育研究センターのリーダーである。スーパーコーディネーターであると同時に、学内学外の多くの知を巻き込み、あらゆる局面で化学反応を生み出していく知のジェネレーターでもある。

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★先日、「グローバル教育カウンシル」(参加者は、21世紀型教育機構加盟校の教師)の打ち合わせをしたが、これだけの多忙な中で、国際部長として、インドネシアリーサーチに行ってきたときの話をお聞きした。

★そのときの児浦先生は、少し目が潤んでいた。これだけの仕事を結び付け広げ深めていくには、人との出遭いの中でたびかさなる感動体験があるからなのだということがわかった。

★そして、そのとき共感的コミュニケーションをするのであるが、児浦先生のその共感は、人知を超える体験あるいは超自然的体験を目の前でしている人との対話の中ではじめて生まれていたということに気づいた。

★しかも、その共感は、同感ではない。むしろ自分には考えたこともない想像したこともない経験をしている人との出会いであり、自分ではそう簡単にはできそうにない、しかしやらねばならないという問いかけを引き受けざるを得ないという必然性を感じるという意味で共感している。

★今度のカウンシルのテーマは、「21世紀型教師~教師も生徒も3T を有したクリエイティブ人材になるために (3T Talent, Technology, Tolerance)」であるが、3Tが生まれ出ずる根源的な問いかけが、いかにして自身の脳髄を走り、心身を駆け回るのかが肝なのであると児浦先生は捉えている。

★その根源的な問いかけは、聖学院の場合は、教師のみならず生徒も共有するわけだが、それは入学試験である「思考力入試」のときから始まっているという。

★入学試験はこれから根源的な問いかけを自分事として引き受けるという約束の入口である。共に6年間その根源的問いかけの解を求めていこうということなのであり、単なる学力選抜テストではない。

★児浦先生は、入学試験を、20世紀社会が積み上げてきたマーケティングの手法でとらえることはしない。しかも、根源的な問いかけの解は、一生かけても解はでない。その問いかけを求めるには、様々な経験をする過程を通っていかざるを得ない。

★その過程は関門の連続であるが、だからこそ、通過するたびに、仲間が増え、導師に出遭い、自分の成長を実感できる。もちろん、挫折することも度々だが、仲間と導師の支えに、涙しながら喜びながら、回復していく。その過程の中でこそ3Tというアイテムはパワフルになっていく。

★聖学院においては、それは教師も生徒も同じなのである。終わりなき根源的問いかけ。ビッグバン以前から存在する宇宙の真理という謎。それがあるから人間は生きることができる。存在することができる。そして、そのエネルギー態を次代につなぐことができる。

★その根源的な問いとは何か?それは、今後児浦先生があらゆるところで語り継いでいく。まずは、21世紀型教育研究センターの一連の研究会(年3回実施予定。そのうち秋に行うものは、一般公開)を楽しみにしている。

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2019年5月23日 (木)

順天 マトリクス型組織開発へ

★今や21世紀型教育の実施は当たり前となり、全国の私立中高一貫校で「21世紀型教育」あるいはそれに準ずる名称がパンフレットを覆っている。しかしながら、その内容は、様々であり、その質のよしあしは、受験生・保護者には見分けがつかない。

★たしかに、アクティブラーニングとかPBLはどこでもやっている画像や動画を見ることができるし、英語も四技能に力を入れたり、海外研修をたくさん実施していたり、タブレットやラップトップを活用したり、STEAM教育を標榜したりしている。

★しかし、アクティブラーニングやPBLをやっている教師の割合は少なかったり、英語もCEFRレベルでB1ぐらいしかいっていなかったり、海外研修も語学研修どまりだったり、ICTも調べ学習ぐらいに終始していたり、STEAM教育も理科実験の延長ぐらいだったりと、実際には部分的な21世紀型教育というところが、まだまだ多いのである。

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★そうはいっても、学校説明会やオープンスクールに足を運んでも、ショータイムであることは否めないわけであるから、その実態やクオリティはわかりにくい。

★ところが、学校説明会でハッと気づくことができるトーク内容がある。それは21世紀型教育には21世紀型組織開発をということが推察できる話がされているかどうかなのだ。内製的教員研修の話を聞くことができるかどうか。20世紀型教育型組織における研修は、外部講師を招いて講演を聞くだけというものがほとんど。しかし、21世紀型教育組織の研修は、ファシリテータやジェネレーターは、学内の教師が持ち回りでできてしまうものなのである。

★20世紀型教育は、教科をベースにした縦割りでツリー構造の校務分掌という組織で実施されてきた。この組織がそのままで、21世紀型教育を行っても、やっている教師はやっているで終わってしまう。そして、一人一人の教師が仕事を抱え込み、全体としてのビジョンやバリューは共有されないから、進むのは、伝統的なルーチンワークだけだ。これでは、21世紀型教育の要であり、2007年の改正学校教育法で条文化された学力の三要素×創造的思考が、養われるはずがない。

★そこで、21世紀型教育を推進している順天の学校長長塚篤夫先生は、約50の校務分掌以外にプロジェクトチームをつくった。しかも、そのプロジェクトチームも約50あるのだ。20世紀型教育の改善点を解決するプロジェクトチームを1つか2つ作ったという程度ではないのである。

★学校運営をするルーチンワークも必要であるが、ここをできるだけスッキリ運営し、クリエイティブワークも教師一人一人ができるマトリクス型組織開発に着手したということであろう。

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★マトリクス型は機能的でないという見識者もいるが、仕事の数が一握りの教師に集中する状態をなんとかしなければならないのが日本の学校の問題である。そして、それがなぜ起こるのかというとルーチンワークをはみでた流動的な仕事があとからあとから湧いてくるからだ。

★決められた商品を製造しているわけではないから、これは避けられない。生徒の言動は無限であるからだ。しかし、長塚校長の発想の転換の真骨頂は、この避けられないを事態をクリエイティブワークに転換しようというところにあったのではないか。

★今回、そのプロジェクトの1つである「学習評価プロジェクト」に誘われた。SGHを中心とするプロジェクト学習で培ってきたルーブリックを教科全体に浸透させるにはいかにしたら可能か?eポートフォリオの動きや2024年以降の大学入試改革の本格化が目前に迫っている。一般入試やAO入試、推薦入試の名称ががらりと変わる。名称が変わることによって、中身も変わる。ポートフォリオの活用が始まるわけだ。

★そのとき、ポートフォリオは、ルーブリックをベースに生徒も教師も記入せざるを得なくなる。そういった近未来の変化に対し順天はどんな準備をするのか、そのビジョンを長塚校長はプロジェクトメンバーと共有し、ルーブリックのアップデートへのクリエイティブワークに入っていた。

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★クリエイティブワークの基本は、リサーチから始まる。だから、昨今「思考コード」というある意味メタルーブリックが広がっているが、その考え方をまずは調べてみようということだったのだと思う。それで、私が誘われたのだろう。

★「思考コード」の考え方を語るよりも、すでにできあがっている思考コードがどうやって作られたのかその過程を90分で追体験するワークショップを行った。その既存の思考コードのよしあしを議論するよりも、未来型の議論をということだったので、同じような作り方の過程の中で、プロジェクトの先生方だったら、どう作るのかを体験したほうが、考え方を自分たちでつくることができるからである。

★ワークショップの過程で、2次元にメタルーブリック的なものを描くと、どうしても「要素還元主義的」になる。そこをどうするかだという議論になったり、描けないのだから描けないというデザインをするチームまで出現した。

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★描けないというのは、20世紀型教育における思考は、硬い幾何の平面で置き換えることができるものだったが、クラインの壺ではないが、21世紀型教育的発想は、柔らかい幾何に変換するしかない。しかしそれはもはやn次元だから、そう簡単ではないと。トポロジーとか、アフィン変換とか・・・・。

★自由で創造的な発想があふれでた。そのうえで、ワークショップが終わるや否や、実務的なミーティングにすぐにスイッチが切り替わっている姿も、理想と現実をどう平衡させるかということなのだろう。

★現実優先でも、理想至上主義でもなく、その両者の平衡感覚を互いに対話できる「システム思考」こそが21世紀型教育を生み出す順天の新しい組織開発の肝なのだと感じいった。

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静岡聖光学院の新パンフレット 飛び出す生徒力!あふれる教育力!

★静岡聖光学院の新パンフレットを頂いた。表紙の「君はどう生きるか」という問いが脳髄を走る。そして開くや世界が輝く。イメージが広がる。ページを開いていくと、生徒の力がみなぎり、教師のソフトパワーがあふれ、教育デザイン力が知を描く姿が飛び出してくる。

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★1985年に日本で公開された映画「アマデウス」の1シーンを思い出す。神の寵愛を受けた天才ヴォルフガン・アマデウス・モーツアルトに嫉妬しライバル心を燃やし続けた宮廷音楽家サリエリのシーンだ。あるときサリエリは密かにモーツアルトの楽譜を見た。とその瞬間、その楽譜からあのモーツアルトの完璧な音楽が彼の脳髄を支配した。

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★サリエリは、感動せざるを得なかった。どうしようもなくモーツアルトを世界で最も理解する自分の存在に浸ってしまた。がしかし、映画はさらに嫉妬心がヒートアップするのだった。そこは、静岡聖光学院のパンフレットとは違う。開くや、学びのモチベーション、学院生活の期待が爆発するからだ。

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★ただ、モーツアルトの楽譜と静岡聖光学院のパンフレットは、見つめるや否や、イマジネーションが膨らむという点では全く同じである。

★6月8日、そのパンフレットを手に取り、そのイメージ通りの学校であることを体験してみてはいかがだろうか。

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2019年5月21日 (火)

2019年東京私立中学合同相談会 in 国際フォーラム(8)変化の生み方

★今回の合同相談会は、175校の相談ブース以外にも一般教育情報・入試情報・学校選択情報も得られるブースも幾つも設置されていた。そんな中で、主催者側が、この合同相談会の存在意義あるいはアイデンティティを語るコーナーもあった。

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★主催者である一般財団法人東京私立中学高等学校協会の副会長である平方邦行先生(工学院大学附属中高校長)と同副会長長塚篤夫先生(順天学校長)によるセミナーがそれである。お二人とも、今回の文科省の大学入試改革の様々なワーキンググループの私学側の委員としてずっとかかわっている。まさに改革渦中にいる。

★したがって、国がどのように教育を変えようとしているのか身をもって理解しているし、どこで変化が停滞しているのかも了解している。そして、その停滞や変化への妥協に対し、国と激論を交わす場合もしばしばである。

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★そのようなことが前提になっているから、日本の教育改革について臨場感あるトークとなり、満席の会場はいっせいに前のめりになっていた。

★お二人とも、政治経済の変化とグローバリゼーションの流れと教育改革の関係を丁寧かつアクロバティックに紐解きながらトークをしていったから、今回の改革が時代の要請に基づいているものであり、変化せざるを得ない理由を語った。国の改革はいつも完ぺきではないが、子供の未来を考えたとき、私立学校は変化を牽引するなミッションがある。≪私学の系譜≫のアイデンティティを高らかに謳った。

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★ただ、セミナーのコンセプトは同じだったが、変化の起点や変化の項目については、きちんと違いを明確にして語っていた。だから両者の話を聞くと、具体的な変化の全貌がわかるようになっていた。

★平方先生は、1971年の四六答申からひも解いていった。ニクソンショックによってドルの変動相場制が開かれた重要な時期だし、すでにその経済進化のダイナミクスを予期し同時にリスクを議論するためにあのダボス会議が生まれた年である。グローバリゼーションの出発点と考えてもよいかもしれない。

★議論はあるが、四六答申は、教育の自由化、個人の尊重を開く道を拓いたわけだ。しかし、四六答申は、警鐘を鳴らしはしたが、学歴社会の進行はますますパワフルになっていった。改革は、リスクも抱えるわけだが、自由化とか個性化は、ある意味新自由主義にとっては追い風になってしまったわけである。

★しかも、1989年にはベルリンの壁は崩壊し、グローバリゼーションは膨張することになったが、同時にバブルははじけ、9.11をはじめとする世界同時テロが拡散し、IT革命の紆余曲折、金融資本主義の紆余曲折はすさまじく、イノベーション、イノベーション、そしてイノベーションが叫ばれるAI社会突入の時代になってしまった。

★予定調和的な限られた知識の習得とその活用だけでは、未来をサバイブする力としてはあまりに不足していることは明らかである。そこで、どんな教育、どんな授業が必要なのか、平方先生は工学院の先進事例も交えながら語った。そのとき「思考コード」というブルーム型のタキソノミーの活用が重要であることも語った。論理的思考では、AからBには行けるが、創造的思考では、Aから多様な場所に飛んでいける。たしかにそういう時代だと会場は納得の様子だった。

★長塚先生は、2007年に改正された学校教育法第30条を起点に変化を語っていった。第30条2項にはこうある。「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない。」

★つまり、今回の大学入試改革に伴う学習指導要領の改訂のコンセプトである学力の3要素は、すでにここから始まっているのだと。そして、この学力の3要素は、これまでの学力観とは違って、資質能力論にシフトしたのだと。つまり、コンピテンシーという考え方に移行したというコトをコアビジョンとして語った。

★平方先生は授業の変化について語り、長塚先生はそこで養われるコンピテンシーについて語ったわけである。プロジェクト型学習になることによって、タキソノミーとコンピテンシーの相関である「思考コード」をもとに、「ルーブリック」が展開することで、2024年以降の大学入試は2年後の移行措置的に行われる大学入試改革とはかなり違う様相を呈することになると。

★つまり、現在の中学受験生が大学入試に直面するころには、大学入試改革はもっと大胆になっているのだと。ロ―ドマップをかなり具体的に描いた。

★そのロードマップはいまここからはじまっていて、平方先生も長塚先生も、そのための準備をご自身の経営する学校ですでに実践し、より良き未来になるように文科省に提言を投げかけている日々なのである。

★しかし、大事なことは大学入試のための授業改革でも、大学入試のためのルーブリック活用でもない。子供たち一人一人が世界を変える叡智と才能を開花する準備の足場であり、ソフトパワーを生み出すクライテリアであるということなのだ。当然2030年には、大学入試は教科入試でもAO入試でもなくなる。いったいどんな世界が2024年から2030年には広がるのだろう。自己変容を恐れることないGrowth Mindsetの教育へ。会場は異次元の世界の映像を共有したのだった。

 

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2019年5月20日 (月)

2019年東京私立中学合同相談会 in 国際フォーラム(7)新しい風が吹く聖地

★今年開校したドルトン東京学園。生徒募集は成功して大人気。学費が高くても、集まる魅力は何だろう?合同相談会のブースには、たくさん受験生・保護者が集まっていた。

★連休明けの海外帰国生対象の説明会もなかなか好評だったと聞き及ぶ。ニューヨークやワシントンで学校の教師とは質感が違うジェントルマンがドルトンの教育を語る。その豊かな知恵とものごしにすっかり魅了されたようだったということだ。

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★いすれにしても同校関係者は、今後は尖った教育を創り上げていくというコトだった。何せ、大正自由教育で我が国に紹介されたドルトン教育は、軍事教育にはまったく相反するもので、そういう意味では、なかなか大変だったようだ。IBやラウンドスクエアを創設したクルト・ハーンも同時期に同じ憂き目にあった。

