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2019年4月29日 (月)

【GW特集】工学院の新たな時代[04]CLILのPBL型授業の効用

★工学院は、日本初のケンブリッジイングリッシュスクール。ケンブリッジ出版のテキストを活用し、ケンブリッジ英検を受ける。その向こうにはIELTSがある。そして、工学院の教師は、全員ケンブリッジイングリッシュスクールのコミュニティによる研修を受ける。インターネットベースが中心であるが、英語科主任の中川先生は、このコミュニティの指導者的立場でもある。

★それに、英語科は、4割が外国人教師だから、英語科の会議は当然オールイングリッシュ。ハイブリッドインタークラスは、基本チームティーチングで、数学や理科もイマージョンだから、英語科を超えて教師は英語を使う機会が増えていく。

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★このようなケンブリッジイングリッシュスクールのシステムを工学院は定着させたわけであるが、最も注目すべきことは、英語科の授業はCLIL型PBL授業になっていることだ。日本私立中高連合会の英語部会でもこのCLILは研究されていて、英語科主任の中川先生と教務主任の田中歩先生は、その部会のリーダー的存在でもある。

★その田中先生の高2の英語の授業を見学することができた。田中先生は、独特の心理学的なPBLとCLILを融合している。授業というより、研修のワークショップというスタイルの授業だというとイメージしやすいだろうか。

★とにかく、生徒がストレスを高くすることなく、あるいはナーバスにならないように、心理学的配慮がなされている。これはCLILとはまた別のおそらくオープンダイアローグという心理学的手法の応用だろう。それとCLILがカップリングされているから、見学している側も心地よい。

CLIL(Content and Language Integrated Learning)については、上智大学の池田真教授の資料をご覧いただきたい。じつにわかりやすい。CLILは、上智大学の吉田研作教授の仲間が中心となって推進してきている。あのTEAPも当然CLILと紐づいている。田中先生も日本私立中高連合会の部会で、吉田教授を招いて研修もしているだろう。また吉田研作先生は、工学院で教えているアレックス先生(今は、イギリスで哲学のPhdを取得すべく帰国している)、ジェームズ先生が執筆した著書のレビューも書いている。

あるとき、ばったり田園都市線で吉田教授とお会いした。そのとき、この本は今後の日本の英語教育にとってかなり画期的だと話してくださった。工学院の英語教育を支えるバックヤードはなかなかグローバルでアカデミックなのである。

★田中先生は、もともと授業以外でも心理学的アプローチをするのを得意としている。田中先生は、中学から高校まで、交流分析やエンカウンターによって、カリキュラムマネージメントリーダーの岡部先生と連携して、生徒のGrowth Mindsetを、日ごろから配視している。心理学的手法だから、対話とデータの両面から実は見守っている。心理学は、今ではいろいろな学派の理論が統合され、実践されている。田中先生や岡部先生もその流れだけれど、田中先生はどちらかというとカール・ロジャーズ的対話手法だろうし、岡部先生は心理学というよりエスノメソドロジーベースのガーフィンケル的対話分析手法を得意としているようにみえる。

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★そんな背景を持った田中先生のCLIL授業は、実におもしろい。チェックインは、トピックディスカッションから入る。いきなり英語のミニテストからはいるのではなく、互いに心を開示するところから始まる。

★基本インプロ手法だから、各セクションそんなに時間をとらない。次々と進む。ディスカッションが終わると、単語の学習。記憶することはもちろんするが、派生語と文脈の中での活用を、さらりとやってのける。デフォルトモードネットワーク型記憶手法を活用しているわけだ。脳科学も生きているのがCLILの方法論。

★その後、動物には権利があるかどうかというトピックで、簡易ディベートを行う。ディベートを行うコトが目的ではなく、ディベート準備の手順を示しているハンドアウトを活用して、自分の考えを明晰にし、エッセイライティングすることがゴール。ここからは、スッーと、思考の集中の時間にワープする。すなわち認知心理学的にはフロー状態に生徒は浸りきる。

★とはいえ、時間はそんなにとらない。じゃあ生徒が書いたエッセイはどうするのか。それはedmodoというプラットフォームに生徒は投げ入れておけば、Web上で、田中先生とやりとりができるシステムができている。高校生は、思い思いのラップトップをもってきて、学べるのが工学院の特色。スペックやネット契約などの規定はもちろん遵守されるようなシステムになっている。

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★すなわち、全員1人1台持っているので、授業のチェックアウトも、Quizletで和気あいあいとゲーム感覚で盛り上がって、集中してきた脳を開放して終わることができる。学びのGrowth Mindsetは、この集中と開放の緩急がポイントである。

★今回の授業は、もちろんオールイングリッシュだったが、ハイブリッドインタークラスではなく、ハイブリッドサイエンスコースの英語の授業だった。CLILのCは、Communication、Community、CognitionとContentを意味している。したがって、最初の3つだけみると英語の授業なのだが、4つめのContentという内容をみると、動植物に権利はあるのかという環境倫理というサイエンスコースに必要な内容になっている。

★また、CLILは英語だけではなく他の言語でもヨーロッパでは浸透している。ある意味欧州評議会で生まれたCEFRと連動しているからだろう。したがって、国語とも親和性がある。というよりも、工学院の国語のPBL型授業は日本語版CLILと言っても言い過ぎではない。前回紹介した臼井先生の国語のPBL型授業はまさにそうだ。

★なぜそう言い切れるかというと、CLILの学びの思考レベルはブルームのタキソノミーにより、4Cというコンピテンシーと統合されている。工学院の教科共通の思考基準である「思考コード」もタキソノミーとコンピテンシーが融合されたものである。

★思考力(知性と感性あるいは認知的能力と非認知的能力)をどこまで広げ深めていくかという基準がCLILとシンクロしているのである。この思考コードを作成した一人が田中歩先生でもある。

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