« 2019年3月 | トップページ | 2019年5月 »

2019年4月

2019年4月29日 (月)

【GW特集】工学院の新たな時代[07]「置換」が「転換」に置き換わる時の訪れ

★臼井先生の7分間の授業物語りを、各チームでフローチャートにして、思考コード分析までしたとき、いつものこの一連の「スクライビング」を進めることはしないで、新しい議論を挿入することになった。

★これは今までにない経験だった。授業物語りの最初の「授業の目標」を語る部分について議論になったことはなかった。授業で目標を明快にすることは当然だったので、スルーしてしまうのが常だった。

Dsc01019

★しかし、日本人教師ばかりの先生方のチームが、目標を語る項目は、思考コードで分析することができなかったという発見があったのだ。そこで、そもそも目標を語る意味は何か?議論しようということになった。

★予想していなかった問いの発見に、先生方の議論も燃え上がった。自分だったらどんな思いで語るのか、その効用などについて議論が深まっていった。

★目標の中には、いまここで行う目標だけではなく、どこまで成長していくのか、到達するのかということも含まれている。しかし、それは到達しなければならないというものなのだろうか、それとも自分なりにどこまで成長していくのかを考える機会を語るものなのだろうか。逆転の発想として、目標自体を生徒が考えるというメタ目標を語る先生もいた。

Dsc01021

★ベッキー先生のプレゼンでは、モチベーションの発露や不安の解消という意図、授業が終わったときにどこまで達成できたかがわかる意味があることなどが語られた。

Dsc01024

★両チームの解釈自由性が柔軟かつ包括的だったので、こういうときは抽象的に、つまりシンプルな言葉に「置き換える」作業をする。一語に圧縮するとどう表現できるのか?その議論はまたも盛り上がった。

Dsc01033

★田中歩先生は、思考コードが思わぬアイデアや深い議論を生みだしたのに驚き、同時にそれは思考コードの曖昧な部分が生み出したことであると発想の転換をして、ワークショップの最終のフィードバックで、思考コードをこんなふうにシンプルに変容させてみてはどうかと尋ねなおすシーンとなった。

★「置換」の繰り返しというフラクタルがあるとき新次元に「転換」する瞬間があるが、その共体験をはやくもスタート時点で分かち合えたのである。臼井先生の中1のPBL型授業の物語が、工学院の授業の深層に眠っていた原点を掘り起こすことになったのである。すばらしい仲間の誕生の時となった。

|

【GW特集】工学院の新たな時代[06]学習する組織の種まき

★田中歩先生との授業リサーチの後、放課後TG(才能成長)プロジェクトチームのワークショップがあった。スーパーバイザーは田中歩先生で、私がバックヤードファシリテーター。今まで田中先生方がファシリテーターとして、内省的/内製的研修を行ってきたが、いよいよ次のファシリテーターにエンパワーメント(権限移譲)する段階にはいった。

★PBL型授業で先生方のロールプレイは、あるときは教師、あるときはコーチ、あるときはファシリテーター、あるときはジェネレーター。したがって、先生同士のワークショップでもそれぞれの先生方がマルチなロールプレイができるようになっているはずだし、ここでできれば、授業でもできる。互いの考え方や価値観を情報共有して、ギャップや気づきが新たなイノベーションを生み出すことにもなる。そんなTGプロジェクトが新しく始まった。

Dsc00996  

★授業リサーチとこのTGプロジェクトのワークショップはセットになっている。授業を私と田中先生など数人の先生と見学するが、プロジェクトチームのメンバーが全員で見ることはできない。それぞれ授業を持っているから、そのとき授業を持っていないメンバーに限られるのはしかたがない。

★そこで、ワークショップで、7分間で自分の授業を語ってもらい、シェアリングしていく。今回は臼井先生。臼井先生が自分の行った50分授業を7分間でストーリーテラーよろしく語っていく。

Dsc01001

★TGプロジェクトチームを2つ作って、それぞれ臼井先生の物語をフローチャートに変換していく。まず臼井先生が自らの50分を7分に変換する。その次にメンバーがフローチャートに転換する。情報を物語に変換する作業と物語を図に変換する作業が続く。2つの置換スキルをトレーニングするわけだ。

Dsc01013  

★そして、そのフローチャートの各項目で、教師と生徒がどうかかわったか、赤で書き込んでいく。チームで対話する時に、授業の様子をイメージしていくわけだ。ここでは、フローチャートという図式をイメージに変換するという3つめの「置換スキル」をトレーニングする。そしてプレゼン。イメージや図を言葉に「置換」える。このプレゼンは、毎回ディスカッション後に行うので、実際にはこのワークショップで様々な「置換」え作業を行っている。おそらく10回以上行うことになる。

Dsc01005

★「置換」スキルというのは、アリストレスが大切にしてきたミメーシスという思考作業。ピカソも新しい制作ビジョンを生み出す時、活用した。リベラルアーツの大切な知のスキルなのである。ある意味、このワークショップは「置換」のフラクタルな作業なのである。

Dsc01015

★そして、今度はいよいよ「思考コード」分析。それぞれのフローチャートのそれぞれの項目において、生徒はどこまで思考しているのかあるいはどんな思考をしているのかを分析していく。氷山モデルではないが、授業というのが目に見えないレイヤーが幾重にも重なってできていることを共有できるわけだ。ドコデモシートの枚数がレイア―の数なのである。

★思考コード分析で、田中先生が感動していたのは、ジョエル先生チームのプレゼンだった。ジョエル先生が英語で語り、メンバーの1人山口先生が通訳していく。ここでも言葉の置換スキルが発動しているが、通訳しながら、山口先生がわかったと思わず言葉を放ったのだ。議論している時はまだ腑に落ちていなかったことが、通訳という置換をすることで腑に落ちたということ。

★置き換えスキルの効用が現れた瞬間だった。しかし、田中先生は、さらにジョエル先生が思考コードを捉えかえし、一つひとつの項目がなぜその思考コード番号なのか丁寧に紐解いていったことだった。

★もともと、工学院の思考コードは、ブルームのタキソノミーと1970年代に生まれたコンピテンシーを統合したものだが、それは日本の文化ではなく、欧米の学びの文化であるから、ジョエル先生が解釈することによって、田中先生をはじめ、他のメンバーにも腑に落ちる解説となったのである。

★臼井先生は、自分がデザインした授業の意図が分析されながら共有されることに勇気づけられたと感想を抱くと同時に、そこまで意識していなかったという気づきもあったと。つまり、自分では当たり前んとなっている深層にあるレイヤーを掘り起こしてもらった感覚になったのだろう。

★こうして、臼井先生の授業のビジョンが共有され、チームで協力して、分析をシステム思考で行い、互いに異なるメンタルモデルを発見して尊重し合う学習する組織としての新たなプロジェクトの種まきがスタートしたのである。

 

|

【GW特集】工学院の新たな時代[05]学びのフラクタル空間 n次元の思考を生み出す。

★工学院の学びの空間は誰がデザインしたのか、それとも文化なのかわからないが、フラクタルになっている。古代ギリシア以来の黄金比や日本の伝統的な白銀比などの数列シークエンスが、私たちの美的感覚や文化を無意識化で支えてきたように、コンテンポラリーなアートは基本はフラクタルとその崩しの暗黙知にある。

★工学院は、そのフラクタルな仕掛けが空間に埋め込まれ、アフォーダンスという認知心理学的な効果を生んでいる。

Dsc00850

★PBLそのものの学びの空間が、フラクタルな空間になっている。すなわち小宇宙(チームの島)がフラクタルのように増殖できるようにデザインされている(上記図書館の写真)。この空間は、キャンパスには随所にあり、普通教室もこのように自在に配置できるようになっている。

Dsc00958

★3時間目と4時間目の合間に、朝から歩き回っていた(工学院のキャンパスは広い)から、お腹がすいた。田中先生を誘って早弁(汗)をした。カフェテラスは、いつも混み合うからであるが、メンチカツカレー(これも皿とメンチカツとスポーンの先がフラクタル)を作ってもらう時に、カウンターでおもしろい陳列台を見つけた。

Dsc00954


★思わず、食堂のスタッフの方に許可をもらい、上記写真をパチリ。その方によると、とにかく大量に作る必要があり、おにぎりも同じように並べてある場所があるという。なんてフラクタルなのだろう。そういえば、図書館のファボラボスペースもレゴや3Dプリンターがフラクタルな配置になっている。

Dsc00853

★4時間目の授業見学が終わった後、研修までの時間が少しあったので、その準備のために、工学院大学附属中高の正門真向かいにある大学の校舎にいった。そこには、中高生も活用できるフリースペースがあるからであるが、ここも図書館同様フラクタルな空間になっている。

Dsc00950

★しかし、何よりも、その大学の校舎の壁面がまたフラクタルなデザインになっている。生徒は、正門から出るたびにこのデザインをインプットする。そして、正門を通るたびに、天体望遠鏡のドームがついている校舎のデザインをインプットして校舎に入っていく。