★それゆえ、尖ったというのは、コントロールから自由で、新しいものや世界を生み出す才能が開花するような教育を行うということだろう。当然学習指導要領など気にしないだろうし、社会科や理科なども知識を憶えるようなことはするはずがないだろう。

★民主的な法律以上の細かい校則などもないはずだ。自由と協働という理念を全うするのだからわくわくする。しかし、どんな教師を集めたのだろうか?「自由」と「協働」という矛盾を抱え込む教育を実践する教師というのはどこから集まってきたのだろう。

★自我を捨て、こだわりを捨て、世のしがらみを捨て、ただひたすら生徒の自由な精神に奉仕する教師。そして、その自由が協働によってますます真理として成長する。

★デューイのヘーゲリアンウェイの自由の弁証法とモンテソッリーの型と時間制約が生み出す自由の生成。そういう根源的な人間存在を支える自由を生み出すことは、いかにしたら可能なのだろうか。

★入試問題も、文科省の期待する適性検査のスタイルではないだろうし、塾予備校が作る模擬試験型でもないだろう。どんな問題だったのか。じつに興味深い。いずれ、公開されるだろうから、楽しみである。

★とにかく、日本の今までのあたかもカント的な自律=規律を重視する教育に、それをぶち壊す自由の弁証法を対峙していくことになると推察するが、それはいまだかつてない偉業となろう。

★それにしても、成城学園前駅からすぐ近くのロケーションにある。そもそも成城学園は、創設当初ドルトンの教育を実施していたらしい。桐朋女子―ドルトン東京学園―成城学園が集積するこの世田谷区隣接エリアは、国分寺崖線に含まれるのだとしたら、それはICUにまで延びる。国分寺崖線には、まだまだ私立中高一貫校がたくさんある。再び教育の聖地が現れるかもしれない。大いに期待したい。
   

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2019年東京私立中学合同相談会 in 国際フォーラム(6)多元世界

★その学校に行くとそこには多元的世界が広がっているという学校がある。八雲学園、工学院、順天という学校がそうだ。多元的世界は、2つの側面がある。それは、多元的経験世界と多元的認知世界である。そしてこの2つの世界の比率のバランスは学校によって違う。

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★八雲学園は、強烈な多元的経験世界を重視する。だからこそ、極限の経験を教育に取り入れているラウンドスクエアという世界のエスタブリッシュスクールの仲間として迎え入れられた。ラウンドスクエアを創るのに貢献したクルト・ハーンは、あのIB(国際バカロレア)構築にも尽力しているが、氏の経験主義が込められたプログラムはCASであろう。

★クルト・ハーン自身IB1号店ともいうべきアトランティック・カレッジを創設しているが、そこでのサービス(奉仕)活動の1つに、海難救助がある。岸壁にたたずむ古城をキャンパスにしているから、嵐の時に出動しやすい環境にあるからだろう。

★それにしても、自らの命をかけてまでの奉仕経験こそが教育だというのは、極端ではないかと私たちは思うかもしれない。しかし、クルト・ハーン自身がナチスによって投獄されても、自らの教育プログラムを軍事育成用に使わせなかったのは、命がけの教育を行っていたということだろう。

★私立学校の教育は命がけという話は、しかし、私学の教員は身に染みて理解できることだろう。八雲学園の教師は、そのことを真に一番理解している。先生方が命をはって生徒を常に見守っている。それでなければ、世界を駆け巡るあれだけの経験を学ぶことは生徒はできないだろう。

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★工学院も、実に多元的経験世界に満ちているが、同時に「思考コード」という独自の知性観もデザインし、日常の学園生活や授業そのものに浸透させている。したがって、多元的経験世界と多元的認知世界のバランスはどちらかというと多元的認知世界に偏るが、今工学院もラウンドスクエア加盟に向けての準備をしている。やがて、2つの世界のバランスは1対1になるだろう。

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★順天も、SGH指定校というコトもあり、多元的経験世界が広がっている。そして、その経験を広げ深めていく生徒の能力を、コンピテンシーに着目してルーブリックとして創っている。したがって、よりいっそう多元的経験世界が豊かになっているが、工学院のような思考コードを作成するプロジェクトもたちあがり、2つの世界の平衡が創り出せるように動いている。

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2019年東京私立中学合同相談会 in 国際フォーラム(5)風格

★175校も集結していると、風格のある学校がいくつか見えてくる。その一つが麻布である。中学入試の教養人の憧れの星である。今もその輝きは失っていない。共感だとか、協調だとか、貢献だとか、声高に叫ばれている今日、それらの甘い香りが、自由を脅かすリスクのあることを鋭く見抜きながら、理性的なものは現実的であり、現実的なものでは理性的であるというロゴを論集の表紙を飾りながら歩み続けている。

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★そして三田国際、2015年の校名変更、共学化、21世紀型教育の実施から、いきなり生徒募集成功、偏差値右肩上がりで、はやくもレジェンドになっているが、その根っこにはフッサール、ヴィトゲンシュタイン、レヴィ・ストロースを現代的構成主義に置き換えることができる実践的知恵者が教育をプロデュースしている。世にはびこるマーケティングの概説書など歯牙にもかけない戦略家がいる。同校ブースはあふれかえっていた。

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★そして、海城。いわゆる御三家を追撃する勢いであるが、プロジェクトアドベンチャー、ドラマエデュケーション、帰国生への門戸開放、パーソナライズドなICT活用の充実など、教育イノベーションも忘れない。麻布同様、分厚い同窓力が、教育を支えてもいる。

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★海城学園は、その長い歴史の中で、軍国主義の波を超え、学歴社会の波を超え、三度新しい社会創造人材を育成する魅力的な環境をデザインしている。第三の波は、海城自身が生み出すのだといわんばかりの情熱が、ブースから湧き出ていた。


 

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2019年東京私立中学合同相談会 in 国際フォーラム(4)聖なる次元と英語

★フォーラムの内と外を歩きながらふと気づいたコトがある。それは、ダライ・ラマの精神を受容する学校があること。曹洞宗の世田谷学園は、ダライ・ラマが何度も訪れているのは有名だ。東大を始め、大学合格実績が良好なのも、有名だが、知の光を育成することは、世界平和のために必要である。20世紀末から、NZ留学や英語にも力をいれてきたのは、男子校としても俊敏な動きだった。

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★算数一科目入試など、入試改革もいつも時の流れに敏感だ。したがって、生徒募集も好調。フォーラムでは、来春も期待できる雰囲気だった。

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★6年前だったか、八雲学園にも、ダライ・ラマは、お忍びで突然現れた。聖なる祝福は、今も八雲学園を包み、それ以来、奇跡が次々と起こっている。その年の卒業生も見事な成果をあげたが、そのOGの力が再び学園を大いに支えることになっているのもその一つ。訪れたその日、ダライ・ラマは英語で世界とつながることができる効用を語った。当時も、英語教育と言えば、八雲学園だったが、その時以来、その教育に拍車がかかり、別次元の英語教育になっている。

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★かえつ有明は、毎年東大もはいるし難関大学の実績もよい。帰国生にも人気ナンバー1。直接ダライ・ラマ法王は訪れていないが、その弟子であるかのごとく精神を継承している中核メンバーが、共感的コミュニケーションをベースにディープ・ラーニングを学内に浸透させている。

★その柔らかいコミュニケーション環境の中で、生徒のマインドは、内側から光を放つ。中高時代から社会貢献活動が盛んな学校だ。

★キリスト教以外に、アジアの聖なる次元も学内に浸透させることができるマインドの多様性を感じられるのは、私立学校ならではの教育だ。

 

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2019年5月19日 (日)

2019年東京私立中学合同相談会 in 国際フォーラム(3)異次元

★今年、東京外国語大学入学式で、ある新入生代表が挨拶した。トップ合格で入学したその新入生代表の1人は、文化学園大学杉並のDD(ダブルディプロマ)コースの卒業生である。もしもこのDDコースの授業を覗いたら、そのときこう気づくはずである。日本一の授業がここにあると。

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★しかし、まだまだ多くの人はそのことに気づいていない。しかし、昨年このコースの一期生が卒業したが、驚くような大学実績がでている。ただし、少人数がゆえに、見識者しか気づかない。

★同校も、このDDコースと中高一貫コースをはじめとする他のコースとのシナジー効果を生むまで、大きなPRはまだしていない。

★しかしたしかに、このDDコースはIBスクールも驚くほどの教育力なのである。なんといっても、カナダBC州の教育がそのまま実施されているのだから。

★BC州の教育は、公立学校用の教育なのに、日本の教育をはるかに超えている。日本の私立学校でなければ、受け入れられないほどの教養と21世紀スキルとICT力ともちろんハイレベルな英語力が丸ごとコンパクトに一つの授業に収納されているだ。そして、私立学校でなければ受け入れられない決定的な理由は、グローバル市民教育という点なのだ。

★日本の公立学校は、どんなに英語のスキルアップしたところで、学校組織がグローバル市民になっていない。垂直的抑圧構造の組織が基本だからだ。どんなに学習指導要領をアップデートしようと、文科省―教育員会―校長といったビューロクラティックな枠組みを変えることは、今のところ難しいだろう。それがゆえに、優秀な教師が、私立にシフトする動きがどんどん生まれている。

★文化学園大学杉並自身、DDコースに学んでいるが、他の学校も学ぶ時がやがてくるだろう。ただし、だからといって、見学させてくださいという学校が殺到したら文化学園大学杉並は困るだろう。見学者もTTP(徹底的にパクる)は当たり前だという姿勢で訪れるのはやめたほうがよい。

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2019年東京私立中学合同相談会 in 国際フォーラム(2)異変

★中学入試の受験生や保護者のキャラクターが明らかに変わりつつある。フォーラム内を歩いていると、幾人かの見識者と出遭うが、二極化ではなく、2つのタイプに分かれつつあるねということで話が一致する。かつては、偏差値の高低という意味で二極化だった。しかし、今は偏差値を基準に選択するタイプとグローバルな環境を基準に選択するタイプ(国際理解教育は英語とか異文化理解が中心だが、グローバルな環境とは、海外のエスタブリッシュスクールと同質の環境というコトを示唆する)の2つが併存するということ。

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★聖学院は、思考力(その中でも数学的思考のソフトパワーの強化)とグローバルな教育環境を今年もさらにアップデートしている。清水副校長先生は、ニューヨークやシカゴ、ワシントンなどで海外帰国生対象の説明会から帰国したばかりだ。現地校の生徒が、海外での学校生活と同質の環境を求めると共に、日本語などのケアを求めるが、一人一人に応じた丁寧な対応をする聖学院に個別相談が黒山の人だかりとなっていたと聞き及ぶ。

★帰国生の行動特徴が、鮮明に中学入試の選択動向に反映しているのがなんともおもしろい。帰国生の中にも、従来通り偏差値を基準に選ぶタイプもいるが、そもそも偏差値という眼鏡をもっていない帰国生もいて、教育の質と自分のアイデンティティと共感できるかどうかを基準に選ぶタイプがいる。最近は、後者も増えてきたのだ。

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★したがって、開場されるや否やグローバルな教育環境を求めて聖学院のブースに駆けつける受験生・保護者も多かった。

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★そして斜め迎えの聖ドミニコ学園のブースにも、同校が今年開設したインターナショナルクラスについて話を聞きたいという受験生・保護者がやってきていた。すでに塾説で授業見学が行われて、その反響はすさまじい。

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★また、八王子の工学院のブースにも参加者が集まっていた。国際フォーラムに八王子エリアの学校の相談会に参加するというのは、ある意味珍しい。たしかに、新宿からシャトルバスに乗って登校できるのだが、この話題がそんなに広まっているわけではない。

★広報部長の水川先生によると、国際フォーラムでは、ハイブリッドインタークラスの情報を収集しに来られる帰国生がどうしても多くなりますということだ。

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★富士見丘学園も同様のことが起こっている。帰国生にしてみたら、世界大学ランキング100位内の大学に実績を出している富士見丘学園は、かなりの魅力であるという評判が海外で轟き始めている。

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2019年東京私立中学合同相談会 in 国際フォーラム(1)

★本日19日(日)、国際フォーラムで「2019年東京私立中学合同相談会」が開催され、盛会の内に幕を閉じた。10時開場直前、主催者の一般財団法人東京私立中学高等学校協会会長の近藤先生から開会の挨拶があった。迷うことなく私立学校が前へ前へと進むことが、子供たちの未来を、日本の未来を、そして世界の未来をカタチ創ることになるという確信を語られた。

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★まだ開場の時間になる前から長蛇の列が続いた。会場内は、受験生、保護者、教師の熱気があふれた。今回初めて参加するという保護者もいたが、ずいぶん昨年からのリピーターも多くなった。来年は、2020オリンピック・パラリンピックのために、私学展が、この時期に前倒しになるため、私立中学だけの合同相談会はお休みになる。

★このようなイベントも時代の変化に柔軟に対応しなければならないほど、あらゆる局面で時代は動いている。

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★私学展の方は、高校受験生が多いため、この中学合同相談会は、中学受験生にとっては貴重なチャンスであるが、来年は私学展の方に合流せざるを得ない。いったい会場はどうなるのだろうか。果たして身動き着くだろうか。

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★時間差で入場がコントロールされることになるだろう。

★学校の様子をこれだけ一望できる機会は他にない。合同相談会、私学展も新たなステージにシフトしていくことだろう。

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八雲学園 教育の存在理由を語る(2)

★近藤校長が、広報部長横山先生の説明会トークを優しい眼差しで見つめていたのには理由があった。近藤先生は空手の達人、横山先生は剣道の達人。両者とも道を究める者どうしがわかる理由だ。私は何の道も極めていないので、わからないが、その話は説明会終了後近藤先生からお聞きした。

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★横山先生は、八雲学園の5つの特色を1人ですべて説明した。秋からの学校説明会は、学園の先生総出で話をするが、ミニ説明会は横山先生1人。学校説明会では、横山先生は、広報部長として入試要項変更のパーツでしか話さない。

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★その対比が感動的だったと近藤先生は語る。簡単に言うと、横山先生が1人で話すのと、総出で学校説明会を行った場合の学校全体の説明の質はまったく変わらない。いやむしろ、参加された保護者を巻き込む声の抑揚、空気感、スライドのめくるスピードと説明の重ね合わせのタイミングは一人だからこそうまくなされていたと。そして具体的な説明を通して、八雲学園の教育の意味や魂が語られていたという。

★身体運動感覚と魂とイメージと聴き手の心との共鳴共感が自然に生まれる場づくりに近藤先生は感じるものがあったようだ。そこで、予定にはなかったが、そこはオーナーとして「感動教育」のキーワードを最後に保護者の方々と共有したいという気持ちにさせられたということらしい。

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★八雲学園がラウンド・スクエア(Round Square)の加盟校になってどのくらいだろう。準備期間も入れると、5年以上たっているのではないか。IB創設に尽力したクルト・ハーンが、IBとは違うが、それ以上の質の世界の私立学校のコミュニティを形成した。それゆえ、一般の人にはあまり知られていない超エスタブリッシュな特別な団体。八雲学園はそこに加盟している。

