【GW特集】工学院の新たな時代[03]PBL型授業の浸透
★工学院の授業は、PBL型授業が中心。Problem based Learningではなくて、Project based Learning。「プロジェクト」という意味を大切にしている。プロジェクトというと、日本だとすぐに企業で実施しているプロジェクトチームを思い浮かべ、会社から与えられたミッションを達成するための手法だと思われる。
★その意味も当然あるが、それよりも、教師にとって、教科を通してどんなものの見方を共有し、そのことによって自分も探究の道を常に深めていき、生徒が自分の人生を歩む地平を自ら開くサポートをするミッションがプロジェクト。それがあるから、生徒は、その教科を学ぶことを通して何かしら自分の興味と関心をさらに発展させ深めていき、将来、自分の価値を世の中に投影(プロジェクト)できるヒントを見出したり、生徒によってはそのまま自分の未来に影響を与える学びとなるかもしれない。
★PBL型授業は、教師にとっても生徒にとってもプロジェクトという研究の意味を持っているわけだ。いわば、協働研究を行っているイメージ。
★したがって、教科の授業は、知識を伝達するわけではなく、知識として成就していくプロセスを自らの思考のプロセスに置き換えて、新しい知識を研究して、創造する学びをする。もちろん、すべての教科が得意という生徒はそう多くないが、いくつかの教科という切り口から、自分の才能を見出すことになる。それがPBL型授業の特色である。
★ハワード・ガードナー教授の多重知能(MI)は、実は日本の多くの教科をPBL型で行うことによって開発される。米国では、日本のようにこれだけ多くの教科を学ばない。イギリスのAレベルでも、IBでもそうだ。ガードナー教授は、その偏りが多くの才能を見逃していることに気づき、MIを研究していったに違いない。
(鐘ヶ江先生の数学の授業もPBLだが、チームで行うことを重視するのではなく、生徒同士の対話の様子から、一人ひとりの理解の違いを見出してフィードバックする機会として活用している。いわゆる憧れの最近接領域の発見へのアプローチとしてPBL型授業の場が活用されている。)
★日本人は、すぐに欧米の教育を高く評価し、自分の国の制度をネガティブにみなしてしまいがちだ。多重知能に照らし合わせれば、日本の教育はそれなりによい。ただし、一方通行型授業では、せっかくの多角的な学びができる機会があっても、才能開発には到らない。
★ところが、工学院は、そこをうまっく生かせるように、コンパクトにふだんの授業にPBLを導入した。対話やディスカッション、プレゼンテーションは、才能開発の重要なプラットフォームである。
★先週の土曜日に授業を拝見したが、中1から高3まで、PBL型授業が行われていた。臼井先生の中1の国語の授業では、一文の最適化を議論する授業だった。
★よく一文の中に助詞や係り受けなどの誤りが埋め込まれていて、それを直す正誤問題を学ぶ授業はあるが、臼井先生の授業は少し違っていた。たとえば、「鉛筆はものである。」という一文を提示したとする。この一文は間違いではない。しかし、妥当ではない。何が足りないか議論することによって、主語―述語の関係や修飾語の必要性など文の構成を実感していくPBL型授業だった。
★教務主任の田中歩先生と見学していたのだが、田中先生は英語科教諭でもあるので、すぐに英語という言語との違いと共通点を見出し、これをうまくつなげようと語ってくれた。
★また、英語だと、この一文の妥当性を議論していく思考過程は、すでにクリティカルシンキングを行っていると判断するということも教えてくれた。
★実際、外国人教師も、そのような文の構成要素の分析は、クリティカルシンキングが必要だと語っている。構成や構造を考えることは、問題の難易度にかかわらず、クリティカルシンキングを要するというものの見方は、国語科と英語科の教師の対話によって明快になった。工学院のPBL型授業が発展するのは、このようなふだんの異教科の教師同士の対話によって生まれてくる。
★「対話」(ダイアローグ)を組織作りの核としている田中先生らしいアプローチである。
★そして、臼井先生の授業は分析して終わるわけではない。今度は一文からパラグラフに発展させる授業になっていく。物語を編集する思考錯誤へと。すなわち、クリティカルシンキングの次はクリエイティブシンキングへと発展していくのであった。
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