Dsc00990  

★この天体望遠鏡のかなたにみえる宇宙こそ星々のフラクタル群が広がっているのである。かくして、フラクタルな空間で満ち溢れている工学院のキャンパスは、生徒が思考の次元を次々とアップデートしていくイメージを暗黙知としてマインドセットすることになる。

★PBL型授業によって、空間のアフォーダンス効果が開示され、生徒の内面でというか脳内で、思考、創造、挑戦への意志のループがどんどん生まれて脳神経ネットワークのように広がっている。

|

【GW特集】工学院の新たな時代[04]CLILのPBL型授業の効用

★工学院は、日本初のケンブリッジイングリッシュスクール。ケンブリッジ出版のテキストを活用し、ケンブリッジ英検を受ける。その向こうにはIELTSがある。そして、工学院の教師は、全員ケンブリッジイングリッシュスクールのコミュニティによる研修を受ける。インターネットベースが中心であるが、英語科主任の中川先生は、このコミュニティの指導者的立場でもある。

★それに、英語科は、4割が外国人教師だから、英語科の会議は当然オールイングリッシュ。ハイブリッドインタークラスは、基本チームティーチングで、数学や理科もイマージョンだから、英語科を超えて教師は英語を使う機会が増えていく。

Dsc00936

★このようなケンブリッジイングリッシュスクールのシステムを工学院は定着させたわけであるが、最も注目すべきことは、英語科の授業はCLIL型PBL授業になっていることだ。日本私立中高連合会の英語部会でもこのCLILは研究されていて、英語科主任の中川先生と教務主任の田中歩先生は、その部会のリーダー的存在でもある。

★その田中先生の高2の英語の授業を見学することができた。田中先生は、独特の心理学的なPBLとCLILを融合している。授業というより、研修のワークショップというスタイルの授業だというとイメージしやすいだろうか。

★とにかく、生徒がストレスを高くすることなく、あるいはナーバスにならないように、心理学的配慮がなされている。これはCLILとはまた別のおそらくオープンダイアローグという心理学的手法の応用だろう。それとCLILがカップリングされているから、見学している側も心地よい。

CLIL(Content and Language Integrated Learning)については、上智大学の池田真教授の資料をご覧いただきたい。じつにわかりやすい。CLILは、上智大学の吉田研作教授の仲間が中心となって推進してきている。あのTEAPも当然CLILと紐づいている。田中先生も日本私立中高連合会の部会で、吉田教授を招いて研修もしているだろう。また吉田研作先生は、工学院で教えているアレックス先生(今は、イギリスで哲学のPhdを取得すべく帰国している)、ジェームズ先生が執筆した著書のレビューも書いている。

あるとき、ばったり田園都市線で吉田教授とお会いした。そのとき、この本は今後の日本の英語教育にとってかなり画期的だと話してくださった。工学院の英語教育を支えるバックヤードはなかなかグローバルでアカデミックなのである。

★田中先生は、もともと授業以外でも心理学的アプローチをするのを得意としている。田中先生は、中学から高校まで、交流分析やエンカウンターによって、カリキュラムマネージメントリーダーの岡部先生と連携して、生徒のGrowth Mindsetを、日ごろから配視している。心理学的手法だから、対話とデータの両面から実は見守っている。心理学は、今ではいろいろな学派の理論が統合され、実践されている。田中先生や岡部先生もその流れだけれど、田中先生はどちらかというとカール・ロジャーズ的対話手法だろうし、岡部先生は心理学というよりエスノメソドロジーベースのガーフィンケル的対話分析手法を得意としているようにみえる。

Dsc00905  

★そんな背景を持った田中先生のCLIL授業は、実におもしろい。チェックインは、トピックディスカッションから入る。いきなり英語のミニテストからはいるのではなく、互いに心を開示するところから始まる。

★基本インプロ手法だから、各セクションそんなに時間をとらない。次々と進む。ディスカッションが終わると、単語の学習。記憶することはもちろんするが、派生語と文脈の中での活用を、さらりとやってのける。デフォルトモードネットワーク型記憶手法を活用しているわけだ。脳科学も生きているのがCLILの方法論。

★その後、動物には権利があるかどうかというトピックで、簡易ディベートを行う。ディベートを行うコトが目的ではなく、ディベート準備の手順を示しているハンドアウトを活用して、自分の考えを明晰にし、エッセイライティングすることがゴール。ここからは、スッーと、思考の集中の時間にワープする。すなわち認知心理学的にはフロー状態に生徒は浸りきる。

★とはいえ、時間はそんなにとらない。じゃあ生徒が書いたエッセイはどうするのか。それはedmodoというプラットフォームに生徒は投げ入れておけば、Web上で、田中先生とやりとりができるシステムができている。高校生は、思い思いのラップトップをもってきて、学べるのが工学院の特色。スペックやネット契約などの規定はもちろん遵守されるようなシステムになっている。

Dsc00928

★すなわち、全員1人1台持っているので、授業のチェックアウトも、Quizletで和気あいあいとゲーム感覚で盛り上がって、集中してきた脳を開放して終わることができる。学びのGrowth Mindsetは、この集中と開放の緩急がポイントである。

★今回の授業は、もちろんオールイングリッシュだったが、ハイブリッドインタークラスではなく、ハイブリッドサイエンスコースの英語の授業だった。CLILのCは、Communication、Community、CognitionとContentを意味している。したがって、最初の3つだけみると英語の授業なのだが、4つめのContentという内容をみると、動植物に権利はあるのかという環境倫理というサイエンスコースに必要な内容になっている。

★また、CLILは英語だけではなく他の言語でもヨーロッパでは浸透している。ある意味欧州評議会で生まれたCEFRと連動しているからだろう。したがって、国語とも親和性がある。というよりも、工学院の国語のPBL型授業は日本語版CLILと言っても言い過ぎではない。前回紹介した臼井先生の国語のPBL型授業はまさにそうだ。

★なぜそう言い切れるかというと、CLILの学びの思考レベルはブルームのタキソノミーにより、4Cというコンピテンシーと統合されている。工学院の教科共通の思考基準である「思考コード」もタキソノミーとコンピテンシーが融合されたものである。

★思考力(知性と感性あるいは認知的能力と非認知的能力)をどこまで広げ深めていくかという基準がCLILとシンクロしているのである。この思考コードを作成した一人が田中歩先生でもある。

|

2019年4月28日 (日)

【GW特集】工学院の新たな時代[03]PBL型授業の浸透

★工学院の授業は、PBL型授業が中心。Problem based Learningではなくて、Project based Learning。「プロジェクト」という意味を大切にしている。プロジェクトというと、日本だとすぐに企業で実施しているプロジェクトチームを思い浮かべ、会社から与えられたミッションを達成するための手法だと思われる。

★その意味も当然あるが、それよりも、教師にとって、教科を通してどんなものの見方を共有し、そのことによって自分も探究の道を常に深めていき、生徒が自分の人生を歩む地平を自ら開くサポートをするミッションがプロジェクト。それがあるから、生徒は、その教科を学ぶことを通して何かしら自分の興味と関心をさらに発展させ深めていき、将来、自分の価値を世の中に投影(プロジェクト)できるヒントを見出したり、生徒によってはそのまま自分の未来に影響を与える学びとなるかもしれない。

Dsc00877

★PBL型授業は、教師にとっても生徒にとってもプロジェクトという研究の意味を持っているわけだ。いわば、協働研究を行っているイメージ。

★したがって、教科の授業は、知識を伝達するわけではなく、知識として成就していくプロセスを自らの思考のプロセスに置き換えて、新しい知識を研究して、創造する学びをする。もちろん、すべての教科が得意という生徒はそう多くないが、いくつかの教科という切り口から、自分の才能を見出すことになる。それがPBL型授業の特色である。

★ハワード・ガードナー教授の多重知能(MI)は、実は日本の多くの教科をPBL型で行うことによって開発される。米国では、日本のようにこれだけ多くの教科を学ばない。イギリスのAレベルでも、IBでもそうだ。ガードナー教授は、その偏りが多くの才能を見逃していることに気づき、MIを研究していったに違いない。

Dsc00922

(鐘ヶ江先生の数学の授業もPBLだが、チームで行うことを重視するのではなく、生徒同士の対話の様子から、一人ひとりの理解の違いを見出してフィードバックする機会として活用している。いわゆる憧れの最近接領域の発見へのアプローチとしてPBL型授業の場が活用されている。)

★日本人は、すぐに欧米の教育を高く評価し、自分の国の制度をネガティブにみなしてしまいがちだ。多重知能に照らし合わせれば、日本の教育はそれなりによい。ただし、一方通行型授業では、せっかくの多角的な学びができる機会があっても、才能開発には到らない。

★ところが、工学院は、そこをうまっく生かせるように、コンパクトにふだんの授業にPBLを導入した。対話やディスカッション、プレゼンテーションは、才能開発の重要なプラットフォームである。