★世界の加盟校が日本に訪れたとき、八雲学園を訪問するし、加盟校同士交換留学を実施している。八雲学園でも、毎月のように交換留学生が訪れ、八雲学園の生徒も海外に留学しに行く。

★留学生はホームステイをする。実は横山先生は、自身がホストファミリーになった。そこで、世界のエスタブリッシュな学校の教育を生徒から聞き、その生徒が八雲学園の生活を大いに楽しんでいるのを実感し感動した時に、グローバルリーダーを育成する環境が八雲学園にあるということを再確認したという。

★それからというもの、横山先生のグローバル教育論は、現実と理想が一致する地に足着いた話で、おそらくその点において右に出るものがない。

★したがって、ミニ説明会での横山先生のトークは、八雲学園の教育の特色を制度論的なしくみの説明に終始するのではなく、生徒がどう生き生きして取り組んでいるか学びのプロセスとそのプロセスの向こうにどんなに大きな世界が待っているかゴールを示す明快で深い話になっていた。

★企業が欲する人材の特徴のリサーチ結果も出し、多才な行事や体験そして授業の意義が、それに重なることも立証しながら語った。前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力、主体性、粘り強さ、そしてなんといってもコミュニケーション力。これらすべては八雲学園の教育が生み出す成果でもあると。そのような教育の成果の質の話に、参加された保護者は大いに共鳴共感していた。

 

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2019年5月18日 (土)

八雲学園 教育の存在理由を語る(1)

★本日18日(土)、八雲学園はミニ説明会と体験教室が同時開催された。体験教室の定員が40名くらいだろうか、満席で、その保護者を対象とするのがミニ説明会であるが、保護者だけで参加しているケースもあって、説明会会場も体験教室も満席だった。

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★ミニ説明会は八雲学園が共学化する決断をしたときから開始したから、もう3年目になるが、近藤校長が登場したのは、今日がはじめて。9月からはじまる学校説明会には、必ず登場されるが、ミニ説明会では今までは登場されなかった。

★しかも、今日は近藤校長が登場する予定はなかったという。だから、最初は、ミニ説明会会場を背後から見守っていただけだったようだ。ミニ説明会と体験教室が同時開催なので、体験教室を見ていた私が、説明会の最後の部分を覗いたら、そこに説明会の演者である横山先生を優しい眼差しで見守ている近藤校長がいらしゃっていて驚いた。

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★そして、横山先生の話が終わった後、近藤校長は自然体で挨拶をされた。詳しい話はまったくしなかった。それは横山先生が十分に話したから、私も満足だと。とにかっく、ようこそ八雲学園にいらっしゃったというメッセージを分かち合いたかったのだと。

★そして、「今、横山が説明したように、毎日が感動を巻き起こす教育をしています。子供たちが成長するには、内側から燃えるものが必要です。それには感動の機会をいかに創意工夫していくかです」という「感動教育」というキーワードに絞って、簡単に語って終わった。

★たしかに、生徒の間では、今日はどんなサプライズがあるのかということは、いつも話題になっているし、自分たち自身もサプライズの世界を生み出すことが学園生活の中のミッションでもあるぐらいだ。

★八雲学園は、近藤校長をはじめ先生方自身も生徒自身も、一体自分たちは何者なのか?その存在理由を情熱をこめて語り、行動する。共学化になってから、その渦がますます大きくなっている。いったい私たちをどこに連れて行こうとしているのか。

★確実なことはグローバルな世界と学問の世界を巻き込んで、さらに八雲学園自身もパワフルになっているということだ。



 

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工学院を語るわけ ダブルPBL

★2014年以降、工学院が時代に対応する教育を行い、同時に世界を変える教育を行っているという二重性について、多くを語ってきた。取材も行いその都度その様子をメモしてきた。しかし、その記事の正当性、信頼性、妥当性は、読み手には、なかなか判断がつかない。出版社の情報誌に登場するシンクタンクの見識者のように、頻繁に公の雑誌に登場するわけでもない私は、実際にお会いした人以外は、ピンとこないのは当然だ。

★ブログもSNS時代スタート時には、ブロガーとかいう言葉が流行ったが、今ではもっと最新のSNSが登場して、長々と文章で表現するのはどうなんだと疑問の声も聴く。

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★出版社だと毎度おなじみの偏差値が高い学校の記事はたくさん出てくるが、そうでない学校の情報はなかなかでてこない。でもどんな学校も最初から偏差値が高かったわけではない。麻布だって、一期生は10人もいなかった。洗足学園や鴎友学園女子の偏差値も、当初は40レンジ前後からスタートした。

★学校とは進化するものだ。そういう意味で、2014年以降の工学院は注目していたのだ。私がただ語っていてはホンマノオトの独断と偏見、主観に過ぎないと思われるのも、そりゃそうだろうなと私自身思いつつ、にもかかわらず書きたくなるのだ。

★そんな思いでいたが、昨年末から、工学院の教育全般が公の情報誌や雑誌で取り上げられる機会が多くなった。オッーと思っているうちに、大学進学実績も出るようになってきた。サンデー毎日(2019年5月19日号)の「難関大学合格者 10年間で伸びたベスト500校」という特集で、難関私大の関東・甲信越エリアで、工学院は100位にランクインしている。

★私立高校だけに絞ると、42位である。首都圏私立中高一貫校は300弱あるから、たしかに工学院の大学進学実績の飛躍は相当なものだ。

★一方、晶文社「首都圏中学受験案内2020」に掲載されている思考コードから「深い思考力」を入試で出題している学校のランキングを出すと、首都圏の共学校の中で、第3位となる。これも、晶文社編集部が掲載しているデータから言えることなのだ。

★つまり、アドミッションポリシー、ディプロマポリシーにおいて世間の目に触れる部分で工学院の教育力の一端が表現され始めたわけである。

★こうして、受験生にとって魅力であるカリキュラム、進学実績を出すカリキュラムの中核である工学院のPBL型授業について書くことは、いよいよ意義があるということになるのだ。

★今、教務主任の田中歩先生は、工学院の教師になって2年未満の先生方とプロジェクトチームを立ちあげている。PBL型授業のリサーチやブラッシュアップ、新しいPBL型授業など、かなり創発的なチームをつくっている。私も、光栄にもときどき手伝いに出かける、授業リサーチは、各先生方の50分授業をまるまる観察して分析して、シートをつくり、それを共有しながら授業終了後の10分休みに、廊下で立ち話をするわけだ。

★田中先生と一緒にする場合もあるし、そうでない場合もあるが、基本授業リサーチは、先生方のタレントを結果的にエンパワーメントすることになる。

★昨日は、中間試験直前の授業を見学しに行った。中間試験直前期間は、多くの場合、テスト対策講座になる。いつものPBL型授業とどう変わるのだろうかと。しかし、ダイレクトにテスト対策をするだけでははなかった。

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★柳田先生の世界史の授業は、四大文明がテーマだったが、現代の環境問題を解決するために四大文明のどんな点を生かすことができるのか、プレゼンテーションするものだった。そして、プレゼンの後のフィードバックのところで、エンパワーメント評価すると同時に、テスト範囲の知識を問答するというPBL型授業だった。

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★中村先生の生物(化学)の授業は、光合成と呼吸の比較を問答していたかと思えば、化学反応という現象をどう科学的にとらえるか、身近な問題からディスカッションしながら考えていくPBL型授業が展開していた。中村先生は、常にいまここでの現象を科学的なものの見方に置き換える問答を繰り返しているのが特徴的である。

★今回も、梅雨の季節を迎え、洗濯物を干すと臭いが気になるだろうが、その臭いをできるだけ消すために洗濯するときどんな工夫をするのかと。スライドでは、洗濯洗剤のパッケージがいくつか映し出され、あとは生徒は図録で調べながら、考えていく。

★生徒たちは、図録にある、酵素の特徴、温度、湿度との関係、PHとの関係などのグラフを活用しながら紐解いていく。いくつもの条件のレイヤーを重ねて、絞り込んでいく。おもしろかったのは、行きつかなくてもプレゼンをするというところだった。ゴールに行き着いたチームと行き着かなかったチームのプレゼン内容の比較が、思考錯誤のプロセスを共有することになるからだという。

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★新海先生の中3の数学は、順列と組み合わせの範囲を寺子屋型PBLで展開されていた。ハンドアウトが巧みに制作されていて、進むにつれて、壁が少しずつ高くなっていく。セクションごとに個人ワークをして教え合う。その段階で、先に進めないことがあるから、チームごとにアドバイスしに新海先生は飛び回っている。

★数学は、最近接発達領域を生徒と教師が共有する対話と最近接発達領域の仮説を前提にしたハンドアウトというファシリティーを活用するとこに重要な意味がある。

★生徒にハンドアウトの構成について尋ねると、計算→基本問題→応用問題→発展問題となっていますと回答するのかと思っていたが、「置換」操作が複雑になっていきますよ。例えば、この問題なんかは、最初2を1に置換、再び1を2に置き換えていくところに気づくかですねと教えてくれた。

★どうやら、中間テスト勉強をダイレクトにしているかと思えば、もっと大事な学びを生徒は経験しているようだ。

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★新海先生は、大学時代、統計学とプログラミングを研究していた。直接、数学の問題を解決することが、間接的には、もっと大きな問題に生徒が興味を持つように、とくにAi社会に突入する時代に生きる生徒にとって、そこに思いを馳せながら授業は展開したいのだと話してくれた。

★そのとき、ふと振り返れば、柳田先生は、四大文明の問題を解決する中間試験の学び以上の学びを行っていたし、中村先生も目の前の現象を通して、科学的思考を常に経験できる授業を展開していた。

★カーネギー・メロン大学のランディ・パウシュ教授が、末期がんで亡くなる前の年、「最後の授業」というシリーズを家族のため、学生のため、同僚のため、世界のために行った。余命宣告を受けていたから、終身教授として大学が準備してくれたのだろう。感動的な授業で、今では本にもなっているし、YouTubeで見ることもできる。

★教授が、自分の幼いころの学びを説明するところで、“head fake”という名で「間接的な学び」について語っている部分がある。フットボールを一生懸命やっていたころがあった。練習はきついし、楽しいというわけではなかった。フットボール選手にもなれなかった。でも、人生にとって大事な学びを体験できたと。

★工学院のチーム田中の先生方のPBLはだからこそ、Problem based Learningではなく、Project based Learningなのだと腑に落ちた。田中歩先生は、このような、観察→分析→対話→シェアという授業リサーチや研究会を構築しようとしている。

★平方校長は、このPBLのうち問題解決に力点をおくのは、高2.高3で、それを戦略的PBLと呼ぶのだと。そして、問題解決を通して生徒一人一人が自分にとって大事なものを発見してくことに力点をおくのが、高1くらいまでで、それをエンリッチメント(拡充型)PBLと呼ぶのだと語る。「ダブルPBL」システムとでも呼びたくなる。生徒の内発的モチベーションが湧き出てくるのは、このダブルPBLの力点のバランスが、生徒の成長と共に変容するのだろう。それは今年一年田中歩先生といっしょに歩きながら見極めていくことになると思う。 

★とにも、ランディ・パウシュ教授がいまこうしているのは、幼いころの“head fake”の学びがあったからだという体験とシンクロする発想が、工学院にはあるということだ。それは受験生にとってますます魅力的になるだろうし、大学進学実績もますます出るようになるだろう。

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2019年5月17日 (金)

21世紀私学人(03) 田中潤先生 教育で世界を変える鬼才

★三田国際の教頭田中潤先生からは、しばしば学びの理論及び組織開発についてお話をお聞きする。田中潤先生は、PBL型授業と探究ゼミを学内に浸透させている実践家でありなんといっても理論家だ。緻密に理論と実践を統合させていく。

★実践というのは、しかし、理論のみならず理念や理想とも一致しようとする情熱があると、ときにその実践は理論を超えて世界を変えるあるいは世界を巻き込む創造的破壊をもたらすものである。

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★田中先生の知恵と世界を駆け巡る行動力は、実際に世界を揺さぶってきた。学歴エリート校をかなり追い詰める最先端かつ本質的な学びを生み出してきた。

★PBL型授業や探究ゼミを行っているということは、構成主義的学習観をベースに行っていることを示唆する。田中先生ご自身が、ピアジェ―パパート―レズニック及びピーター・センゲの構成主義的学習観の系譜について語るほど、理論家である。

★しかしながら、田中先生ご自身は、レヴィ・ストロースの研究家であり、同じ構造主義でもピアジェの認知心理学とは違う文化人類学的視点も持っているのである。

★アクティブ・ラーニングやPBL型授業の話題の中で、ピアジェやパパート、レズニック、センゲの話題はよくでるが、学習理論や組織開発論においてレヴィ・ストロースの視点まで持ちだす学校の教師にはそう出遭わない。

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★しかし、子供学、心理学、文化人類学は、20世紀の3大学問であり、20世紀型格差社会、強欲経済システムのリスクをなんとか回避しようとする21世紀型学問である。

★パラダイム転換をもたらす21世紀型教育を標榜するのであれば、ピアジェの系譜だけではなく、レヴィ・ストロースの系譜も理解し、二つの系譜を田中潤先生のように統合する見識が必要なのかもしれない。

★田中潤先生は、ICT関連も造詣が深く、デバイスの背景のシステムを熟知され、実装している。それゆえ、Apple社も認めるApple卓越教師なのである。

★しかし、その田中先生が、最先端の学習の表層部分ではなく、根っこのある深層部部にまで思考を深められている。

★パパート、レズニック、センゲはMITの流れでもあるが、田中潤先生同様、若い時にピアジェとレヴィ・ストロースの根っこから研究したもう一つの構成主義的学習観の系譜を創った学者がいる。それは、あのハワード・ガードナー教授(ハーバード大学)である。

★一般に、IQと創造的能力は分けられるが、ガードナーはそう考えない。あのMI(多元知能)のそれぞれのドメインを全うすることで、そこから創造的能力が生まれてくるものであると考えている。そもそも、ガードナーは、IQテストで学力など測れていないと考えている。

★これは思考コードが、知識論理的学力と創造的思考力を分断していない発想に通じる。思考コードに関しても、田中潤先生は三田国際独自の思考コードを作成している。

★さらに、このような実践と理論の統合は、実は組織が強くサポートする環境になければできない。田中教頭の手腕は、学びの実践家であり理論家であり、その両方の統合を可能にする組織開発に類まれな才能を持っている。

★田中潤先生も、歴史に名を刻む21世紀私学人なのである。こう言ってもよいかもしれない。教育で世界を変える鬼才であると。

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2019年5月15日 (水)

八雲学園 始まります!「ミニ説明会と体験教室」

★今年も、八雲学園の「ミニ説明会」と同時開催の「体験教室」が始まる。今週の18日(土)から早速はじまるが、すでに予約はいっぱいのようだ。

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★初回は理科教室。-196℃の世界を体験できる。理科の世界は、日常では目に見えない。いつも仮説と予測と検証と試行錯誤の世界。論理的だけれど、初めに解答があるわけではないから、推理と予測は少し違う。

★推理はある程度論理的に接近できるが、予測は直感という想像力/創造力も必要になる。したがって、ワクワクドキドキ。理科に限らず、どの教科もワクワクドキドキでスリル満点。

★受験勉強も八雲学園にかかれば楽しくなる。入試だけではなく、学校に入学してからも、もちろん、もっと楽しい。それはなぜか?体験教室でそれは納得できる。他の機会に参加してみてはいかがだろうか。

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聖ドミニコ学園 ついに動く!

