2020年首都圏中学入試動向(02)「新タイプ入試」激増と世界が求める「創造的思考力」との関係
★今春の首都圏中学入試では、「英語入試」のみならず、それ以外の適性検査や思考力入試、自己表現入試などの「新タイプ入試」も激増。この傾向は今後も続くというか、おそらくもっと過激になる。今言うと、いろいろあるから、いずれその過激さは触れたい。
★この傾向は、私学の生徒募集戦略から始まった。公立一貫校の適性検査型に対応し、流れを私学に還流させようとしたものだった。しかし、一方で、そのウネリは、塾が作ってきた中学受験市場に対し、学校が主体的に中学入試市場を創る道を拓いた。
★最初は、塾側は、新タイプ入試は受ければ誰でも入るというぐらいの感覚だったが、実受験者も10,000人を超え、実際に合格する割合も63.0%と決して易しい入試ではなくなった。市場となったからには、塾も「新タイプ入試」に対応する講座を設け始めようとする動きも出るくらいになった。
★かくして、塾主体の受験市場と学校主体の入試市場の併存期が訪れた。いずれは融合するだろうが、まだまだ過渡期である。
★さて、この新タイプ入試は、実は、生徒募集戦略のためだけではなかった。大学入試改革に影響を確かに受けているから、その本質が見えにくい。しかし、思考力入試など、適性検査型入試以外に中学入試市場が創意工夫し始めたちょうど2013年に、OECDは、PISA以外にPIACCという成人向けの学びのスキルを評価する報告書を公開した。
(内閣府の資料から)
★日常的な成人の学びのスキルにおいて、日本は読解力と数的思考力などはトップ。しかし、PIACCでスコアが日本より低い米国は、仕事におけるスキルでは日本より高い。これが意味していることは、日常生活と仕事で使うスキルが、日本は変わらないが、米国ははっきり違うということを示唆している。
★どう違うかというと、日本は基礎学力=知識・理解のレベルで生活も仕事も成り立っているが、米国は基礎学力はそもそも、問題にしていない。つまり、創造的思考を要するスキルを重視しているということだ。
★大学入試改革は、ここから始まったといってもよい。というのは、経産省はその当時すでに、生産労働人口の減少だけではなく、労働の質が論理的思考スキルのみならず創造的思考スキルが重要であることを、文科省にも情報提供していた。文科省も、それを受けて、産業構造が変わったら、今の初等中等教育と高等教育のシステムで対応できるのか、2009年ころからはじめていたリサーチをもとに、すぐに動き出した。
★それが、今混迷を極めているらしい大学入試改革。しかし、2030年には、労働生産人口は急激に減少するだけではなく、AI社会に対応できるIT高度人材が60万にくらい不足するということも経産省と協力して予測している。
★半分は高度外国人材になんとか日本で仕事をしてもらえるように、環境を整備中だが、さすがに、国内の高度人材も育成しなければならない。
(資料は内閣府から)
★2015年段階で、すでに米国と中国では、AIに対する研究や各国との協働研究が進んでいるのに、日本はだいぶ溝をあけられている。生産労働人口は減少するは、IT高度人材は不足するはで、リスクというより、すでに危険水域に入っているわけだ。
★2007年に改正されたときに学校教育法の文言に「創造性」が明示された。高校で創造性の育成を行うと明文化されている。もし創造性を無視するような学習指導要領を作成するならば、文科省は法律を守れなかったことにもなる。経済的にも制度設計的にも後手後手にまわることになる。
★しかしながら、もし私立中高一貫校に毎年進学する約8万人が、創造的思考力を有する人材育成の環境に置かれたら、2030年はかなりIT高度人材を養うコトができ、国力のダメージは救われる可能性がある。その間に、公立の教育を、一部の指定校だけではなく、全体の教育の質を向上させればよい。
★それゆえ、私立中高一貫校の入試市場は新タイプ入試を発展させているのである。もちろん、現場の先生方がみなこのことを自覚しているのではない。しかし、受験生の保護者の中には、このIT高度人材として、AI関連企業、AI医療関連、AI金融業界などで活躍している方も多く、市場ニーズは高まっている。すくなくとも、広報にかかわる先生方は、この市場の変化には敏感である。
★教育の本質として、創造的思考は大事であるが、本質だけでは、市場は成立しない。市場が欲することが重要なのである。時代はクリエイティビティを欲している。それは間違いない。新タイプ入試の評価は、この新しい中学入試市場で支持されているのだ。
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