★先週の土曜日に授業を拝見したが、中1から高3まで、PBL型授業が行われていた。臼井先生の中1の国語の授業では、一文の最適化を議論する授業だった。

★よく一文の中に助詞や係り受けなどの誤りが埋め込まれていて、それを直す正誤問題を学ぶ授業はあるが、臼井先生の授業は少し違っていた。たとえば、「鉛筆はものである。」という一文を提示したとする。この一文は間違いではない。しかし、妥当ではない。何が足りないか議論することによって、主語―述語の関係や修飾語の必要性など文の構成を実感していくPBL型授業だった。

★教務主任の田中歩先生と見学していたのだが、田中先生は英語科教諭でもあるので、すぐに英語という言語との違いと共通点を見出し、これをうまくつなげようと語ってくれた。

★また、英語だと、この一文の妥当性を議論していく思考過程は、すでにクリティカルシンキングを行っていると判断するということも教えてくれた。

★実際、外国人教師も、そのような文の構成要素の分析は、クリティカルシンキングが必要だと語っている。構成や構造を考えることは、問題の難易度にかかわらず、クリティカルシンキングを要するというものの見方は、国語科と英語科の教師の対話によって明快になった。工学院のPBL型授業が発展するのは、このようなふだんの異教科の教師同士の対話によって生まれてくる。

★「対話」(ダイアローグ)を組織作りの核としている田中先生らしいアプローチである。

★そして、臼井先生の授業は分析して終わるわけではない。今度は一文からパラグラフに発展させる授業になっていく。物語を編集する思考錯誤へと。すなわち、クリティカルシンキングの次はクリエイティブシンキングへと発展していくのであった。

 

|

【GW特集】工学院の新たな時代[02]デザイン思考 中学で浸透

★図書館司書であり、国語科教員であり、大学の講師でもある有山先生は、21世紀型メディアセンターとしての図書館空間を使ってデザイン思考を中学生全員と共有している。工学院の図書館が21世紀型というのは、電子書籍とファボラボスペースなどICTメディアミックスの拠点になっていることを意味する。

Dsc00973

(デザイン思考的道徳の時間。思いやりという言葉の重みをデザイン思考の拡散と統合によって身体化する授業を展開。)

★この21世紀型図書館は、休み時間や放課後は、ファボラボスペースとして3Dプリンターでモノづくりをしたり、プログラミングなども行われている。総合の学習の時間ではデザイン思考そのものが行われたり、道徳の時間でも活用されている。理科をはじめとする一般の授業でも活用され、稼働率が高い。

★したがって、工学院の授業のコアモデルであるPBLが多様な展開をしているわけだが、それだけ、このような21世紀型授業が定着していることを象徴している場所が、工学院の図書館なのである。

★もっとも、今や1人1台のタブレット(中学)やラップトップ(高校)を持って活動しているから、図書館のコンセプトはキャンパス全体に浸透しているというのが凄いところなのである。

Dsc00983

★中1の道徳の授業は、各クラスで行われるときもあるし、私が拝見した時のように、学年全体が図書館に集合して行うこともある。こういうクラス単位、学年単位、そして個人単位という自在な学びの空間を創ることができるというのが、工学院のカリキュラムゾーンの柔軟性の面目躍如だが、これができるのは、チーム単位で動けるPBL型授業がコモンコアモデアルになっているからである。

★実はPBLは、多人数であっても、少人数であっても、チームで活動するからまったくサイズによって質が劣化することがないというメリットがある。おまけに、教師も生徒もチームワークというマインドセットができるから、相乗効果は計り知れない。

Dsc00986

★また、学年団には、外国人教師もたくさんいて、日本人教師と協力して教育活動を行っている。工学院が21世紀型教育を行っていることで、外国人教師にとっては、自分の教育の哲学とシンクロできる。互いに化学反応を起こすことができ、良い雰囲気を生成している。

★工学院の多くの先生方は海外に研修にいって、多く学んできているが、実はジョエル先生をはじめ多くの外国人教師の母国の教育の経験値を共有していけることこそ、実に得難い学びの機会となっている。英語科の教師だけではなく、教科横断的にチームを創って、そのような機会を促進しているのが教務主任田中歩先生である。

★グローバル教育とは、何も海外に出かけることだけではない。もちろん、工学院の留学先の多様性と参加人数の多さは群を抜いているが、ケンブリッジイングリッシュスクール(このリーダーは英語科主任の中川先生。中川先生の英語教育は卓越している)として、学内のグローバル化が浸透しているのが、工学院の大きな特色だろう。

★このような内外のグローバル化を融合しているグローバルイマージョンを広げていくには、英語はもちろんであるが、その前に対話力、ディスカッション力がベースの環境づくりが必須である。

★その環境づくりが、PBL型授業によって醸成されているのである。PBL型授業とは、教科の学習を超えて、教科横断的な学びも超えて、グローバルイマージョンにも有益なのである。

 

|

【GW特集】工学院の新たな時代[01]功を奏す「5つのゾーン」の相対的独立

★21世紀型教育を推進して、工学院大学附属中学校・高等学校は5年目に突入。プレ導入期を加えると、6年目に突入した。21世紀型教育を実現するには、21世紀型学びのソフトパワーのイノベーションがまずは必要であるが、それだけでは、持続可能性が担保できない。21世紀型組織作りが必要である。21世紀型組織は、学習する組織と戦略組織のバランスによって成り立つ。そして、学習する組織はエンリッチメント型とアクセラレーション型の、これまたバランスによって成り立つ。

Dsc00903

(カリキュラム実践ゾーンとその質をあげる教師の才能成長を追究するチームのスーパーバイザーでもある教務主任の田中歩先生。工学院のみならず21世紀型教育におけるキーパーソンの1人である。)

★この2つの学習する組織と戦略組織は、組織のソフトパワーである。だから、ソフトパワーもカリキュラムという教育ソフトパワーと組織のソフトパワーの2つがある。

★このソフトパワーというのは、目に見えないものだから、なかなか工学院の教育の質の豊かさが見えないできた。だから、世の中は、見える部分だけをみて、ポジティブに期待したり、その逆のイメージを抱いたりと、玉石混交だった。マーケットというのはそういうものである。

★工学院の先生方は、そういうマーケットのダイナミクスに揉まれながら、組織作りを試行錯誤してきた。そして、5つのゾーンを編み出した。それはアドミッションゾーン、カリキュラム実践ゾーン、カリキュラム質的ネットワークリサーチゾーン、ディプロマゾーンである。

★このそれぞれのゾーンの中で、2つソフトパワーのイノベーションとそのイノベーションを現実化する道具立てのデザインがなされていった。

★このデザインは、道具立てを動かすメカニズムとソフトパワーを動かすシステム思考がカップリングされていなくてはならない。そして、極めて複雑だが、見た目はシンプルに見えなければならない。それはスマホのデザインがシンプルで中身は複雑なコンピュータの配線になっているのと同じである。

★したがって、ある一握りの管理者が、5つのゾーンを統括することはほぼ不可能だ。経営判断はもちろん、管理職のチームにあるが、それぞれのゾーンが最適な働きをするには、それぞれが相対的に独立して動きかつ調和を創り出す必要がある。

★それぞれのゾーンによって、2つの学習する組織と戦略組織という組織ソフトパワーのバランスは違う。このことは、最初バラバラに動いているように外から見えたし、中にいる職員もともすれば一致していないと不安がっていたときもあった。しかし、それぞれのロールプレイを最適化することが公平性を生み出すのであり、形式的平等を遂行するだけではうまくいかないということにあるとき気づいた。

★アドミッションゾーンは、今大きく質的な変容をしようとしている。ディプロマゾーンも成果をあげてきている。この両方のゾーンのもちろん満身創痍になりながらの改善へのピッチは、21世紀型教育が中心になって回転しているカリキュラムゾーンにも大きな影響を与えている。

★というのも、入学してくる生徒も新しく入ってくる教師も、工学院の教育のソフトパワーに共振共鳴共感して入ってくるから、教育活動の相乗効果が凄まじいのである。このシリーズで紹介するが、たとえば、英語科の教科会議を英語で行うのは、今では多くの学校が行っているところであるが、授業リサーチの創発研修チームも英語と日本語が飛び交っている。英語ができなければならないとか、日本語ができなければならないというようなストレスはまったくない。

★グローバル社会にあって、互いに言語が違っても、まずは創意工夫して意志疎通を図ろうとするマインドセットが重要なのである。私も、参与的観察者型ファシリテーターとして参加する場合、プレゼンテーションツールに日本語と英語の両方を書いたりする。私自身は英語は不得意だ。だがわが友人グーグル翻訳くんは強いミカタである。

★それに、工学院の英語教師は、すぐに通訳してシェアリングする能力が高いから、外国人教師も日本語教師も両者が安心してワークショップを遂行できる。そのようなダイバーシティーが当たり前のコミュニケーション環境が教師と生徒の創造的思考を刺激しないはずがないのである。

|

2019年4月27日 (土)

未来を創る教育<05>自然法の存在を学校に発見 「規律と自由」の枠組みを創造的に破壊。

★学校では、いや世の中もそうだが、いつも規律か自由か、規制か緩和かという話が出てきては、いつも曖昧のまま終わったり、規律や規制を強引に押し付けられたりしている。自由というのはどうも分が悪い。