★21世紀型教育機構サイトに「聖ドミニコ学園 21世紀型教育いよいよ発進!」という記事が掲載された。700年以上の歴史のある修道会の経営する学校で、とてつもない歴史的資源を継承している。その伝統は、しかし古いという意味ではなく、欧州の知の歴史を作ってきたという意味でレガシーカリキュラムという知のインフラを示唆しているのである。

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(写真は、21世紀型教育機構サイトから。インタークラスの授業シーン)

★中世の大学にディベートのマニュアルやダイアローグという意味での対話を根付かせた托鉢修道会の遺伝子なのである。しかし、聖ドミニコ会のシンボルマークは、十字架とユリと黒の盾で構成されている。つまり、信仰と純潔と節制である。

★それがゆえ、経済優先の教育の流れに対し、しばらく沈黙を守っていた。迂闊に動くと信仰と純潔と節制が崩れるからである。しかし、時代はディスカッションを求め、真の対話によって自由を獲得しようという動きになってきた。いよいよ聖ドミニコ学園の出番である。

★それゆえ、インターナショナルクラスとアカデミッククラスを新設し、英語と深い思考力、リベラルアーツと深い思考力の教育を全面に押し出すことにした。もともとグローバルな修道会だし、古代ギリシアのリベラルアーツを継承し、ヨーロッパに根づかせた修道会である。伝統的に暗黙知としてもっていた。

★今回、それを見える化し現代化して新たなクラスとして実装し直したのである。

★ドミニコ修道会は、伝統と革命の歴史を創ってきた。暗黒の中世を真理の光の中世に改革し、プロテスタンティズムの経済の根っこをデザインした。女子修道会を真っ先につくり女性の力にもなってきた。宗教改革は、厄介なローマ教育に対し改革をもたらした聖ドミニコに倣いて行われた。もともとドミニコ修道会は、エックハルトに代表されるドイツ神秘主義も包含してたから。

★スペイン艦隊から南米の人々を救済したのもドミミニコ修道会の神父であり、フランス革命の闘志を教会にかくまったのもドミニコ会の神父たちである。アパルㇳヘイトに立ち臨んだのも同様だ。

★今、日本の教育が大きく変わろうとしている。しかし、その変化を新しい世界作りに導くのか、自分都合の貪欲資本主義再興のために利用するのか、決断の時が迫られている。それゆえ聖ドミコ学園は動いたのである。理事会は、これは神の計画であると呼んでいる。

★大学合格実績はすでにものすごくよい。超有名海外大学へも毎年進学する。留学はそれぞれの家庭でどんどん行っている。

★何を今変わらなければならないのだろうか。しかし、この時代だからこそ教職員は一丸となって、なぜ私たちはここにいるのだろうか、私たちは何をするのだろうかと「存在意義」を問い、その探索の道を共に歩き始めた。

★偉大な行動は、自らの意志からやってくるのだが、同時に、それ以上の働きかけで動かされる。アクティブラーニングではなく、PBLなのはそういうことなのである。能動的という言葉は聞こえは良いが、それだけでは、人は大きな真理の力に生かされるということを忘れがちになるからだ。

★ドミニコ会士はみなパッションを持っている。この意味は情熱という意味の他に「受難」という意味もあるのだ。世界を創るプロジェクトがドミニコ会のミッションでありパッションである。

★それにしてもインタークラスの理科の授業で、ベン図を使って、ユリとアザレア(西洋つつじ)の比較分析が行われたという。それぞれの花言葉は、純潔と節制である。修辞学と科学のインタフェースが繰り広げられたようだ。さすがはリベラルアーツを創りあげてきた聖ドミニコ修道会の学校である。

 

 

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「深い思考スコア」と「偏差値」(07)中学入試が「深い思考」問題を出題することは、未来を拓く大きな一歩

晶文社学校案内編集部発行の「首都圏中学受験案内2020年度用」は、令和元年に企画編集された画期的かつ歴史的な受験情報本である。「思考コード」と「偏差値」で、その学校のアドミッションポリシーの考え方やビジョンがわかり、その考え方が、その学校の教育とどんな関係にあるのか、そしてその有用性が大学合格実績のみならずどのような教育活動に現れているのかを簡にして要を得た情報整理がなされているからだ。

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★今回の本ブログのシリーズで、同書のデータに基づいて、首都圏中学入試における全体「深い思考スコア」の特徴や傾向をみてきた。データは2018年のものだだから、2019年はもっと激しい変容になっていると思うが、それでも大きく変わる動向を読み取れるデータだと思う。

★さて、男子校、女子校、共学校のスコア平均の比較をしてみよう。各校の件数が違うから、一概にはいえないが、男子校は算数の「深い思考」スコアが全体「深い思考」スコアを引っ張っている。したがって、そんな中で、聖学院と佼成学園のように新タイプ入試で「深い思考」スコアを牽引している学校は、クリエイティブな思考力やタレントを評価される男子校として、これまで、一つのモノサシで私立学校に入門できなかった生徒に門を開いた希望の私学であろう。

★共学校は、新タイプ入試で牽引している学校が多いわけで、その未来への希望の塊が潜在している。女子校はもっと国語で「深い思考」問題を出題するかと予測していたが、男子校よりも低い。また新タイプ入試も共学校より低い。つまり、この中途半端なアドミッションポリシーが女子校低迷の一因である可能性が高い。

★実は、女子校でよく聞く話が、うちを受験する子には「深い思考」問題は難しすぎるという気遣いが、逆説的に生徒のモチベーションを下げている。ここまで挑戦して欲しい。そのためのケア態勢を、こんな風に整えているというのが、本来の気遣いで、気づかないうちに、受験生の挑戦心を削いでしまっている場合が意外と多い。

★本来の気遣いというのは、たとえば、聖学院のケースが挙げられよう。同校は、思考力セミナーと称して、思考力入試の対策講座をワークショップで説明会ごとに開催している。一般入試を受験する生徒も体験できるから、受験生全員にB2B3C2C3の学びの本当のおもしろさ=“Hard Fun”を教師と共有できる気遣いの場をマインドセットしている。それだけではない。毎回作成されるいわば思考のポートフォリオというよりハワード・ガードナー教授の提唱するプロセスフォリオであるハンドアウトは、いったん回収され、エンパワーメント評価としてフィードバック(添削ではない)コメントが添えられて郵送で返却される。

★だから、入学前から生徒の非認知的能力と認知能力の特徴を把握し、つまり最近接発達領域を見出し、入学してきたら、こんなプログラムを適用してみようと教師の間で対話が盛り上がっていると聞き及ぶ。

★個人情報の問題もあるから、聖学院は氷山モデルの見える部分しか広報しないが、実際には水面下の先生方の生徒に対する気遣いや共感共振を生み出す対話開発への努力が凄まじいのである。

★これは、共学校の工学院も同様だ。なぜ駒込と八王子でシンクロするのか?山口昌男の「中心と周縁」理論ということだろう。もっともどこが中心かほんとうはよくわからないのだが。ともあれ、中心は悪貨は良貨を駆逐するという経済原理が作動しやすく、周縁はイノベーションが起こるというのが世の常である。

★ところで、多くの学校で、算数と国語で、「深い思考」問題を出題できない理由はなんだろう。これは、複数回数の入試と即日合格発表の流れが関係している。算数と国語で「深い思考」問題を出題している学校は、たいていは入試回数は一回であり、合格発表は翌日か翌々日である。じっくり問題を練り上げ、時間をかけて採点をすることができるから、そのシステムに適合する問題をデザインするのは当然である。

★ところが、複数回数の入試で即日合格発表をする場合は、問題を多数作らなければならないし、どうしても採点しやすいデザインを考えなければならない。「浅い思考問題」、要するに知識問題を大量出題することにならざるを得ないのである。

★そこで、新タイプ入試で、そこを補おうとする。ところが、B2B3だけにすると、難度があがり、挑戦する意欲が挫けてしまう。そこで、創造的思考問題を出題する。しかも、いきなり創造的解答を出すのではなく、創造に到るプロセスを通過するから、生徒は最近接発達領域をその都度確認し、自分で次に進む足場を整えながら、進むことができる。

★創造的思考問題は、難度が高いわけではない。考える楽しみをどこまで膨らますことができるかだ。そして、ステージごとに足場をつくるサポートが問いの中に包含されている。

★一般には、まだまだこのことが理解されていない。このことが認知されるには、しばらく時間がかかるだろう。しかし、すくなくともこの理解に向けて走り出す希望のランターンとして晶文社の「首都圏中学受験案内2020年」は役割を果たすであろう。

 

 

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「深い思考スコア」と「偏差値」(06)首都圏共学中学校 ここに未来が潜在している

★前回、首都圏共学中学校112校を対象に、全体「深い思考スコア」と首都圏模試センターの「偏差値」の相関グラフを作ったデーターから全体「深い思考スコア」でソートしてベスト30の一覧を出してみた。

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※表の「女子校」という項目は、「共学校」の誤りです。

★このベスト30の中に、偏差値40レンジの学校が11校入っている。30%以上の学校が、いわゆる高偏差値校に挑戦しているわけだ。しかし、偏差値50以上の学校も、その11校同様、新タイプ入試を行っている結果、ベスト30に入っているところが13校ある。

★つまり、80%が、全体「深い思考スコア」のうち、論理的思考力だけではなく、創造的思考力も問うているのだ。この「事実」は極めて重要である。

★この「事実」をいつまでも無視して、創造性を入試で問う変な試験をしてよいのかと揶揄するとしたら、それは表現の自由でよろしいのだけれど、歴史的にあとで振り返れば、かなり社会的問題を無視した発言になりかねない。

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★新タイプ入試の「深い思考」を除いて、算国だけの「深い思考」で「偏差値」との相関を上記グラフでみてみよう。すると、これは相関係数が0.74で、強烈な相関がある。しかも、算国の「深い思考」はB2B3という論理的思考の複雑な難問に限られ、C2C3のような創造的思考はほとんど含まれていない。

★したがって、上記のグラフの80%は、偏差値の高低にかかわりなく算国の「深い思考スコア」が40以下なのだ。しかもさらに細かく見ると国語はB2B3以上はほとんど出題していない。

★もし新タイプ入試がなければ、共学校80%の中学入試準備段階の学びは、結局知識を詰め込むだけの準備になり、ワクワクするような学び体験や深く考える喜びを体験しないままになる。

★これによって、探究格差が完全に出来上がってきたのだ。しかし、この80%の学校の中から新タイプ入試を開発して実施するようになったのが昨今である。新タイプ入試を加えると、前回示した次のグラフになる。

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★ここに、中学準備段階からワクワクする探究の学びを体験したり、没頭して考える時間に喜びを感じる生徒が増える画期的な真の教育改革が起こっているのである。ここに未来が潜在しているともいえる。

★いろいろな学校の適性検査型入試や思考力入試の対策講座のワークショップを拝見しているが、本当に鼻を膨らませ、目を輝かせ、興奮して思考に没入し、プレゼンしている中学受験生の姿をたくさんみる。

★そのワークショップは、リフレクションが挿入されているのが常だから、そこで子供たちは、こんなに文章書いたことがないと自分で自分をほめることになるし、もっともっと考えなくてはと自分にエールをおくることにもなる。もちろん、考えること、描くこと、発表することがこんなに楽しいなんてという“Hard Fun”を感じるのは、みな共通だ。

★新タイプ入試を実施する学校は、試験回数も多い。一方では生徒募集のための戦術でもあるからだ。だから、ワークショップのハンドアウトやプログラムをその都度デザインするのは、なかなかたいへんだ。しかし、生徒のその“Hard Fun”を乗り越える果敢な姿をみると、先生方自身も興奮してくる。やはり生徒の成長に出遭うとモチベーションあがりますねと口々に語る。

★今では、MITメディアラボのレズニック教授らの影響のもとに開発されたレゴのシリアスプレイなどのプログラム(シリコンバレーなどの会社でも活用されるワークショップ)に象徴されるように、数多くの様々な最先端の構成主義的学習のプログラムが実施されている。

★そこには、組織開発、人材開発の最先端のプログラムが創意工夫されている。U理論、学習する組織、構成主義的学習、クリエイティブラーニング、アルゴリズムラーニング、CLILなどレゴに限らず多様なプログラムが開花している。基本全てはPBL型ワークショップである。

★先生方も、様々な専門的な研修に参加し、自己マスタリーを積極的に行っている。新タイプ入試を通して、生徒も教師も学び、入学後のカリキュラムに、いうまでもなく、その最先端の学びが根付くことになっている。

★新タイプ入試が、アドミッションポリシーのみならず、カリキュラムポリシー、ディプロマポリシーにも影響を与え、その学校の教育力の質を結果的に磨き上げることになってきたのである。

★この動きは止められない。また止めてはいけない。ここに未来が潜在しているからだ。大学入試改革がどうなるかわからないが、大学入試が変わらなければ学校は変わらないといつまでも言っている教師も実はだんだん少なくなってくるだろう。

★なぜなら、これほどおもしろい教育が新タイプ入試と共に広まりつつあるのだ。いつまでも、そんなことを言っていたら、変化したくない自己都合の理由を言っているに過ぎないと評価されることになるからだ。それに、実は、学習する組織を導入したPBL型授業は、教師の負担感(業務自体は減らないかもしれないが)がなくなるということにも気づかれ始めている。

★発想の自由人、発想の転換、考える喜びの共有、創り出すおもしろさ、好奇心のふくらみ、なぜだろうという探究心の広がりと深まり・・・こういった学びの姿勢を、入試だからストップさせるのではなく、この学びの姿勢を支持する入試にシフトしていくことは望ましいことではないか。このような挑戦をしている学校は、偏差値以上に価値があるのではあるまいか。挑戦する学校及び先生方を応援しようではないか。

★これはある意味政治的社会的動物である人間として、幸福な社会を創ろうとするかしないかの政治的決断である。教育の選択は、実は政治的決断と行為でもある。だから、そこは自分で決めなければならない。論理的思考力だけで社会を運営するのか?創造的思考を生かして社会を共に創っていくのか?どちらを選択するかという問題でもある。

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2019年5月14日 (火)

「深い思考スコア」と「偏差値」(05)首都圏共学中学校  異変は確実に起こっている

晶文社学校案内編集部発行の「首都圏中学受験案内2020年度用」に記載されている「思考コード」で「深い思考スコア」を算出し、首都圏模試の「偏差値」との関係を読み取っているが、今回は、首都圏の共学校112校のデータで相関グラフを作成。

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★やはり首都圏女子校同様、偏差値の高低にかかわりなく、共学校も全体「深い思考スコア」が高いところもあるしそうでないところもある。この全体「深い思考スコア」と「首都圏模試の偏差値(男女が違う場合があるので、男女の平均偏差値)」の相関係数は、0.28であるということはそういうことを示唆している。

★共学と言えば、今や渋谷教育学園グループ。アジア圏の帰国生にとって、圧倒的な人気校でもある。グラフでも高思考力、高偏差値のポジショニングの絶対的な覇権を有している。