★ところが、いくつかの学校では、規律ではなく、ルールを自らのシステムとして内面化している生徒たちが、非常にオープンな感じで、きちんと自分の想いを言葉で語っているすてきな雰囲気が広がっている。決められた問いに紋切り型に答えたり、楽しかったです、わかんないですと対話を切ってしまうこともない。

Photo_25

★なるほど、デビッド・ボームの語る対話の一貫性」というものが見えた気がした。実は、コミュニケーションのルールは、もちろん安心安全な状況を創ったり、寛容な姿勢が大事だということや、傾聴するだとか、根拠を語るだとか、他者の良い点を察知するだとか、・・・諸々ある。しかし、それだけではなく、身体感覚の駆動させるセンサーと脳内物質の量、スピードなど身体メカニズムというルールにもつながっている。

★コミュニケーションは社会生活のWell-beingを創り出すシステムにも転換してそのルールはそのまま生きる。

★もしこのルールがなければ、人間関係や社会や精神はズタズタになるだろう。このあらゆる人間の言動と自然のメカニズムと社会システムが一貫したルールによって動いている場合、良い雰囲気=Well-beingを生み出すことになる。

★その状態は当然自由を担保する。しかし、そうはならないのが、世の常であるから、それを是正するために学びではなく規律で抑圧する。しかし、多くの場合、その規律が、前述のルールと真逆の自分の都合の場合が多く、つまりそこに権力や権威が誕生し、暗黒面の支配と相成るのである。

★ルール共有ではなく規律抑圧の組織の雰囲気がよいはずはないし、そこからクリエイティビティはうまれにくい。もっとも、その規律抑圧を創造的に破壊しようとする真正のクリエイティビティが生まれるのは、歴史のパラドクスでもある。

★いずれにしても、規律ではなく、ここでいうルールは、啓蒙思想家が提唱してきた自然法である。自然法はルソーとしては自然状態のものであるが、実際には国家法以外の日常生活を生きる人間の内面に現れるものであるということに気づいた。ある意味、学校は社会と隔絶している部分もあるから、そこが自然状態になっているのかもしれない。

|

2019年4月26日 (金)

未来を創る教育<04>アサンプション国際小学校 感動の学校雰囲気

★アサンプション国際小学校は、21世紀型教育を導入し、共学化、校名変更をして3年目を迎えた。改革は紆余曲折、試行錯誤様々な局面に遭遇する。先生方にとっては、未知の局面に何度もぶつかっただろうし、不確実な事態を目の前にもしたことだろう。

★しかし、先生方は一丸となって乗り越え、そのような変化のダイナミクスによく耐え、逆にそれをテコに新しい世界にジャンプした。そして、今日、感動しないではいられないほど、学校の雰囲気が良い。

Dsc00604

★授業における先生と生徒のコミュニケーション、フィールドワークの時に身体感覚を研ぎ澄ます感性、あいさつをするときの心の温かさ、社会に興味をもつ姿勢、あらゆるものにワクワクして立ち臨む好奇心旺盛さ、友達をいたわる優しさ・・・あらゆるシーンで、一貫したルールが響いている。

★ルールが響き渡っているのに、開放的な雰囲気が染みわたっている。また、いろいろなことに驚き、不思議に思い、好奇心を旺盛にする真理への自由の翼が広がっている。これはちょっと考えると凄いことだ。

★なぜなら、ルールと言えば、規則とか、校則とか、決まりとか、道徳とか、守らねばならない強制力というイメージを、たいていの場合はいだくだろう。しかし、アサンプション国際小学校のルールは抑圧とか強制とか規律とかいう意味とは全く違うものだ。それは平衡というバランスを生み出すメカニズムを意味している。

★規律か自由かとよく問題になるが、アサンプション国際小学校では、内なるルールはあらゆる局面で精神を開放的にする自由となっている。アサンプション国際小学校の雰囲気のよさは、まさにこの平衡を生み出すルールとしてのメカニズムなのではあるまいか。

★ちなみに、OECD/PISAでは、学校教育の質を表現する指標の一つに、この「雰囲気」がある。「学級雰囲気」がよくない国に日本は挙げられている。アサンプション国際小学校の「雰囲気」が良いということは、世界から見れば、日本の教育を変えるヒントがあるということだ。これもまた、気づかれざるアサンプション国際小学校のすてきな点なのである。

|

「首都圏中学受験案内 2020年度用」がおもしろい。

★今年も、晶文社学校案内編集部によって、「首都圏中学受験案内 2020年度用」が出版された。首都圏模試センターや四谷大塚など、広く中学受験業界のシンクタンクから情報収集し、コンパクトにかつ多角的に学校情報をまとめている。

Dsc00731 

★学校情報とは、3つのポリシーについてまとめてある。アドミッションポリシーは入試情報、カリキュラムポリシーは教育内容で、コンセプト、学習、キャリア教育、学校生活などの情報が詰まっている。ディプロマポリシーは、大学合格実績が3年分公開されている。

★今回表紙にもあるように、入試情報で特徴的な新機軸が展開されている。それは、「思考コード」による各学校の入試問題の分析である。

Dsc00729

★上記の表の中に、思考コードの各領域の割合が掲載されている部分がある。これは開成の入試問題の思考コード分析。算数はB2が全体の47%を占めている。論理的に考えていく問題がでるわけだが、論理のプロセスをかなりつないでいく問いが中心になっている。開成の場合は、この論理的思考を当たり前とするのでなければならないということを示唆している。

★国語は、B2が35%で、B3も35%。創造的思考までは求められていないが、100字から200字で、要約したり、簡単な自分の考えを要約に基づいて書く論述の力を当たり前の思考力として鍛えておく必要がある。論理的展開をどこまでつないでいけるか。やはり、算数と共通する力が求められている。

★理科は、B1が50%。知識と根拠を1つ程度挙げられる論理的力でまずは十分であるということが推察できる。

★社会は、逆にA軸思考が92%も占める。知識のネットワークをどこまで広げられるかがポイント。麻布の社会とは全く違う。麻布は、B軸思考が80%を占める。やはり中学受験勉強は、模擬試験の偏差値だけでは、十分な戦略が立てられない。問題の難しさだけではなく、問題の特徴や思考の深さの違いがある。偏差値×思考コードで、合格戦略の精度を上げることができるというわけだ。

★そこは、今まで、塾の先生にすべてお任せで済んできたところだが、主体的な学びが必要とされている今日、生徒自身が問いの質や問いの重要度について、分析する目を持つことが大切。そのようなメタ認知的視点を生徒自らが実装する大きなヒントになろう。

|

2019年4月25日 (木)

未来を創る教育<03>数学がリベラルアーツの現代化で必要なわけ

★AI社会に加速している現在、産官学あらゆる領域で、リベラルアーツが必要だと叫ばれていることは、周知の事実だと思う。あのスティーブ・ジョブスが、Appleでリベラルアーツを大事にして商品を開発・デザインしていたのはあまりに有名だ。しかし、かといって古代ギリシア時代に戻ろうとは言っていないだろう。

★Appleに限らず、今やIT産業の開発デザインしているデバイスは、ネットワークにつながってはじめて効果を発揮するから、たとえば、タブレットやラップトップは、優れた学習ツールであると同時に学ぶべきオブジェでもある。リベラルアーツとは、数学や音楽、体育、レトリックのような学びの道具でありながら学ぶべき対象であるという二重性を理解する哲学的な着想が肝である。

Photo_24

★古代ギリシアにおいて、リベラルアーツは、学びの道具であり、つまり思考の道具であり、同時に思考の対象であるという領域を見事に見つけた。しかし、その両義性を明確に意識していたかどうかはわからない。その意識化は、もしかしたら森田真生さんの発見かもしれない。森田さんは、「数学する身体」を 2015年10月に出版した。最近も新著「数学の贈り物」を発刊している。森田さんのファンが増えているということであり、それは数学を基礎としたリベラルアーツの現代化の潮流が水面下でウネリ始めたということかもしれない。森田さんは「数学する身体」の中でこう語っている。

やや わかり にくい かも しれ ない が、 ハイデッガー の 言う こと を、 私 は こんな ふう に 理解 し て いる。 すなわち、 人 は 何 かを 知ろ う と する とき、 必ず 知ろ う と する こと に 先立っ て、 すでに 何 かを 知っ て しまっ て いる。 一切 の 知識 も、 なんら の 思い込み も なし に、 人 は 世界 と 向き合う こと は でき ない。 そこで、 何 かを 知ろ う と する とき に、 まず「 自分 は すでに 何 を 知っ て しまっ て いる だろ う か」 と 自問 する こと。 知ら なかっ た こと を 知ろ う と する のでは なく て、 はじめ から 知っ て しまっ て いる こと について 知ろ う と する こと。 それ が、 ハイデッガー の 言う 意味 での mathematical な 姿勢 なのでは ない だろ う か。(森田真生. 数学する身体(新潮文庫) (Kindle の位置No.283-288). 新潮社. Kindle 版. )

古代 ギリシア の 数学 者 にとって は、 数量 や 形 は、 それ 自体 が 研究 さ れる べき 対象 で ある。 彼ら は、 思考 の 手段 として 数 や 図形 を 用いる だけで なく、 思考 の 手段 として 用い られる 数 や 図形 について、 思考 する よう に なっ た。(森田真生. 数学する身体(新潮文庫) (Kindle の位置No.296-298). 新潮社. Kindle 版. )

mathematics という 言葉 は、 ギリシア 語 の( 学ば れる べき もの) に 由来 する。 それ は 本来、 私 たち が 普通「 数学」 と 呼ん で いる もの よりも、 はるか に 広い 範囲 を 指す 言葉 で あっ た。 これ を、 数 論、 幾何学、 天文学、 音楽 の「 四科」 から なる 特定 の 学科 を 示す 言葉 として 用い た のは、 古代 ギリシア の ピタゴラス 学派 の 人々 だ と 言わ れ て いる。(森田真生. 数学する身体(新潮文庫) (Kindle の位置No.272-275). 新潮社. Kindle 版. )

★森田さんの本を読んでいて、衝撃を受けたのは、このようなリベラルアーツの1つの領域である数学の両義性について気づかされたことである。

★リベラルアーツの領域の中に、たとえばAI(人工知能)というのをいれることは、リベラルアーツの現代版という言い方になるだろうが、リベラルアーツの両義性を哲学的にとらえ返すことをリベラルアーツの現代化と呼ぶのだとスッキリしたのである。

★だからSTEAM×哲学をリベラルアーツの現代化と呼んできたことの意味が、ここにきて明快になったわけだ。

★今、学習する道具はいろいろあふれている。しかし、その道具がどれほど学ぶべきオブジェであるのか。研究すべきオブジェであるのか。その度合いによって、歴史を超えて残るか残らないかが規定される。

★教育のパフォーマンスをあげるには、優れた学習道具をつかうだけではなく、同時にそれがどれだけ優れた学ぶべき、研究すべきオブジェであるのか考えてみることが必要だ。一過性のものをもたされた子供たちは、未来ではそれを応用することができない。いまここで「妥当」でも、古代ギリシアから永遠と続いているリベラルアーツのように歴史を超えた「正当性」があるかどうかチェックしたい。

★いかに「正当性」があってもいまここで「妥当性」のないものは「信頼性」がない。「正当性」「信頼性」「妥当性」のある学習するツールであるのかは重要な問いかけだ。

★数学はその問いに「然り」とシンプルに答えることができる。何せ、生まれながらに知っていながら忘却していたものを取り戻すことができる道具であると同時に、「知る」とは何かを永遠に考えさせるオブジェでもあるからだ。

★そんなことを言っても、現場の授業では大学進学実績を上げるための勉強が優先してしまうのが現実だという方もいるだろう。でも、大学入試で出題されている「数の問題」を見てみよう。現実の合否を決めるための問題であると同時に、「数」とは何かを問いかけてくるオブジェでもある。いつまでも入試悪玉論を唱えるのはやめよう。たいていの問題は自分の中にあるときが多い。

★だから、最近授業リサーチをしていると、数学の先生の中には、入試問題から良問を見出し、生徒とともに解きながら、その解く過程で、数学的思考とは何か?それが解法のどこに反映しているのか無意識ではあるかもしれないが、問いかけている先生方と幾人も出遭う。

★「数」とは何かという永遠の問いを共有し、生徒も目を輝かせて考えている授業。これぞProject。Projectには研究という意味もあるから、その意味で立派なPBL型授業になっている。当事者以外世界の誰も見ることができないシーンに立ち会えたそんな瞬間、感動しないはずがない。




 

|

2019年4月22日 (月)

【お詫び】

2013年3月31日に「私立学校研究 ホンマノオト」に掲載した記事中に、渋谷教育学園幕張中学校・高等学校についての記載に配慮が足りず、一部に読者の誤解を招く表現があり、学園の関係者および同記事の編集関係者に不快な思いとご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

今後は記事中の表現に十分な配慮をして、掲載にあたっては慎重な事実確認をして参ります。

当記事は、2019年3月4日にホンマノオト掲載記事から削除いたしましたが、あらためてここにお詫び申し上げます。

|

21世紀型教育の意味(15)知識と知るというコト

★21世紀型教育というと、知識ではなくて考えることだという話になる。しかし、これは標語だったり、商品広告のコピーみたいなもので、本意ではない。20世紀型教育が知識を憶えるためのモノとして扱ってきたことに対し、それとの違いはわかりやすく表現しただけである。

★本当は、知識は、知識が形成される過程が記憶された種であり、その種が芽吹く環境設定が学びであるということなのだ。しかし、こういうとわけがわからないということになる。だから、知識を憶えることが勉強だと思っていることに対し、憶えるのではなく、考えることが重要なのだということになってしまった。

Dsc00636

★エッ!ということは知識の中に収納されている考える過程を引きだすだけで、プログラム通りの人生を歩かなければならないのと思うかもしれない。たしかに、多くの場合そうだったのかもしれない。画一的教育なんて言葉もあった。

★しかし、種は環境によって成長の仕方も花弁の美しさの度合いも違うし、品種改良だって昔からある。個性もあり、イノベーションもあるのだ。

★問題なのは、種の名前だけ憶えて、それぞれの種の成長の、つまりここでは思考のメカニズムを学ぶ機会が、ほとんどなかったというのが20世紀型教育だった。では、21世紀型教育ではその思考のメカニズムを解明できているかというと、残念ながら、思考のメカニズムが作動する、つまり比ゆ的には、種が芽吹く環境づくりをするファシリテーターなるもので満足している段階にいるということだ。

★医療であれ農業であれ、現場と実験と学術研究が循環するシステムになっているのに、教育は、すべて現場の出来事で、実験と学術研究が循環するシステムを構築していない。

★実験や学術研究はもちろんあるが、それが全部現場の教育活動の効果をあげるノウハウ研究に終わっているのだ。学びの社会への影響、学びの自己への影響、学びの脳神経系との関係などは、社会学、心理学、脳科学などに任せられている。

★知識と知るというコト(つまり考えるというコト)の関係のメカニズムを学問的に解明する機会が訪れることを期待している。

★私の場合は、U理論がベースになっている“generative scribing”とタキソノミーとコンピテンシーを掛け合わせた“思考コード”を結び付けて、メカニズムを先生方と研究しているが、やがては脳神経科学と結びつかなければと思っている。

|

2019年4月21日 (日)

桐光学園 16冊目の「大学訪問授業」のテキスト刊行

★10年以上も前から桐光学園は「大学訪問授業」を行っている。当初は月に1回ペース。各学問領域で活躍している学者を中心に学校に招き、大学授業さながらの講義をしてもらう。自分の関心領域やこの学者のもとで学問したいと思う人の肉声を直接聞けるのだから、生徒のモチベーションは俄然違う。

★そして、最近では、ほぼ月に2回ペースで行っている。あまりに画期的すぎて、他の学校が憧れるも、マネすることができないほどだ。同校の知の交渉人には脱帽である。

★実際、この「大学訪問授業」のプログラムは教養講座的な役割も果たしているが、キャリアデザインの一環として行われている感じが強い。実際に、刺激を受けて学問の道や大学の選択もしているようだ。学者の多くは海外でも活躍しているから、その影響を受けて、ブラウン大学というアイビー・リーグ系の大学やウェズリアンのような3本の指にはいるリトル・アイビー系のリベラルアーツ大学などに合格者も出ている。もはや東大だけではないというのが桐光学園。

Dsc00631

「高校生と考える21世紀の論点」

もくじ

〈第1章 自分の声を聴く〉
決断力を磨く 羽生善治
ものをつくること、現実を生きること 古川日出男
絶対なんて絶対ない 前田司郎
自分という人生を生きる 植本一子
不思議の国フランス 野崎歓
〈第2章 社会の向かう方向を読む〉
「わがまま」が社会を変える 富永京子
世界は日本をどう見ているのか 井上寿一
SDGsってなんだろう 大崎麻子
働くってどういうことだろう 竹信三恵子
コミュ力と生きづらさ 城戸理恵
〈第3章 科学の発想と方法を知る〉
視覚なしで世界を見てみよう 伊藤亜紗
科学とはなにか? 仲野徹
分類と系統の世界観 三中信宏
世界から世間へ 早野龍五
〈第4章 ひととものの歴史から探る〉
食事とは 土井善晴
歩行と時間 島田雅彦
人はなぜ遊ぶのか 山本貴光
アリの巣をめぐる冒険 丸山宗利
印刷と人類が来た道 樺山紘一
〈第5章 AI時代を生き抜く感性〉
豊かな建築を目指して 長谷川逸子
時計じかけの芸術? 三輪眞弘
主と個の芸術 やなぎみわ
伝えることの難しさ(と面白さ) 波戸岡景太
動く大地の暮らし 中谷礼仁
〈第6章 ことばを鍛える〉
いのちと人間 多和田葉子
ことばの不思議 穂村弘
英語の勉強、どこからはじめる?どこまでやる? 阿部公彦
今、なぜ、古典を読むのか 島内裕子
本を読めと大人たちは言うけれど 大澤聡
読むと書く 若松英輔