★しかし、高思考力だけでみれば、工学院、東洋大京北、本庄東、三田国際、宝仙理数インターが肉薄している。偏差値的にも三田国際は迫っている。

★共学校というのは、昔から、偏差値の高くない学校が、グローバル教育と考える授業に本格的に取り組むことによって、急激に注目を浴びるチャンスのある領域である。男女御三家のような歴史的しがらみがない場であるということもその理由の1つであろう。

★しかも、今や東大合格実績では男女御三家も脅かしている渋谷教育学園グループは、だからといって東大合格を目的にしているわけではなく、東大以上のクオリティの高い海外大学の進学も多数輩出している。この領域では、御三家も太刀打ちできない。

★だから、大学合格実績を出すことを第一の目的とするかどうかについて、受験業界に右顧左眄する必要がない。本物の教育の道を大手を振って進んでいくことができる。そうすることで、かつて渋谷教育学園グループがそうだったように、結果的に大学実績も伸びていく。

★上記の高思考力の入試を設定している学校では、高2までは、自分の興味のある分野を深堀していく探究活動がしっかり行えるから、高3になって戦略的な受験勉強に切り替えれば、十分受かってしまうという事態が常態化するのである。5年間の才能開発、地頭開発が、それを起業に応用しようと思えばできるし、受験勉強に応用しようと思えばできる状態を生みだしているのである。

★だから、中学入学前に、偏差値が高くなくても、考えることに抵抗がなければ、なんとかなるのである。考えることに抵抗がなく、高偏差値であれば、現状の共学校の覇者渋谷教育学園グループに挑戦すればよいし、小6段階で高偏差値はゲットできていないが、考えることは好きである場合は、自分の才能を開発できる共学校を選択すればよい。

★グローバル教育と深いあるいは高い思考力を基礎にして探究活動ができる自分ごとのプロジェクトを創発できる学校から多くのすばらしい人材が活躍するようになるのは、まず間違いない。

★新たな価値ある学校がたくさん生まれる時代がすぐそこまでやってきている。

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2019年5月13日 (月)

工学院の高いプレゼンス 学内では当たり前の日常

★昨日、ニューヨークで、帰国生のための海外学校説明会が行われた。主催は、海外子女教育振興財団(JOES)。毎年、この時期に、米国や欧州、アジアで、大キャラバンを組んで行っている。大移動でタイトな説明会である。そのスケジュールの中の一つの都市ニューヨークで、学芸大国際中等教育学校と早稲田大学本庄高等学院と並んで人気を博したのは工学院だったと聞き及ぶ。

★また、昌平と茗渓がIB認定校として人気があったように、工学院もケンブリッジイングリッシュスクール日本初認定校として注目を浴びたという。さらに、News Picksという時代を牽引するリーダーや組織が厳選されて掲載される雑誌に、6ページにもわたって紹介された工学院としても話題を呼んだという。その冊子には、落合陽一氏や孫正義氏なども登場しており、ICT関連企業や国際関係の仕事で活躍している人や起業家が読む雑誌でもある。

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★ニューヨークという最先端のアートや文化都市で、日本にはないソフトパワーの市場が広がる中で、プレゼンスを示した工学院だが、学内では当たり前の日常的な存在なのである。

★おそらく見なければわからないどこの学校でも展開できないほどの英語の授業を行っていて、News Picksにも写真入りでインタビューされている教務主任の田中歩先生も、あまりに軽やかに授業を行っている。

★世の中がどうみようと、廊下ですれ違い際に、生徒と対話したり、授業でファシリテーションしながら生徒が日々変容していく姿に出会える日常を持続可能にすることこそ大切なのだと田中先生は言う。

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★この間も、高2のハイブリッドサイエンスコースの英語の授業で、動物を人間の生活の中に巻き込むことの是非をディベートしていた。もちろんオールイングリッシュで、最終的には、個々人がエッセイライティングとしてレポートを完成、edmodoでポチっと提出していた。

★ケンブリッジやオックスフォード大学は、口頭試問で「かたつむりに意識はあるか」とか「自分は賢いと思うか」と問いを投げかけてくる。だから、ケンブリッジイングリッシュスクール認定校として、テキストで、この手の哲学的な問いも考えることがもはや当たり前の日常になっているのだ。

★逆に言えば、このような思考問題がないと、生徒は何か違和感を感じるだろう。日常とはなくてはならないかけがえのない時空なのだから。

★今年の春、ある大学で次のような小論文の問題が出題された。

(1)医学研究における動物実験の貢献について説明しなさい。

(2)医学研究における動物実験の必要性と問題点について、あなたの考えを 述べなさい。

★この問題は東大理Ⅲの「平成31年度外国学校卒業学生特別選考小論文問題」である。要するに帰国生のための入試問題だ。説明するまでもないが、工学院の日常の英語の授業は、東大の帰国生入試のレベルなのだということだ。もちろん、そんなことはことさら意識さえしていないだろうが。

★そもそも東大自体が、IBやAレベルの問題をリサーチしたうえで、帰国生に対応しているから、このような問題になっている。つまり、東大は一般入試ではここまでクリエイティビティを要る問題は出題しない。論理的思考で寸止めしている。

★だから、一般受験をする日本の生徒は、どんなに偏差値が高い学校で学んでも、このような問題の地平に立つことができない。一般受験をするのに、このような問題を見てしまったらどうなるか。それはもう違う地平に立たされていると不安に思うだろう。

★しかし、それが世界標準の地平なのである。かくして、工学院は、世界標準を日常の学びとしているのである。ニューヨークで高いプレゼンスを示すことになるのは当然だったのである。

 

 

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三田国際学園のさらなる進化(03)中1MSTクラスの新しい学際的地理学 

★2時間目は、教頭田中潤先生による地理の授業。田中先生は、「理系人になることを入学時から目標にしている中1MSTクラスであるから、予想通り、地理は暗記科目で、モチベーションがあがらないという生徒もいました」と。しかし、レヴィ・ストロースをはじめとする文化人類学に造詣の深い田中先生は、待ってましたとばかり、その先入観を砕いていく。

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★田中先生は、今年の中1は、MSTのみならず、全体的に優秀であるが、それは従来の中学受験における勉強における優秀性で、本格的にフィールドワークを行ったり、問題を自ら発見したり、解決の方法論を工夫したりといった探究の学びは未開拓であるという。

★だから、地理を暗記科目だなんていう先入観は、新しい世界を開く格好の出発点。探究の真髄に生徒1人ひとりの知が開かれていくマインドセットを行えるよき機会だと捉えている。

★そこで、地形や気候を扱う場合、その内的営力と外的営力のメカニズムのダイナミクスを解明する思考実験授業を行っていく。私が見学した時は、プレートテクトニクスと世界の地形の相関関係を推理し、データによって解き明かしていくPBL型授業が遂行されていた。

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★そのとき、地図に地形の3つのカテゴリーを色塗りしてみてくれるかなという田中先生の言葉を聞いた。あれっ?色塗りの手作業をアナログで行っていくとは!田中先生なら、タブレットを活用して、デジタル対応していくはずだが・・・と思ったのだ。

★すると、もうすぐタブレットが届くから、このような直接手を使って考える作業は、今日ぐらいかな。だからとっても貴重な体験だよと。連休が長かったことと、機種のバージョンアップがあったので、今年は手元に届くのに少し時間がかかているということだ。

★しかし、それがかえって、新鮮だった。デバイスを使わなくても、本質的なものの見方・考え方は学ぶことができる。それは、当然なのだが、最近は、私自身も含めて、デバイスありきになっている風潮があることを改めて感じた。田中先生は、デバイスは、その本質への気づきをもっと効果的に行える大事な武器ですよと。合理的な思考のプロセスが、真逆の野生の思考を生み出す気づきを得られるからですと。さすが文化人類学的視点。

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★世界各地の標高と面積や人口との関係を、メッシュマップによってデータに変換する作業も行っていた。東大の今年の地理の問題でも出題されていたが、今回の授業で、その問題も中1段階であっさり解けてしまうほどパワフルな展開だった。

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★タブレットを使えば、グーグルマップとGISのかけ合わせで、自分たちで創っていくことになるというのだから、もはや地理はデータサイエンス的な側面も持っている。

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★また、このメッシュマップの発想は、白地図の空間に多重の情報レイヤーを重ねて、保険のマーケティングや地政学的リスクリサーチや自然災害予測学などに応用できる思考方法であることが、実際に一枚一枚のレイヤーを読み解きながら、ディスカッションしながら体得されていく授業だった。

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★最後は、4つの地域の高度別面積分布のグラフを見せて、それがどの地域のものか考える問いを投げた。どれがアジアなのか、アフリカなのか、南アメリカなのか、ヨーロッパを示しているのか。プレートテクトニクスによって世界の地形の歴史を1時間で一気呵成に「思考=計算」してきたので、このような問題は中1MSTクラスのメンバーにとっては難しくない。大事なことは、どうやって考えていくか、計算していくのか、そのためにどんな情報やデータのレイヤーを重ねていくのかということだと田中先生は語る。

★ちなみにこの問題は慶応大学の入試問題であるということだ。

★田中先生は、「大学入試問題の中には、研究の最前線の成果を活用した良問もあります。大学入試悪玉論を語るのではなく、現場では、考える良問を活用することの方が有用だし、生徒が進むキャリアデザインにも希望があります。こんな研究をしている大学なんだということがわかるからです。中学入試は学校の顔と言われるが、大学入試も同じです」と語る。

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★進学指導は、大学入試問題の背景にある学問の成果を生徒といかに共有していくかということである。そう考えれば受験勉強も学問の入口に立つことであり、生徒によっては、もっと先に進めるだろう。好奇心旺盛になり、開放的精神が開かれ、なぜだろうというワクワクする問いが自分の内側から生まれてくる。

★中1MSTクラスでは、もはや地理を暗記科目であるとみなす生徒は1人もいなくなっただろう。むしろ、地理学として、MSTクラスの学問対象のフィールドとなったことだろう。さすがは、田中潤先生。21世紀型教師の教師である。

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2019年5月12日 (日)

三田国際学園のさらなる進化(02)サイエンスリテラシーの中1授業 

★中高のMST(メディカルサイエンステクノロジー)コースを担当している辻敏之と教頭の田中潤先生がコラボして実施している中1のサイエンスリテラシーの授業を見学した。

★その部屋は、クラスルームで、サイエンティストが中高生のために選んだ100冊の本がディスプレイされていた。

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★そこから、生徒が思い思いの本を手に取り、帯つくりをしていた。GW中に、本を読んできて、帯のタイトルやキャッチフレーズなどを考案し、デザインしているのだと思った。

★しかし、それは違っていた。選んだ生徒1人ひとりの思いを言語化するところから始まる授業だったのである。自分は数学と脳の関係に興味あるから、ここをもっと掘り下げて思考することができる本なのではないかと仮説を立てるところから始まると辻先生は語ってくれた。

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★まずは、科学に関連する本の読み方を探究するところから始めているのである。この読書探究のアウトラインは松岡正剛氏が所長をしているあの編集工学研究所のものを活用しているという。というのも、同研究所とMSTクラスが連携して、編集のメソドロジーをサイエンスリテラシーのメソドロジーにいかに変換できるのかというテーマで共同研究しているということのようだ。

★帯を編集するには同研究所の思考ツールを使って行っていたが、そのツールを使えるようになることが目的ではなく、その向こうにある科学論文の読み方・編集の仕方の体得にあると、田中先生は授業見学の合間で説明してくれた。

★授業は、個人ワーク、ディスカッション、プレゼンテーションがサイクルになって展開するPBLだが、大事なことは、個人ワークの時にどこまで深く考えるか、ディスカッション時にテーマやトッピクの驚きを誘発する発想がどういうメカニズムで可能なのか、しっかり対話ができているかどうかである。

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★このメカニズムこそ、編集の極意であり、サイエンスリテラシーにおける新しい発見と驚愕誘発、つまりシンパシー拡散の肝であろう。

★ある生徒は、「心はすべて数学である」という本を選択した。そして帯のキャッコピーは「数学と脳の関係をいっしょに考え世界を広げよう」にしたという。まだ中身は読んでいない。表紙と目次と筆者のプロフィールについてページを開いた程度だという。

★しかし、中1でありながら、数学と脳の関係に興味があるから、この本を選んだというのだ。数学と脳が関係しているだろうということはうすうす考えていた。その生徒自身、この世界は実は脳がバーチャルに映し出したものだという認識論にすでに立っているから、もし数学と脳が関係するなら、数学は世界を表現できるはずなのだという仮説が立つはずだというのだという。

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★エッ!中1ってこういう感じだっただろうか。いやいやプレゼンした生徒が特別なのだろうと思い直すことにした。しかし、次のプレゼンで、それはあっさり裏切られた。

★その生徒は、「世界はなぜ『ある』のか?」という本を選択した。そのキャッチコピーは「存在する無の世界」と表現した。「ある」と「ない」の対照性こそ「ある」根拠を見つけるヒントになるからだという。そして、この本は「物理」「哲学」「宇宙」「神学」などの学際的な内容のはずであることを示すデザインを描いていた。

★田中先生いわく、「今年の中学生は確かに昨年までとは違いますね。何か一つ自分の興味のあることをすでに相当深めているし広げられる力をもってきています。とくにMSTクラスは、現象の背後のメカニズムについて知ろうとする生徒ばかりです。ただ、それだけに、横とのつながりを忘れがちになる可能性のある生徒もいるし、自分の探究に関係のないタスクは無駄だと合理的に判断してしまう生徒もいる。学際的だと言っていながら、自分の認識した世界で代替えして広がったと思っている生徒ですね。こういう生徒と対話をし、思考しながら、世界をどこまで本格的に広げ新たなおもしろさを見つけることができるのか。成長が楽しみであると同時に、そのためのプログラムを今後さらにパワフルにする必要があると感じています」と。

★辻先生は、「帯をまずはつっくっみるのですが、その後に本を実際に読んでいきます。すると自分の仮説を修正しなければならないことに気づくでしょう。この仮説と検証の過程=編集こそサイエンスリテラシーの基礎です。そして大事なことは、この仮説を自分の内的な力で生み出せる体験ですね。このマインドセットを、教科の授業でも行っていますが、科学としての大きなマインドセットができていないと、各教科の単元を習得するモチベーションをいかに生み出すかという、目の前の利益に終始ることになりかねません。サイエンティスとの3要素は、好奇心とオープンマインドとなぜだろうという問いを抱くことだと言われます。このサイエンティストのマインドこそ、早い時期にシェアすることが大切だと思っているのです」と。科学者としての辻先生の表情がパッと広がった瞬間だった。

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三田国際学園のさらなる進化(01)またもアップデート

★三田国際の教頭・広報部長今井誠先生から、新しくスタートした中学のMSTクラス(メディカルサイエンステクノロジークラス)の授業の様子を見学して欲しいと連絡があった。まずは見て欲しい、驚きの景色が広がっていますからということだった。

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★すでに昨年、高校のMSTコースがスタートして、そのすさまじさは知っていた。探究というより研究というレベルでの授業が展開し、生徒も自らの研究テーマを見つけ、活動しているのを知っていたから、それ以上の景色が広がるとはいったいどういうことだろう?と想像ができなかった。