★それにしても、「大学訪問授業」を講義だけで終わらせることなく、テキストに収めて出版までしているのは、やはり破格である。生徒にとっても、繰り返し想いを馳せられるので、便利である。それに、今年16冊目の本など島崎雅彦さんの講義が掲載されているが、小学生にとっもブームになっている縄文文化の新たな発見についても記載されていて、中学入試で出題されてもおかしくない。

★もちろん、島崎さんの論考は、縄文文化の話が中心ではない。過去や未来を考えても、いまここで考えるべき変わらない原始的なものがある。すべては、この原点から多様なイノベーションが生まれてきたのだから、迷ったらそこに戻ろうという、わかりやすいけれど、カンタン・ミヤスーなどの最近の欧米の新しい哲学である「祖先以前性」をいかにして捉え返すか、つまりカントのアプリオリや物自体をどう乗り越えるかという最先端の思考とシンクロする発想がさりげなく語られている。

★リベラルアーツの現代化が促進されようとも「読書」や「読解リテラシー」、「書く/描く」ことへのトレーニングは当面不変/普遍であろう。島崎さんが、洞窟の壁画について引用している部分があるが、人類の根源には、描くこと、保存すること、それを読み解くことがあったのだということだろう。それは今では、データベースにつながっているし、クラウドコンピュータというイノベーションを生み出しているし、AIにとっては大事な認識データである。しかし、根源的に変わらない原始的な身体機能はいまでもここにあるのである。

Photo_23  

★ちょっと読んだだけでも、思考の翼は大きく広がる。知の空を飛翔することができる。それが、実際に目の前で肉声を聞ける「大学訪問授業」。想像を超える知の化学反応が起きる拠点となっているだろう。今年のプログラムもはやくも公表されている。驚きの知のプロデューサ―が存在する桐光学園。さすがである。

|

未来を創る教育<02>2025年問題を乗り越えて生じる格差をどうするか キャリアデザインが破綻しないためにも

★21世紀型教育の理念は、ノーマン・ロックウェルのモザイク画とSDGsのロゴと限界費用ゼロ社会に象徴される。この背景には、哲学とSTEAM教育というリベラルアーツがある。一方で現実は2025年問題を通して迫りくる2030年~2040年のデストピア問題が横たわっている。

★したがって、理念と現実の対話的一致を繰り返すクリエイティブ・テンションを生みだし、そこが起爆剤となってイノベーションを起こすダイナミクスに期待するわけだ。それによって、前回述べたように「わたしたちの地球」の好循環をもたらす。

Photo_22

★しかしながら、このようなことを行うリーダーシップは誰が発揮するかというと、AI社会は、産業革命から20世紀にかけての産業社会とは次元が異なるために、高度技術をもったAI市民が待望される。このAI市民のことをクリエイティブ・クラスという。従来の産業構造の言説の延長上で言うと、第4次産業の労働者ということになる。

Photo_21

★このことについて、さりげなく静かに公開資料で世に表し、着々と進めているのが内閣府であり、その根っこは経産省である。表にあるようにクリエイティブ・クラスとは、表現してはいないが、従来にないクラスが存在し、今までのクラスが没落するカテゴリー表になっている。

★21世紀型教育は、すべての人が一人一人の才能を見出し、クリエイティブ・クラスになる学習モデルを構築しているが、すべての学校が行っているわけではない。したがって、実践しているところとそうでないところで、「クリエイティブクラス」格差が生じてしまう。

★すでに、高度人材は大量に不足しているが、逆にその不足しているところを生める人材がクリエイティブ・クラスになる。しかも法整備の結果、そのクリエイティブ・クラスに高度外国人材が参加するようになっている。

★このクラスの多様性は、考え方や価値観、文化背景の違いにより対話的テンションがイノベーションを生むことになるから歓迎なのであるが、21世紀型教育を行っていない学校を選択すると、クリエイティブ・クラスの存在のメカニズムが見えず、たんに年収の良い仕事と思うだけだろう。

★メカニズムが見えない場合、ソフトパワーを生み出す仕事も、ハードパワーを生み出す仕事も、創造的仕事として差異に気づかない。learning by creative thinkingとlearnning by makingの違いが判然としない。

★こうして根っこの部分の差異がわからないままスタイルだけアクティブラーニングやPBLになるから、結局ハードパーワーの新機軸イノベーションに流れていく。それでも、その領域でのイノベーションが起こることはわるくない。しかし、それが多くの場合天井になり、クリエイティブ・クラスの道は閉ざされる。

★創造的人材はたくさいるが、創造的クラスに入る人材は限られることになる。これが現状の「未来を創る教育」のリスクである。さて、ここをどうするかなのである。新しい「未来を創る教育」の創造。この道以外に他はあるまい。

|

2019年4月20日 (土)

未来を創る教育<01>2025年問題を乗り越えるプラン着々

★4月18日(木)全国学力調査テストが行われた。中3は英語もあり、スピーキングはCBTとなった。すでに大学入試における民間英語資格団体でも予備テストは行われていて、技術的問題や運営問題が整理されていたが、その問題解決は全国学力調査テストではうまく解決されていなかった部分もあると聞き及ぶ。

★しかし、いずれにしても100万人近くの生徒が受けることができたのだから、CBTは可能なのであろう。いずれいったんは保留になっていたものの、大学入試改革にも導入されるのは、時間の問題だ。

Photo_20


★このCBTは、全国学力調査テストによる学びの改善や大学入試改革の武器であると同時に、2025年問題やそれを解決するソサイエティ5.0を目指す2030年から2040年にかけての国家戦略の1つである。そして、日本がそのような戦略を計画し実施せざるを得ないのは、世界同時的なAI社会へのイノベーション競争があるからでもある。

★このグローバルなAI社会競争の是非は、いろいろ言われているが、止めることはできない。ユートピア的には、限界消費ゼロ社会や化石燃料脱却イノベーションが起こり、強欲資本主義の終焉を導くかもしれないし、一方で、AI軍事力やAI格差資本主義、AI監視社会が広がるデストピアをまねいてしまう可能性もあり、両義性を内包している。どちらも、進化であるから、人は立ち止まることはできない。

★2025年問題は、たしかに75歳以上の人口がおよそ20%も占める超高齢化社会になると予測されているし、そうなると生産年齢人口は激減する。GDPは急激にダウンする。一方で、高齢者の介護問題や医療問題が山積となる。

★これを解決するには、AIによるサポートが極めて重要になるが、この高度技術を支える人材が不足している。経産省によると2030年には約60万人不足すると言われている。

★それゆえ、高度外国人材の受け入れ態勢を整え、法整備をしていこうという流れになっている。

★これが、英語教育が急に注目を浴びるようになった背景だし、高度技術人材養成の出発点としてSTEAM教育の実践が重要になってきている。したがって、大学入試のことだけ考えていたのでは、子供たちの未来を奪うことになりかねないという話なのだ。

★だから、21世紀型教育に反対しようが異議を唱えようが、タイタニック号にならないためには、舵をきらざるを得ないのである。この意識は、まだまだ日本全体の学校現場では浸透していない。どうしても目の前の話になる。やがて氷山にぶつかって砕けるのに、いまここで楽しければよいし、きちんと勉強していてくれればよいしという話も残念だけれど多い。

★しかし、変化は残念ながら時代の力が動かすから、そこに逆らっても止めようがない。CBTもSTEAM教育も、現場での技術的適合や運営上の問題解決は、着々とクリアしていくのである。

★2025年問題とそれを解決しようという様々な試みは、結局また新たなイノベーションを生み出す。現実と理念の融合という事態はそういう化学変化を生みだしていく。それがデストピアに向かうのかユートピアに向かうのか。

★「わたしたちの地球」は、しかし自らの命を守るように働く。地球の命とは、自然とAI社会と人間の精神の好循環である。これまでは、この3つが互いに外部化しあっていた。悪循環を生んだいた。20世紀はじめ頃までは、この悪循環が生み出す負の産物は、自然浄化できていたが、もはやそれは限界に達したのは言うまでもない。だから、それを好循環に転換するイノベーションと寛容さを「わたしたちの地球」は歓迎するはずである。

★このビジョンを遂行する高度人材を少なくとも21世紀型教育は輩出することになる。着々と「わたしたちの地球」は、自らの夢を完成させようとしている。そろそろわたしたちは、わたしたち人類の夢ではなく、「わたしたちの地球」の夢に気づくときがやってきたのではないか。それがグローバル教育のミッションであろう。


 

|

2019年4月19日 (金)

学びの組織を開発する先生方と共に≪18≫ アサンプション国際小学校 進化する<学習する組織>(了)