★まずは見てくださいよと語る今井先生の笑みに誘(いざな)われて、中1のMSTクラスに入ってみた。思わず、今井先生と目を合わせてしまった。これが本当に中1ですかと。4月のオリエンテーションが終わって、長期のGWが明けたばかりの中1。ついこの間までは、小学校6年生だった。

★確かに、これまでの三田国際の中1生とは何かが違う。しかし、にわかにはそれが何であるかわからなかった。そして今もわからないが、2つの授業を続けざまに見たので、メモを書きながら考えていきたい。

★それにしても、今井先生の笑顔はすてきだ。今の三田国際は、2013年のまだ戸板学園という女子校だったころから、改革準備を進めた。今井先生は、大橋清貫学園長とスクラムを組みながら、英語の改革、PBL授業の開発を推進していた。内発的要因の力を醸成するのは、学内が一丸となる重要な組織開発でもあった。

★しかし、その組織の良質な内的要因力も、外部のマーケットに認知され評価され共感されなければ元の木阿弥である。大橋清貫学園長と今井先生方は、外部のマーケットでアテンションをあげ、外部要因の力を巻き込む戦略を考案し実践した。

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(2014年5月8日、2015年から三田国際スタートの準備についてインタビューした当時の大橋清貫学園長)

★2014年の新学期がスタートするギリギリまで、学内調整、OG調整、理事会調整が続いたに違いない。そして、ついに山は動いたのである。2014年4月新学期を迎えると同時に、2015年から三田国際に校名を変更し、共学校になることが発表された。そこからの破竹の勢いは、あまりに周知の事実で、説明するまでもないだろう。

★そうしているうちに3年が経った2017年に、中学から高校までの生徒募集が学則定員を満たし、内的要因力も充実した。しかし、改革3年目は、何もしないとキャズム(進化が止まる溝)が生まれるのは世の常である。

★そのキャズムを軽やかに飛び越えなければならない。2018年からは高校募集を停止し、内的要因力もさらにパワーアップした。偏差値も急上昇した。「スーパーイングリッシュコース」を「インターナショナルコース スタンダード」と「インターナショナルコース アドバンスト」の2つに分けた。そして、「スーパーサイエンスコース」は「MST(メディカルサイエンステクノロジー)コース」にアップデートした。何より、「本科コース」をリベラルアーツベースのアカデミックなコースに変貌させた。それは、中学から行ってきたゼミ活動の成果が実ったからだと今井先生は語る。

★いずれにしても、4コースのソフトパワー準備教育が完成したのである。

★こうして改革準備期間(2年間)→中高6年間の定員充足と内的要因の充実(3年間)→ソフトパワー準備教育のアップデート(1年間)という3つのステージの進化を遂げてきたのだが、2019年さらに中学においてもMSTクラスを設置することになった。三田国際としてスタートして、まだ5年目である。準備期間を入れても7年目である。

★指数関数的な進化過程に、たしかに驚かざるを得ないではなないか。それにしても、進化とは内的要因力のクオリティの向上と外部要因力を巻き込む戦略のアップデートが二重螺旋になっている。どちらか一方でも手綱を緩めると、瓦解する。

★三田国際は、そうならないように、つまり、停滞の持続可能性ではなく、進化し続けることの持続可能性に向けて、次々と手を打っていく。2020年、2021年とそのプランは、もちろんできていますよと今井先生。それが何であるのか、そのヒントは今年の中1のMSTクラスの授業の中にあるのだというのである。

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2019年5月11日 (土)

21世紀私学人(02) 香里ヌヴェール学院中学校・高等学校 池田靖章校長

★香里ヌヴェール学院中学校・高等学校も、小学校同様、新校長が就任した。34歳の最年少校長池田靖章先生だ。お話をお聞きしていて、すばらしい対話の持ち主だと感じた。池田校長は、留学経験もあり、社会科の教師であるけれど、英語も堪能、「グローバル」という言説をことさら使うわけでもないが、世界市民的視野が自然体だ。

★日本とイギリスで学び、今はバンドンと東京を拠点にアート活動をしている娘と同じ歳ということもあって、少しはそんな感覚も私も理解できると思っている。もっとも、娘は、たしかにパパは少しは開明的だけれど、日常空間がドメスティックだから、少し気遣わないと思い違いということもあるよと。

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★世界市民的視野を持っている池田校長と同世代の娘の友人たちと出遭うチャンスも多いので、この世代がすでに大いに世界で活躍しているのを知っている。日本と事情が違って、イギリス―アメリカ―ドイツ―オランダ―中国―インドネシア―シンガポールーマレーシアー台湾などには、コンテンポラリーアートの市場が広がっている。

★その市場をWebで連絡を取り合い、交渉して、企画を提案して、展覧会を開いたり、トークセッションをしたり、助成金を獲得したり、マーケットで売買したりしているのは、やはり30代のアーティストたちだ。たいしてお金もないけれど、安いチケット、ホテル、友人の家などを渡り歩きながら、搬入搬出というアーティストというよりは、クラフトマンのような活動をしている。

★アート市場は、やはりスポンサーのハートを持続可能にしなければならない。もはや偏屈なイメージのアーティストは彼女たちの友人にはあまりいない。英語は当たり前で、マレー語も、インドネシア後も、中国語と言っても多様な言語があるのだが、それらを駆使して、共感的な対話を試みる。

★もちろん、アート資本主義というリスクを抱えながら、サバイブするにはどうしたらよいのか、また日本とは違って、忍び寄るアートの自由をコントロールしようという政治的な動きを往なしながら、クリティカルシンキングをアートの中に織り込んで発信もする。

★東南アジアの30代は、もう立派な社会的リーダーである。彼らから見れば、私のようなとっくに60を過ぎた人間は、おじいちゃんだ。私は社会で活躍なんてしていないけれど、周りでは、まだまだ活躍しているおじいちゃんが、日本には多すぎる。どんなにこの30代の人材を応援していると言っても、若者とみなしているうちは、この国は変わらない。

★34歳最年少校長。そんなことを話題にする古いモノサシを壊すことが大切だ。香里ヌヴェールの背景にある理事会は、そんなことを仕掛けたのだろうか。池田校長の柔らかい対話の時間の中でそんなことを感じていた。

★と思っていたら、近隣の寝屋川市や枚方市、交野市、京都の学研都市などの市場調査の話題になると、頭の中にパッーと地図が広がり、人口動態や世代分布、年収層の割合などの相関データが瞬時にでてくる。まさに脳内バーチャルリアリティな話で、おじいちゃんはついていけない。

★たんに社会の先生だからではない。海外における地理学や歴史学は、地政学的リスクをとらえ、政治経済の戦略的な視点を一方で学ぶ。これと紐づいていない教養なんてありえない。ジョブスがApple社でリベラルアーツが必要だと言ったとき、意識しているかどうかはわからないが、欧米人の文化としての教養に対する地頭があるのだ。

★日本の今の教育で、リベラルアーツが注目されているけれど、戦略的な対話に結びついくことはないだろう。戦略的な対話と共感的な対話は、カップリングされているのがリベラルアーツの当たり前の姿である。古代ギリシアにおけるリベラルアーツは哲学的な側面ばかり強調されるが、奴隷制度の正当化理論でもあるのだ。

★共感的コミュニケーションだけ説いている牧歌的な人材がたくさんいる昨今。一方で戦略ではなく、目先の戦術しか見えない人材もたくさんいる昨今。

★どちらも、この国を救えない。あのモモだって両方の対話を使い分けている。共感的な対話と戦略的な対話の両方を学べる授業。それは言うまでもなくPBLだろう。池田先生は、PBLという言説もことさら使わない。それは、あまりに当たり前のことだからだ。大事なことは、教師や生徒と対話をすること。

★香里ヌヴェールの校舎の廊下は長く幅も広い。ある意味対話の広場である。リベラルアーツ的には知のトポスだろう。シリコンバレーよろしく、廊下ですれ違う教師や生徒と対話をしている。校長室にいない校長。廊下を対話の空間にする校長。対話を脳内バーチャルリアリティに変換する校長。

★衰退する日本とか、デストピア日本とか、そんな言葉は、私のようなお爺ちゃん世代がほざいている戯言である。昔はよかったと言っているに過ぎない。

★明治維新のときに、私学人は、明日の未来を信じ希望をもって、サバイブしようとしたし、国づくりをするために、海外にも渡航した。戦後の私学人はそんな活動をしなくなった。そうしなくてよかった時代だからだ。しかし、時代は変わった。再び明治維新のころの私学人が現れる時がきた。池田校長も21世紀私学人なのだとしみじみ感じたのである。

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2019年5月10日 (金)

21世紀私学人(01) 香里ヌヴェール学院小学校 西山哲郎校長

★本日、香里ヌヴェール学院小学校で、教育関係者対象の説明会が行われた。40代の若手校長西山哲郎先生が就任したと聞き及び参加した。自然体で静かな情熱で軽やかに語る。留学はしないで、自ら独学で英語を体得し、前任校東大寺学園で大活躍。とにかく発想が全く違う。

★英語を学ぶ環境を探しに行くのではなく、自分の周りを英語で遊び、英語で学び、英語で歌い、英語で語る環境にしていく。まさにプロジェクト学習を小学生のころから独自に行ってきた。

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★お笑い的な笑いではなく、機知に富んだユーモアが新鮮だった。とにかく、入学式を行ってから1カ月が経った。徹底的に教師と共感敵的なコミュニケーションを行い、大いに子供たちと遊ぶ。

★しかし、それは発想の転換という遊びである。雨が降った入学式だったが、考え方を変えることによって、豊かな恵みに変えてしまう魔法使いだ。21世紀型私学人は、使う言葉も違う。

★基礎学力とか知識ではなく考えることが大切だなんていう紋切り型の言説は使わない。それがすごく新鮮だ。

★自らも英語を使って、生徒たちとグローバルな舞台で活躍してきたから、世界を身に染みて丸ごと理解している。SDGsも確かに大事だけれど、世界はその背景にある哲学や思想を対話する。文化を知らねばと言われるけれど、多くの場合は、それは自国や他国の文化に関する知識を調べることに終始する。

★それでは、世界で対話ができない。歴史の知識ではなく、歴史観やものの見方をトレーニングしておかないと話にならない。そんなことを軽やかにエピソード風に語る。

★21世紀型私学人がようやく現れた。明治維新に誕生した私学人は、自ら学びの環境を創ってきた。もちろん、世界に学びながらも、それをパッケージとして丸ごと飲み込むことはしなかった。しかし、戦後の私学人は、教育産業が生産したパッケージを丸呑みする。そういうのを私学人とは呼び難い。

★しかし、ようやく、本物の私学人が現れた。独りよがりではなく、世界の学びの方法論を学びつつ、一方で現実の生徒に適応するようにトランスフォームできるジェネレーターとしての私学人。

★そして、西山校長の21世紀私学人としての面目躍如なところは、人材育成を組織開発というメカニズムで生み出すスタイルだということだ。いくら1人ひとりにこうやれこうしろと説いたところで、人材は才能を開花しない。草木も水を注ぎすぎ、肥料をやり過ぎたら、成長するどころか枯れてしまう。

★人材育成も同じだ。才能を開花する学習環境を創ることだ。これは西山校長は得意とすることだ。自分で考え自分で創り多くの人を巻き込むアクションをとってきたのだから、それを今度はもっとスケールを大きくしてやればよいのである。システム社会の始まりは対話という単位からだが、西山校長の対話による発想転換法は世界を開く勢いだ。環境はなければ、自分で創ってしまえという発想の転換そのものを、自ら生み出してきたのだ。

★日本の教育は自らをどうやって変えるべきか悩むより、世界をどう変えるか先に考えたほうが、手っ取り早い。西山校長の眼差しは、そこに向かっていた。

★説明会のアンケートはたいへん好評だったという、すかさすリフレクションしてアテンションをあげる戦術も長けている。21世紀私学人はこうでなければ!


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2020年首都圏中学入試動向(03)跡見 国語重視型入試を開設 その重要な意味

首都圏模試センターは、「跡見学園、国語重視型入試を実施。詳細は5月11日の説明会で発表」という記事を掲載。

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★このグローバルな時代になぜ「国語重視入試」なのか?日本文化を知っておくことがグローバルな視野を広げる時に重要であるし、英語でエッセイライティングをするときにも、英語のスキル以上に、何を語りたいのかその想いが重要で、それを考えるには、実はふだんから考えていなければそう簡単に書けるものではない。ふだん考える時の言語は日本語の場合が多いから、やはり言語=思考という側面がある以上、国語を大切にしなければということだろうか。

★もちろん、そういう理由は言うまでもなくある。しかし、それなら、一般入試で国語の問題を出題しているからよいのではないかということになるが、実は一般入試の国語の問題は、晶文社の「中学受験案内2020」を調べていくとたいへん恐ろしいことが判明するのである。

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★というのも、同受験案内には、首都圏模試センターのデータ「思考コード」分析も掲載されていて、各学校の国語の問題で深い思考を要する問題の割合が開示されている。

★驚いたことに、算数は平均して30%以上は「深い思考(思考コードB2B3C2C3)」を問う問題を出題しているのに、国語は20%行かないのである。

★合格するには、60%~70%が解ければよいので、これだと国語の場合、「深い思考」をせずに、漢字や慣用句などの知識問題と読解リテラシーといっても、文章中の言葉を探すスキャニングしか学ばなくなる。「深い思考」の問題はできなくても合格点をとれるからだ。

★そんな中で、算数以上に国語の深い思考を問う問題をきちんと出題している学校がある。60%以上が深い思考問題なのである。その学校とは、たとえば、栄光、麻布、開成、桜蔭、鴎友学園女子なのである。駒東が55%で、海城が48%である。

★これら以外の学校の多くは、一般入試において国語の問題では深い思考問題は重視されているとはいえない。

★なぜこうなってしまったのかは、複合的要因があるから、ここでは語らないが、大事なことは、このような国語の問題では、言語による思考力をきちんと育成できないということなのだ。中学受験準備をすると、算数は深い思考が養えるが、国語ではそうなっていない。

★一握りの学校は、算数でも国語でも、深い思考を養う準備ができる。

★英語でできるから大丈夫だという方もいる。しかし、それもまた一握りの生徒の話である。

★しかし、だったら深い思考問題の量を増やせばいいじゃないかといわれるかもしれない。たしかに、そうだが、受験業界というのは、そんなに簡単ではない。

★いずれにしても、国語で深い思考問題をきっちり出題している先に挙げた学校を見れば、教育の質がいかによいかは明らかである。ではどうしたらよいのか。そこで、新タイプ入試なのである。

★従来通りの教科入試と深い思考問題を出題する新タイプ入試の併用が当面続く。そして、やがては、新タイプ入試と教科入試が融合する方向に動く。その方が合理的であり、すでに、数学的思考も、言語的思考も融合した形で出題している公立中高一貫校の適性検査が有効であることは事実上証明されているのだ。

★適性検査に比べれば、先に挙げた麻布や開成などの教科入試では、もっと「深い思考」問題を大量に出題している。他の私立学校も、適性検査以上の入試を出題するようにせざるを得なくなるだろう。

★今回の跡見の国語重視型入試問題の開設は、このような中学受験生の学びの根本的な問題の解決に歩を進めるすばらしい判断である。

 