★アサンプション国際小学校が英語の授業やICTを活用した授業を展開しているのを見た時、他校と違うと感じるのは、とても自然体だということである。いかにも英語が大事だから有名な教材や学習方法を取り入れてますとか、ICTも最新アプリをいれて3Dプリンターも入れて先鋭的な最先端教育をやっていますという、外部企業からのパッケージラインナップを見せられるのとは大違いということなのである。

★これは、もともとアサンプション国際の経営母体が世界のネットワークとつながり、グローバルな研修を積んできているし、丹澤校長自身が米国で教鞭をとっていたということもある。それにネイティブスピーカーの教師も多いから、海外のエスタブリッシュな教育の雰囲気が注入されてきたということもある。

Photo_19

★そして、なんといっても大きいのは、英語の授業にしてもICTを活用した授業にしても、そのベースになっている対話型PBL授業を熱心に研究してきた、そして今も研究している阿弥先生の存在だろう。

★阿弥先生は、世の中がアクティブラーニングだとか言い出す前から、GEMSの学びを授業に取り入れてきた。研修にも参加し、熱心に学んだ。GEMSとはGreat Explorations in Math and Scienceの略。ジェムズと呼ばれている。米国UCバークレー校の付属機関LHS(ローレンスホール科学教育研究所)で開発されている今でいうSTEAMプログラム。

★UCバークレーと言えば、シリコンバレーに影響を与える人材を輩出している超有名大学。最近シリコンバレーエリアにできたチャータースクールHTH(ハイテックハイスクール)というPBL授業とSTEAMで有名な学校も、当然GEMS的な学びの影響も受けている。

★だから、3年前に阿弥先生と出遭ったときは、話がはやかった。すぐに共振共鳴共感した(と思っているのは私だけかもしれないが)。私は、どちらかというと、スタンフォード大学とMITメディアラボとハーバード大学のいいとこどりしたPBL主義者だったし、今もそうだけれど、PBLの生みの親は、デューイやピアジェというった社会構成主義者。発想はすぐに共有できた。

★U理論を背景にしたスクライビングで具体的な授業をフローチャートという抽象的な絵を描きながら可視化する発想は、阿弥先生にとっては当たり前だったと思う。

★レゴを通して、ストーリーと創造物の「置換」を相互にするスキルやマインドマップなどの「概念化」スキルも、GEMSにも通底する手法だったから、実際の授業でどんどん活用していった。ユネスコスクールの活動も中心的に行っているが、そこでの活動もPBLは当たり前だろう。

★だから、アクティブラーニングとかPBLの国内の研修は山ほどあるが、ほとんど演者の自分の体験の発表の共有で、ノウハウの交換に終わっているものとは違い、世界的な視野を阿弥先生は身体化している。世界的な視野は、理論として学ぶことができるから、何もピータ・センゲのワークショップに参加しなくてもよいのだ。

★むしろ、本からきちんと学び、阿弥先生自身が、その学んだことに対照してモニタリングしていくことが大切である。機会があれば、第一人者のワークショップに参加すればよいけれど、阿弥先生のように探究して参加するのと、それまで何も学ばずに、まずは経験というコトでワーックショップに参加しても、たいていはおもしろかったとかモヤ感満載と生ぬるいことを言って帰ってくるのがオチだ。

★常に授業は子供に適合していなければならないし、教師の学びのスキルが向上するものでなければならないし、世界標準のモノサシに適合していなくてはならない。

★その三位一体を行うには、阿弥先生一人ではなかなかできない。なぜなら適合しているかどうかをモニタリングするには、他者のメタ認知としての視点が必要だからだ。だから<学習する組織>をつくってチームワークとシステム思考を充実していくことは大切だし、メタ認知としての視点を磨くのに、仲間一人一人が独自に自己マスタリーという自己陶冶することも欠かせない。

★こういう<学習する組織>ができたのは、やはり阿弥先生という自分を捨てて核になるインフルエンサーとしての存在が重要だった。そして、阿弥先生のような先を走っている教師は、たいていの場合、出る杭は打たれるというのが20世紀型教育の宿命なのだが、アサンプション国際は本来のカトリック学校がゆえに、タラントを大事にするマインドセットがはじめからあったのだろう。阿弥先生を応援する仲間が同校の先生方だったのである。それゆえ、<学習する組織>は巧まずしてできたという幸運の学校でもある。

★つまり、21世紀型教育は、組織も21世紀型でなければ成功しないということなのだ。

★それにしても、阿弥先生の4年生のプレゼンテーションの授業を拝見したが、井庭崇先生監修のプレゼンテーション・パターンランゲージのカードから、小学校4年生に適合するカードを選んで活用していた。これはとピンときたものは、すぐに取り入れて、そいのまま使うのではなく、子供に適合するように「調整」して活用するのが阿弥先生。

★この「調整」機能こそ、達人教師としての手腕である。

|

学びの組織を開発する先生方と共に≪17≫ アサンプション国際小学校 進化する<学習する組織> ③

★アサンプション国際小学校は、子供たちが多様な経験を通して好奇心を旺盛にする環境をマインドセットしている。その環境は、今まで紹介してきたように英語ばかりではない。ICTを活用した主体的・対話的深い学びのプログラムも充実している。高学年になると、1人1台のタブレットを活用して知識の意味のネットワークをまとめていく。つまり小学生でありながら、自然現象、社会現象、精神現象のつながりを探究するために、出来事の「概念化」をしていくのである。

Photo_18

★もちろん、「概念化」という言葉は、子供たちはまだ知らない。蒲生教頭によると、大事なことは、概念化や理論化が含まれている経験を積むことだという。

★今泉先生の高学年の社会科の授業を見学した時、子供たちは、1人1台タブレットを自在に活用していた。世界の国々から関心のあるところを選択して、その国の基本情報をまとめる思考作業をしていた。たんなる調べ学習ではなく、一つの国の在り方を多面的にまとめあげていく編集作業と最終的にプレゼンする学びである。

★蒲生教頭によると、「高学年は、まだ改革学年ではありませんが、教え込む授業ではなく、対話型PBL授業の環境を選ばれた帰国生や海外経験者のお子さんもすでに編入してきています。そういう生徒は日本語サイトだけではなく、英語のサイトも調べます。幅が相当広がります。本当に時代は変わりました。そして、私たちもがんばらなくてはとちょっと焦っています。」と。

★どうして焦っているのですかと尋ねると、「先ほどご覧いただいたイングリッシュコースのイマージョン教育やアカデミックの英語の授業を思い出していただければお分かりかと思いますが」と。「あっ、なるほど、あの生徒たちが高学年になったとき、当然調べる範囲は、みな英語サイトに拡張するわけだし、プレゼンも当然英語というコトですね」「そうなんですよ。その量的変化は、私たちの学びのデザインの質のアップにつながります」ということだった。

★三宅副校長先生が、外国からのゲストが訪れたとき、見事に通訳してくれるのは、生徒なのです。ICTの操作や英語も生徒から学ぶ時代がやってきました。ネイティブスピーカーの教師をだいぶ揃えていますが、私たち自身もチャレンジする時代ということです」と。

★なるほど、丹澤校長が、中高のPBL授業やイマージョン教育のクオリティのアップが必須だとリーダーシップをとっているのは、これだったのかと了解した。ほかの小中高の附属校にくらべ、アサンプションは小学校から中高に進学する率が高い。他校の場合は、ともすれば、小学校から中学受験して外に出てしまう生徒の率が高いが、もともと英語のアサンプションで、自治体でもモデル校になっているから、小学生のころから国際的な感覚を育てたいという家庭が比較的多い。

★中高の大学進学先も、上智大学や関西学院の推薦も豊かなため、小中高一貫という雰囲気がある。

★そういう事情がゆえに、アサンプション国際小学校の生徒のソフトパワーの向上は、中高のカリキュラムにも相乗効果を与えているのである。小学校の21世紀型教育改革は、3年目であるから、もう3年も経つと、つまり2021年大学入試改革実施が開始されている時期には、アサンプション国際の中学の扉をたたくわけだ。そのとき、アサンプション国際中高の教育が、附属小学校の生徒や保護者の納得のいくカリキュラムにさらに成長している必要がある。

★外部環境の変化によって、外発的モチベーションで変わるだけではなく、学内の内発的動機付けで中高も変容していくというのは、すばらしい変容の仕方である。そして中高のソフトパワーの品質向上が、今度はそこにつながるように小学校のソフトパワーの向上に循環していく。

★3年前始まったアサンプション国際小中高全校挙げての校名変更、共学化、21世紀型教育へのソフトパワーシフトは、壮大な好循環を生み出すことになる。その確かな手ごたえを感じないわけにはいかない。

|

学びの組織を開発する先生方と共に≪16≫ アサンプション国際小学校 進化する<学習する組織> ②

★教頭蒲生先生といっしょに授業見学をしながら、「対話」をしているとおもしろいのは、「経験」と「理論」を往復しながら「発見」や「気づき」があるからだ。3月の段階で、新学期への学びのビジョンについて「対話」したときに、アサンプション国際小学校の豊かな授業の様子を聞いた。