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2019年5月 9日 (木)

聖パウロ学園 対話が生み出す物語思考と編集思考

★聖パウロ学園の授業を見学していていつも感動するのは、教師と生徒の関係が極めて良質だというコトだ。もちろん、教師も生徒も個人的にはいろいろな悩みもあるだろうし迷いもあるだろう。若い先生方も多いし、生徒はまさに青春の疾風怒濤の中を歩んでいるのだから当然だ。

★しかし、その悩みや迷いをどう自分で解決するか、乗り越えるのか、生徒は、そのヒントを教師と生徒の良質な関係の中で見出していける。まさに関係の環境が自らの内面に気づきを生みだし、それを互いに理解し合える状況を生成しているのである。

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★森の中の私立高校ということもあるのかもしれない。背景には高尾山が控えいるから、どこか厳かで、どこか癒しの空間で、なにか地球全体を感じないではいられないし、静かに耳を傾けたり、ゆったりと静かに語り合っても空気が実によい。

★大変人気のある高校であるが、定員充足していながら、少人数制であるから、授業も面談の空間でも、どこでも同じように対話がある。この「対話」が、実は並のコミュニケーションではない。生徒の自己肯定感は、持続可能性にすることはなかなか難しい。それに、生徒によっては万能感と肯定感を間違えるし、自分のすばらしさに懐疑的で不安感がいっぱいの生徒もいる。

★これは、大人も同じで、世間とはそういうものであるが、聖パウロの場合は、互いの目配り、気配りがすてきなのだ。もちろん、たがいのというのは、教師同士、生徒同士、教師と生徒と縦横無尽の関係である。

★これを可能にしているのが「対話」なのだが、聖パウロ学園の「対話」とは何かというのは、極めて豊かで一言では話せないし、その豊かさを先生同士が語っても尽きない時間を日常の中でかけている。

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★授業をみると、英語では、ネイティブスピーカーの教師と日本人教師の連携関係がうまくいっているし、ディスカッションやプレゼンテーションは当たり前である。文法は文法できちんと学ぶが、ライティングやスピーチでは、文法的誤りを恐れずに、自分の想いを大事にしている。その想いが心身に充満するのは、教師と生徒との対話やディスカッションの機会がたくさんあるからだ。

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★数学は、生徒がどのタイミングで最適な「置換」ができるのか、対話によって生徒が気づく瞬間を見守っている。教えるのでも誘導するのでもない。間接的な仕掛けを対話によってマインドセットしていく。数学は「置換」ることによって、ルビンの壺のように見えなかったものが見えるのだと。

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★そして化学の授業と世界史の授業がこんなにシンクロしているのかと、また感動するのだ。

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★化学の世界は、元素という目に見えない世界をどのように生徒とイメージし化学記号や化学式に移行できるか。実はこのイメージが重要だ。それゆえ、化学の教師が日常の化学反応を次々と化学記号で物語にしていく。理系も文系も区別なく、化学の元素の世界に没入していくのだ。

★世界史もそうだが。歴史物語というより、世界の神話や日本の昔話の背景にある歴史的世界観を紐解いていくストリーテラーなのである。

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★国語は、もちろん読解リテラシーや小論文を書くトレーニングもするが、それらは「編集」の視点に収束していく。だから、教師がストリーテラーなだけではなく、生徒も物語を企画提案を編集していく。

★「置換」によって発見する数学的思考は、発想を生み出す泉であり、化学や世界史は、目に見えない分子の異次元の世界や歴史という時間と空間の世界を物語に「置換」るテクノロジーである。そして英語や国語は自らのいまだ目にしない未来を紡ぐ表現を「編集」するテクノロジーである。

★果たして、この発想、テクノロジー、編集するスキルはいかにして実装できるのか。その根源がPBLのコアでもある「対話」なのである。

★聖パウロ論を書くにはまだまだリサーチが足りない。始まったばかりだ。しかい、まずは感動的な教師と生徒の関係があることを紹介したかったのである。






 

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「深い思考スコア」と「偏差値」(04)首都圏女子中学校 「深い思考スコア」ベスト30

★晶文社学校案内編集部発行の「首都圏中学受験案内2020年度用」に記載されている「思考コード」で「深い思考スコア」を算出し、首都圏模試の「偏差値」との関係を読み取っているが、今回は、女子校の相関グラフを作成するときのデータから「深い思考スコア」ベスト30の一覧を紹介したい。

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★偏差値が40レンジの女子校が、全体「深い思考スコア」ランキングベスト30の中に、11校入っている。共立女子第二は九段の共立女子を超えて堂々1位である。

★九段の共立女子同様、適性検査型ではなく、独自の深い思考を問う問題を開発している。これは、このような開発ができる教師陣が存在するというコトを示唆しているし、深い思考を学ぶ意欲のある生徒が存在しているというコトも示唆している。

★女子聖学院も男子聖学院同様、アグレッシブな教育出動を実践していて、メディアでもよく取り上げられている。トキワ松は、海城よりも前にPAという自己内省的かつ身体感覚的なプログラムを取り入れていて、多方面で話題になている。

★東京女子学園も英語教育で活躍し、東京純心もアクティブラーニング的なプログラムを21世紀に入るや実践してきた。

★桐朋女子は、20世紀から今でいう新タイプ入試は行ってきたし、その教育の独自性はあまりに有名だ。

★日本大学豊山女子は、いちはやく図書館を活用した思考力入試を行い、女子の未来を拓く知の重要性を説いた。

★京華女子は、もともとアート的な活動が活発で、今やその伝統と新しい知性が統合されている。

★玉川聖学院の人間教育は、全国から見学に来るモデルにまでなっている。

★十文字は、その独自の英語教育が有名で、英語の思考力教材を編集出版する教師が活躍できる学校である。

★どうやら、女子校は、もはや偏差値で選択する時代ではない。

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「深い思考スコア」と「偏差値」(03)首都圏女子中学校 「深い思考スコア」と「偏差値」の関係で強烈にわかるコト

晶文社学校案内編集部発行の「首都圏中学受験案内2020年度用」に記載されている「思考コード」と「偏差値」の関係を、今度は首都圏女子校でみてみよう。男子校とは全く違う事態が起こっている。これは、ある意味、20世紀社会の鉄鎖をぶち切り未来に向けて動き出すための女性の環境の変化を映し出しているとみなせるかもしれない。

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★男子校と同じように、全体「深い思考スコア」と首都圏模試センター「偏差値」を、同書のデータを活用して作成。算数と国語のデータが判明している学校を中心に調べた。新タイプ入試についてのデータがない一部の学校は、私の方で推計した。基本的に、適性検査型は、思考力入試などとは違い、公立中高一貫校のスコアを超えるもはない。新タイプ入試でこの適性検査のスコアを大幅に超えるのは、やはり私学独自の「思考力入試」「自己アピール入試」などである。

★さて、男子校の散布図と比較すると、全く違うコトがわかるだろう。男子校の場合は、相関係数が0.60であるが、女子校の場合は、0.26である。女子校は、男子校に比べ、新タイプ入試を行うところが圧倒的に多いため、このような結果になる。

★この姿を見て、偏差値で読めないから、新タイプ入試は評価が正しく出ないと語る見識者もいる。しかし、これは男性の識者の場合が多い。ここに実はSDGsの17の解決ゴールの1つジェンダーの問題が横たわっている可能性がある。

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★全体「深い思考スコア」ではなく、算数と国語だけの「深い思考スコア」と「偏差値」で相関図を作成すると、上記のようになり、今度は相関係数が、0.81になる。男子が0.78だったから、女子校の場合は強烈な相関があるといえる。

★しかし、男子校と決定的に違うことは、算数と国語の「深い思考スコア」40以下の女子校が偏差値の高低に関係なく多いというコトである。これは、結局女子校の算数と国語の問題は男子校に比べ「浅い思考」=「知識の確認」問題がたくさん出題されているというコトを意味している。

★同じ中学受験生でもシングルスクールに応募する男子と女子とでは、思考の深さに違があるというコトを意味する。ここに思考力格差を生み出す環境があるわけだ。

★これは、女子校の数が多く、生徒募集の戦略と学びの質のバランスを前者に重きを置かざるを得ない、受験市場の偏った環境があったからである。これは、女子にとっては長い間「鉄鎖」であっただろう。この違いが、就活や仕事においても影響してくる。

★つまり、中学受験の世界でさえも、社会構造的な男女の格差の影響を受けていたのであった。ところが、新タイプ入試によって、そのような格差の鉄鎖をぶち切る動きを多くの女子校自身が開始したということだろう。

★すでに桜蔭、鴎友学園女子、白百合、雙葉などは、新タイプ入試を行わなくても、「深い思考」を要する問いを多数出題してきた。OGが男性顔負けの活躍をしているのは、そうなる理由がきちんと学びの環境にあるということなのである。

★ところで、女子学院は、これらの学校を超えて、歴史的にも女性の鉄鎖をぶち切る重要な役割を果たしてきたし、今もそうであるにもかかわらず、中学入試では「深い思考スコア」が低い。いったいこれはどういうことだろうか。実はもともと女子学院は面接が独特で、これは試験ではないが、ペーパー試験が受験生にとってはそれほど難しくないので、差がつかない。そこで結果的に面接が選抜判断に参照される。

★したがって、そこで受験生に投げられる問いは、創造性の違いが明快にわかるものになっている。ケンブリッジやオックスフォードでは、Aレベルテストでは、差がつかないので、口頭試問を行う。結果的に女子学院も同様のメカニズムになっているということだろう。つまり、女子学院は、隠れ新タイプテスト実施校であると言えるかもしれない。

★ここ数年話題のミネルバ大学の入試は、口頭試問であり、自覚的に論理的・批判的・創造的思考力を試す問いを投げかけている。中学入試で年々増えている新タイプ入試は、このミネルバ大学の動きとシンクロするとは、ミネルバ大学当局のスタッフが言っているぐらいだ。

★この鉄鎖は、女子のみならず、男子もそうだ。男子は男子の中で格差があり、男子と女子との間で格差があるという多重構造である。この複雑な鉄鎖をぶち切る動きが新タイプ入試を行っている学校から生まれているのである。

★男子校では聖学院と佼成学園などの学校が動き出しているが、男子校の中では少数勢力だ。しかし、だからこそ、これらの男子校が希望の私学と言われるゆえんなのだ。それに比べ、新タイプ入試を行う女子校は多い。女子校は女子校特有の鉄鎖があり、それをぶち切るために、一つは新タイプ入試の開発、もう一つに共学校の動きがある。両方一遍に行う学校もあるのは、説明するまでもないだろう。

★思コードという新しい基準が、中学入試の動向を広報戦略的側面だけではなく、知による鉄鎖をぶち切る真理への自由を解放する根源的な教育出動があることを映し出すコトになっていると言えまいか。

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2019年5月 8日 (水)

「深い思考スコア」と「偏差値」(02)首都圏男子中学校 「深い思考スコア」ベスト20

★前回から晶文社学校案内編集部発行の「首都圏中学受験案内2020年度用」に記載されている「思考コード」で「深い思考スコア」を算出し、首都圏模試の「偏差値」との関係を読み取っている。今回は、前回の相関グラフを作成するときのデータから「深い思考スコア」ベスト20の一覧を紹介したい。

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★どんな点が読み取れるだろうか。

1)栄光、開成、麻布、駒場東邦、武蔵は、全体の「深い思考スコア」も高いし、算数と国語の「深い思考スコア」もバランスよく高い。

2)城北、聖学院以外は、算数の「深い思考スコア」が国語よりも高くなっている。

★東大の合格数で群を抜くには、算数と国語の「深い思考スコア」がバランスよく、どちらも60以上出題する必要がありそうだが、海城と聖光学院は、そうなっていない。これは、栄光、開成、麻布、駒場東邦、武蔵とは違い、両校は帰国生入試にも力を入れ、英語教育あるいはグローバル教育に、先の5校に比較して、かなり力を注いでいるからなのかもしれない。

★城北は、東大の進学指導のみならず、英語教育やICTにも力を入れ出している。入試問題も算数と国語の「深い思考スコア」のバランスもよい。もし、「深い思考スコア」を算数、国語両方とも50にすると、開城、聖光学院に並ぶ可能性がある。

★また、聖学院と佼成学園は、教科入試では、まだ「深い思考スコア」の問題を出題していない(あくまで2018年段階。上記データは2018年度のものであるから)が、新タイプ入試では「深い思考スコア」の問題を出題している。実は教科入試も新タイプ入試も両方に出願している応募者も多く、聖学院と佼成学園への入学準備の段階では、「深い思考スコア」の問題にも挑戦しているケースが高い。

★前回の記事のグラフで、聖学院と佼成学園が特異点領域にあると語ったが、それは、このような意味があるのだろう。2013年くらいまでは、偏差値の高い低いで、「深い思考スコア」の問題に取り組むかどうかを決めていた場合も多かっただろうが、2014年ころから、急激に増えてきた新タイプ入試によって、多くの生徒が「深い思考スコア」の問題に取り組むようになった。

★いずれ紹介するが、公立中高一貫校の問題は、この「深い思考スコア」の問題の出題が多い。すでに中学に入学する段階から、このような問題に取り組むことは、6年後に大きな影響を与えることは、イメージするのは難しくない。すでに、公立中高一貫校は、進学実績のみならず多様な学びの領域で大きな成果をあげている。私立中高一貫校もその例外ではない。

★私立中高一貫校の新タイプ入試は、2021年の春(大学入試改革初年度)にマインドセットしているところが多いから、2021以降の大学進学実績の地図がどう変わるのか注目したい。すでに、海外大学への進学が、偏差値ではなく、「深い学び」の環境があるかどうかで、決まっている昨今の傾向を見れば、変わる可能性はかなり高いだろう。

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2019年5月 7日 (火)

「深い思考スコア」と「偏差値」(01) 首都圏男子中学校の場合

晶文社学校案内編集部発行の「首都圏中学受験案内2020年度用」に記載されている「思考コード」と「偏差値」で、興味深い傾向を読み取ることができる。

★各学校の思考コードのうちB2・B3・C2・C3の領域を「深い思考」と呼んでみたい。B軸は論理的思考だし、C軸は批判的・創造的思考であり、レベル2・3は、論理やネットワーク、ループが複雑になる=3つ以上のつながりがあるから、「深い」という修飾語を付けて構わないだろう。

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★そして、「算数」と「国語」、および適性検査型及び思考力入試の「新タイプ入試」について、その「深い思考」の領域のスコアを合算してみた。

★たとえば、麻布の算数は、B2とB3の和は60、C2とC3の和は0であるから、麻布の算数の「深い思考スコア」を60として産出する。国語の「深い思考スコア」は65。新タイプ入試は行っていないから、この項目の「深い思考スコア」は0。したがって、60+65+0=125となり、これを、麻布の中学入試の「深い思考のスコア」とする。

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★こんな感じで、首都圏男子校30校の「深い思考のスコア」を出し、同書に記載されている「首都圏模試の偏差値」との散布図(相関図)を作ってみた。相関係数は0.6だから、関係がないともいえない。しかし、散布図をみると、聖学院と佼成学年は、ある意味特異点に位置している。

★算数と国語の和だけで出した「深い思考スコア」と「偏差値」との相関係数を出すと0.78だから、どうやら、新タイプ入試が加わると偏差値との相関が減少するようだ。すなわち、新タイプ入試を加算した聖学院と佼成学園は、他の男子校と違う何かがあるということだろう。

★なお聖学院の思考コードは、一般の国語と算数しか掲載されていない。同校の思考力入試は多数のメディアでも注目されているから、私の方で推測して80とした。もし、2019年度の特待アドバンストと思考力入試、および結果偏差値を使うと、散布図にあるように右上がり方向にシフトするはずである。

★このことは何を意味するのか。少なくとも、聖学院が偏差値にかかわりなく人気があり、偏差値60の生徒が、偏差値ではなく、自分の才能を開花できる環境があるという理由で選択している価値がデータ上現れているともみなすことができる。

★今まで、理念や言語的理屈だけで述べられてきた才能開発と新タイプ入試の関係がデータ的に検証される時代がやってきたのかもしれない。

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2019年5月 5日 (日)

未来を創る教育<06>21世紀型コミュニティの可能性

★コミュニティと組織は違うだろうか。まして21世紀型コミュニティとか21世紀型組織となるとどうだろう。たとえば、株式会社なら、経営的コミュニティを維持運営するために組織がある。学校も経営的な組織と教育組織がある。しかし、株式会社に比較すると学校は教育コミュニティのイメージが強い。

★また、実際には株式会社の場合は、株主コミュニティがあるし、学校も理事会コミュニティもある。組合コミュニティというのもある。このコミュニティを維持運営するためにあるかのようだ。国家は、国民コミュニティなるものがあるはずだが、この絆は感情的なものよりも税制度という組織的なつながりが前面にでてくる。国家のコミュニティはどちらかというと官僚コミュニティや政治家コミュニティというイメージが強いかもしれない。しかし、その背景には法律家や会計士のコミュニティがある。

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★非常に複雑だ。事務所という組織とその組織同士のコミュニティ。その事務所もそのコミュニティも多様なステークホルダーとネットワークをもち、そのステークホルダーもそれぞれ事務所とコミュニティのネットワークにつながっている。

★新しい組織やコミュニティが誕生したり消滅したりしているが、それは誰かが創りたいから創ったのか、閉じたいから閉じるのかといったら、それはこの複雑なネットワークが必要とするかしないかに拠る場合がほとんどだ。

★組織にしてもコミュニティにしても、実はその複雑系のネットワークの目に見えない要請が生み出している。その要請をSoulという。Soulが多くのネットワークに認められ、その複雑系ネットワークが最高善に通じるものであれば、持続可能だし、そうでなければ消滅する。

★近代はファシズムみたいな暗黒面のコミュニティを時々生み出していくが、デモクラシーネットワークがその都度、それを撃破する。今のところ、いろいろ言われているが、デモクラシーの複雑系ネットワークの目に見えないSoulは生き生きとしている。

★21世紀型コミュニティは、このSoulを分有している組織によって持続可能性を増大するだろうし、自らもこのSoulを共有し続けなければならない。そして、そのために多くの場合、たとえば、ロシア正教のイコンやHOPIのカチナ人形のように、その目に見えないSoulを見える化して伝統を継承する。現代的には会社やコミュニティの「ロゴ」がそうだ。

★しかし、ロゴとイコンやカチナ人形の違いは、ロゴを造るのは、組織であり、イコンやカチナ人形を創るのは、組織だけではなく、メンバーもである。メンバーは新しい血が増えていく。その新メンバーもまたSoulを見える化する。だから新しいアイデアも加わる。イコンもカチナ人形も久しい歴史の中で少しずつ多様化しているのは、そういうわけだろう。

★たとえ太陽王ルイが絶対君主だったとしても、彼があの帝国をつくったわけではない。太陽王のロールプレイはしただろうが。官僚や貴族や軍人、市民が目に見えないSoulを共有したからだ。しかし、そのSoulを共有できない人々があまりに多かった。デモクラシーのSoulの方が普遍的だったから、やがて、滅んでいくのだった。

★よく1人では何もできないとコラボレーションの話がでてくる。それは今始まったことではなく、人類が誕生した瞬間からそうなのだ。エヴァンゲリオンの不安が故の人気は、この誕生を否定する時代の預言である。そして、その預言は、21世紀に到来しているAI社会が担っている。

★その預言が平和をもたらすのか殲滅をもたらすのか。希望と不安が揺れ動く。21世紀型コミュニティとか21世紀型組織とか、いったいどうなるのだろう。少なくともトップダウンかボトムアップかとか、ティール組織かという話は、この壮大なコミュニティ創生の歴史の動きに耐えられるかどうかはわからない。

★ただ言えることは、コミュニティは誰かが創るのではなく、Soulを現実態にするロールプレイの共演の新陳代謝の持続可能性というものが生成しているというコトなのだ。「私が作っているのだ」と語る人のなんと多いことか。20世紀型コミュニティや組織は、十牛図でいえば、やっと2番めの図に進んだあたりだろうか。21世紀は、せめて8番目まで歩を進めたい。

★そりゃあ、急転回、激動のダイナミクスが生まれるはずだ。

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2019年5月 3日 (金)

戦略世界から生活世界へ いかにして可能か?

★「生活世界(life world)」という言葉は、エトムント・フッサールやユルゲン・ハーバーマスが使っているが、それは彼らの時代を支配しようとした暗黒面から防衛するあるいは奪還する人間的な世界という意味で使われてきた。フッサールは第一次世界大戦を経験し、第二次世界大戦がはじまる前年に亡くなった。

★ハーバーマスは、第二次世界大戦を経験し、戦後から冷戦終焉も経て、今も健在だ。ナチスに抑圧されたフランクフルト学派の研究所(IfS)再建に一役買いつつも、所長になることは辞して、さらなる新しい道を歩んでいる。その目標の一つに「生活世界」がある。

★ウィリアム・モリスは、彼らよりも前の世代。19世紀に生きた多彩な逸材。「生活世界」という言葉は使っていないだろうが、2つの世界大戦やその後今日まで勃発している戦争やテロの源流の一つである産業革命からいかに市民生活を防衛していくかあるいはデザインしていくかその構想やイメージを「ユートピアだより」という小説にしている。このユートピアは、AI社会でなければ実現できないような社会で、モリスの豊かで鋭い未来予測イマジネーションには驚いてしまう。

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★ハーバーマスは、それぞれの時代の暗黒面に注目するというよりは、近代のメカニズムが、「生活世界」と「戦略世界(彼自身は戦略的行為としているが)の葛藤の歴史だと捉えている可能性が高い。果たしてその解釈が正しいのかどうか、私はハーバーマスを研究しているわけではないから、それは専門家に任せて、私はあくまで読者の1人としてある着想を持ったという話をしたいだけだ。

★「生活世界を戦略的行為によって植民地化している」とハーバーマスは語っているから、そのように考えていたのだろうと感じたわけだ。しかし、私はモリスのように「生活世界」はまだ世の中には存在したことがなく、それを望むことは「ユートピア」を描くのと同じことだと思うのだ。ただし、モリスは、このユートピアを社会主義的社会にショートさせてしまったという19世紀近代の社会の制約性を免れていない。

★社会主義にも資本主義にも「生活世界」は実現されていない。それは、モリスらのアーツ・アンド・クラフト運動そのものにはあったかもしれないが、生活世界として市民生活には広がらなかった。その運動は、バウ・ハウスやウィーン世紀末のアート活動、ロシアアバンギャルドに広がりはした。東急のルーツである田園都市株式会社(渋沢栄一創設)にも影響を与えた。

★そして、たしかにそれらは、その時代その時代の暗黒面に抑圧されてきたわけだ。この流れにあって、その暗黒面にあの手この手を使って、サバイブして今も脈々とその理念を継承し実現している団体が実は日本の私立中高一貫校である。すでに当事者は忘れているかもしれないが。

★そういう意味では、この生活世界という理念の系譜の私立学校が明治維新にできたのは奇跡であり、明治維新だったからこそ、生まれる条件があったということだろうが、それはまたいずれ考えたい。

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★いずれにしても、ウィリアム・モリスは産業革命から生まれた暗黒面と対峙したし、フッサールは、第一次世界大戦を生み出す暗黒面と対峙した。ハーバーマスは、第二次世界大戦以降も姿を変えて現れる戦争を生み出す暗黒面と対峙した。そして、今私たちは、産業革命から生まれながら突然変異体となったAI社会から生まれる暗黒面と対峙しようとしている。

★ここで注意をしたいのは、産業革命やAI社会そのものが暗黒面なのではない。善なる側面と表裏一体なのである。しかし、AI社会が産業革命と大きく違うところは、機械の自動化ではなく、自律化という突然変異体となったことである。

★このことによって、化石燃料をゼロ化する可能性が見えてきたのである。産業革命の根源は化石燃料依存であり、それを巡り戦略世界が暗躍してきたわけだ。しかし、AI社会はそこを無化する可能性がある。

★こうなると、AI社会が暗黒面を標榜する意味がない。AIマシーンが1人1台の時代になったら、そもそも権力構造を維持する意味がない。それよりもすべての人々が幸せに生きていける生活世界を着々と創ったほうがよいのである。権力闘争というルサンチマンによるモチベーションが消滅した時、モチベーションを生み出すものは何か?それはアーツ・アンド・クラフトということである。

★人口減が経済危機に直面するのは、化石燃料の覇権競争から脱落するからである。しかし、Aiによってそれを解消するときがいよいよ到来する。

★クリエイティブクラスが誕生するというのは、そういうことなのであるが、当面、産業革命以降の近代化が頂点に達した戦略世界20世紀と生活世界のスタートである21世紀は同居し続ける。

★悲惨な事件もまだまだ起こる。戦略世界と生活世界の平衡をとりながら、進むしかないが、2040年には、生活世界の重要性が広まるであろう。それを生み出すプラットフォームの1つが私立中高一貫校の中に隠れている。これを見出すのが私のライフワーク。≪私学の系譜≫の探究とはそういうことである。

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2019年5月 1日 (水)

令和 フォード主義からアップル主義へ 禁断の果実のリスク?

★令和になった。東洋経済ONLINEでは、<先進国の子も「労働力」にするコワい教育の歴史5/1(水) 6:20配信>という記事で、Appleのジョン・カウチ(アップルの教育部門初代バイス・プレジデント)のコンセプトを紹介している

★簡単に言えば、フォード主義からアップル主義にシフトするよというお話。フォード主義は、資本主義の3つの原理「効率性」「計算可能性」「予測可能性」を科学的合理主義的管理に徹底したベルトコンベアー型の大量生産方式であるが、その考え方はテイラーによる。これに対してアップル主義は、ラップトップやタブレット、スマホなどのデバイスによるパーソナライズ化方式。

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★このパーソナライズ化方式の理論的背景は、アラン・ケイ。そして、ジョン・カウチは、20世紀型教育を大量労働者生産様式であり、21世紀型教育は、個人の才能を大切にした教育であり、それにはパーソナライズ化が必要なのだと。そしてそれを可能にするのがApple社の多様なデバイスやアプリだというコトである。つまり、教育のリワイヤリングをApple社は牽引するよと。そのことについてこう語っている。

<教育のリワイヤリングを突き詰めると、「生徒に学習させたいことの教え方を変えること」という意味になる。情報を配って事実をムダに暗記させることは、もうやめるべきだということだ。

これからの教育は、子どもたちに理解させることを変えると同時に、批判的にものを考えるクリティカルシンキングや自由にアイデアを広げるクリエイティブシンキングを教え、子どもが自ら新しいことを発見し、理解し、生みだせるように導くものであるべきだ。

学習に関するリサーチと最新テクノロジーを活用して、いまの生徒一人ひとりのニーズに即して学習体験をパーソナライズ化する必要がある。>

★20世紀型教育が、労働者を養成する装置であるという考え方は、ミシェル・フーコーやピエール・ブルデューが、昭和の時代に語っている。

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★したがって、ジョン・カウチは、そのような社会学的課題発見に対し、一つの問題解決策を提案し、実践しているわけだ。フォーディズムからアップルイズムへというわけだ。

★しかし、一方で、このパーソナライズ化、すなわち「個人化」に対しても、ジークムント・バウマンやウルリッヒ・ベックなどから、社会的リスクを包含していると批判されている。

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★昭和は、明治時代に誕生したフォーディズムをアレンジする形で、トヨタの自動車組織の設立から始まり、1989年のベルリンの壁崩壊を招く年に幕を閉じた。大量生産方式が少なからず影響し、もたらしたであろうことは、明治は、日清・日露戦争、大正は第一次世界大戦、昭和は第二次世界大戦である。

★それが平成になってゲームボーイが爆発的に売れたことに象徴されるように、デジタル化の時代が、IT革命の光と影をもたらした。個人の力でテロという新しい戦争が始まった。

★国家社会を越境して広がるシリコンバレーの象徴GAFAは、グローバル社会の液状化現象に影響を与え、SNSで記号上つながっている仲間を生みだし、戦略的世界では絆はあるが、生活世界では絆は液状化し、個人化が進み、国家レベルの問題も「自己責任」として抑圧的に処理される社会の誕生となった。

★昭和の時代に、それを予言した思想家にハーバーマスがいる。社会はコミュニケーションによって成立するが、そのコミュニケーションが、マスメディア主導になると、物質的道具立てによる効率主義・合理主義的な戦略世界を構築することになる。一方自然言語を中心とする言葉による合理的かつ内省主義的な生活世界を構築することもできる。

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★バウマンらのように、戦略世界を構築する個人化社会になるとみなすのか、ジョン・カウチ自身が次のように語る個人が世界を変える時代になるとみなすのか、それは今のところ微妙だ。

<マハトマ・ガンジーもこう言っている。「世界を自分が見たいと望むものに変える存在になりなさい」教育のリワイヤリングを求める動きに貢献し、対話に参加することで、あなたにも、世界をあなたが見たいと望むものに変える存在になってもらいたいと願っている。>

★もちろん、平成になってリチャード・フロリダが語ったように、産業構造は大きく変わり、クリエイティブ・クラスが世に現れている。すでに、マックス・ウェーバーが希求していた生産道具が資本家から個人にようやく解放されたからだ。その生産道具とはパーソナルコンピュータである。

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★ベルリンの壁が崩れるところから始まった平成。デジタル化の波は、しかし金融危機を生みだし、テロを可能にし、原発をリスク回避不能な古いテクノロジーにしてしまった。

★これらを解決すべく国連はSDGsを発動している。しかし、それが生活世界を構築するのではなく、戦略世界の暴走を防ぐためだけの方策だとするなら、どうしても止められないAI戦争がはやくも預言されている。

★令和は、平和の象徴になるのか、新たなAI戦争の預言となるのか。たしかに、ガンジーの「世界を自分が見たいと望むものに変える存在になりなさい」というパーソナライズ化は重要である。

★しかし、フォード主義からアップル主義へというシフトが、テイラー主義のアレンジに過ぎないのか、戦略世界から生活世界へ、すなわち優勝劣敗主義からWell-being主義へのパラダイム転換のか、その見極めはとても大切である。21世紀型教育が、後者を標榜するのは言うまでもない。

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