★わくわくする話だったので、その豊かな子供たちとのPBL型授業のメカニズムについてループ図を描こうというコトになった。改革に着手した3年前から、アサンプション国際小学校の先生方とは、すぐにドコデモシートをだして、ループ図を描いて可視化するワークショップを行っていた。U理論のクリエイティブ・スクライビング手法を行っていた。

Asplearning

★だから、「対話」しながらスクライビングするのは、私たちにとっては自然なことだった。そのときは丹澤校長も同席していたが、丹澤校長もまたこのスクライビングやフローチャートを描くのは手慣れたものである。保護者会や説明会などでパワーポイントでフローチャートを示しながら情熱的に語るから、保護者はすぐに共感する。

★「対話」には、ホワイボードやドコデモシートは欠かせない。暗黙知を可視化しながら共有できるからである。これは<学習する組織>の大切な構成要素であるシステム思考を相互に豊かにしていける。

★そんなこともあり、授業見学の時に、当然システム思考の共経験をもとにみていくから、どの授業にもやはり同じような学びのサイクルがあることを確認・検証していけた。「ああ、やっぱり経験を大事にしていますね。」「そうなんですよ」と互いに目を輝かせながら。

★小学校3年生のイングリッシュコースの理科の授業で、植物や動物の英単語のトレーニングをしている授業を拝見したが、蒲生教頭は、「この授業は、英単語を丸暗記するのではなく、キャンパスの自然をフィールドワークしながら照らし合わせていくのですね。英語の授業ではなく、理科のイマージョン授業なので、当然観察とスケッチをしてきます」と語る。

Asp

★たしかに、子供たちのノートをのぞくと、英語で書かれていた。まだ小学校3年生。将来が実に楽しみだ。蒲生教頭は、「このような経験は、本当に好奇心を生みだします。私たちも子供たちのワクワクする姿にエールを贈られ、もっと楽しいそれでいて子どもたちの感性や知性が成長する学びのプログラムを創意工夫したくなるのです。モチベーションのスイッチを子供たちに押してもらっていますよ」と。

★快活で好奇心いっぱいの小学生の表情を写真でお伝えしたいが、ネットでの問題を考慮して載せることは控えたい。しかし、その姿を想像するのは難しくないと思う。

|

学びの組織を開発する先生方と共に≪15≫ アサンプション国際小学校 進化する<学習する組織> ①

★アサンプション国際小学校が、21世紀型教育を本格導入し、共学校になって3年が経過。共学校と言っても、順次進むから、小学校1年生から小学校3年生までが共学校ということである。とはいえ、改革に携わる教師は全員であるから、高学年にもその影響は根づいている。

★同校は、ユネスコスクールでもあるから、当然子供たちの学習権を大切にするし、SDGsへの関心も深い。多様な格差や心の壁をどう解決していくかは、もともとカトリックの精神にも通じ、深い温かい愛情ある「対話」を中心とするPBL型授業が基盤になっている。

Dsc00628

★この「対話」(daialoge)は、当然はじめにことばありきというあのヨハネの言葉に基づいている。だから、先生方も、抑圧的なコミュニケーションをとることがない。低学年が授業が開始する時の様子を見学したことがあるが、生徒が興奮してカタチだけの挨拶をしたとき、もう一度やりなおしてみよう、なぜもう一度繰り返すのか考えてほしいとベテランの先生が問いを投げる。すると、生徒同士顔を見合いながらハッと気づいて、心静かに心を込めて挨拶をする。

★イングリッシュコースとアカデミックコースに分かれているが、アカデミックコースも英語の授業がある。ベーシックコースは、当然まだまだ英語は得意ではない。しかし、英語をリズムに乗せてスピーチするトレーニングがある。抑揚やスピードと話すことは、特別なプレゼンに限らず、大事である。それは日本語も同じだが、ふだん私たちは慣れすぎていて気づかない。

★音声は、オペラ歌手やミュージカル歌手と同じく、身体全体から生まれてくる。身体の感覚と音声は密接な関係がある。柔らかい対話と抑圧的コミュニケーションでは、音声の響きやスピードというものが違う。

★「対話」はどんな言語であれ、身体が「楽器」なのである。だから副校長三宅先生の音楽の授業もそういうところを意識している。英語と音楽。すなわち、英語と身体や感覚という微妙な振動をトレーニングすることは「対話」にも結び付いている。その微妙な振動こそ、脳内物質の交換メカニズムを発展させる大切な経験なのである。

★だから、アカデミックコースのベーシック英語クラスの生徒は、リズムが身体とシンクロした時、立派なプレゼンテーションを英語ですることができるようになる。その成長わずか10分である。日々10分で成長するのである。もちろん、人生から逆算すれば、大きな成長ではない。むしろ、小さな成長だ。

★しかし、だからこそそこを大切にしていますとは、蒲生教頭。丹澤校長、三宅副校長、蒲生教頭とは、このところ「対話」をする機会が多い。私が授業を見学するとき、いつも同伴してくださる。そして小さな子供たちの成長に互いに気づいて、喜び楽しみ、対話しながらアサンプション国際小学校の授業や教育活動の理論化へ「対話」は発展する。

★アサンプション国際小学校の先生方は、このような「対話」(弁証法とも哲学分野では言われている種類)を中心にするから、気づきも多い。それは生徒と対話する時も同じである。その気づきこそ、子供にとっては好奇心なのである。「対話」と「好奇心」を大切にしているアサンプション国際小学校。あらゆる教育活動にそれは浸透ししている。

★よく授業の見学をする。案内をしていただき、丁寧な「説明」はしていただくが、意外と「対話」がないことに、ふと蒲生教頭の「対話」と比較して、気づいた。三宅副校長、蒲生教頭といっしょに授業見学をするということは、私たちにとって「共経験」である。このときこそ「対話」は生まれ「好奇心」が立ち上がる。

★ところで、このような「対話」が成り立つのは、実は、改革3年の間に、先生方が試行錯誤しながら不安を一つひとつ解決する協働経験をしてきた。そして、それはそのまま<学習する組織>として成長した。先生も生徒も同じ環境にいる。外から見ていては、その環境の重要性に気づかないかもしれない。ぜひ公開授業や行事などの機会に立ち寄ってみていただきたいものである。

|

2019年4月18日 (木)

21世紀型教育の意味(14)レガシーとイノベーションの統合の意味 静岡聖光学院が最適モデル

★静岡聖光学院の新校長星野先生は、昨年の今頃から、すなわちわずか1年間で、グローバルイマージョンプログラムを11もデザインした。イートンカレッジをはじめとするイギリスの名門校、マレーシア、タイ、インドネシア、オーストラリアなどの名門校、あのGAFAをはじめとする連携・提携プログラム。語学研修以上の探究や学問、起業家養成といったグローバルなネットワークを形成したのである。

3_2

(シリコンバレーでアントレプログラム。GAFAの拠点に挑む静岡聖光学院の生徒。写真は同校サイトから。)

★中でも、イートンカレッジとの連携は、ラグビーの中高国際大会交流にまでに発展する予定だ。そして、このグローバルイマージョンは、どの学校も先鋭的なイノベーション教育を実施している、各学校のレガシー部分を現代化していることが共通している。

Photo_17

(4月17日、タイのチェンライ・プロヴィンシャルスクールとのMOU締結式が行われた)

★静岡聖光学院の場合は、カトリック的な精神を学問というプログラムで教育現実態を形成してきた伝統がある。この伝統を今度はグローバルイマージョンという環境の中でさらに拡充進化させていくというイノベーションを果たしている。見事なレガシーとイノベーションの統合である。

★この統合の中で、C1英語やPBL型授業、プログラミングなどのSTEAM教育は、強力な武器になっている。今まで知の拠点と言えば、どの国も首都を中心としてきたが、地球規模の地図でいえば、静岡聖光学院のような、真理は自由にするという学問的な精神をイノベーションによってさらに拡充進化させる学びの環境があるところが拠点であり、その拠点同士がつながる新しいプラットフォームこそ、子供たちにとっての最適な知の環境となろう。




|

2019年4月17日 (水)

21世紀型教育の意味(13)M(ミネルバ・マス・メタ)化する英語と思考力とICT

共同通信2019年4月16日によると、「小学6年と中学3年の全員を対象とした文部科学省の「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)が18日に実施される。国公立の全校と私立の50.1%が参加し、計2万9518校の約212万1千人が受ける」ということである。

★英語の4技能のうち、「話す」の領域は、パソコンを使う。およろ100万人が取り組む。すでに準備段階で、いろきろな問題があるというが、それは一つひとつクリアしていけばよい技術的な問題だし、予算の問題。

M_1

★この流れは、AI社会に向けて、もうとまらない。それに、今回の試みは、2020年の大学入試改革の準備であることは容易に推理できる。まだ間に合わないが、米国流儀のIBT(インターネットテスト)への準備でもあろう。

★英語と思考力とICTはセットで学力調査テストや入試も含めたキャリアデザインのプログラムはコモディティ化され、一挙にマーケット化されるだろう。すでにされているが。。。

★よしあしはわからない。しかし、この潮流はとまらないし、そのロールモデルが、ミネルバ大学であることは否めない。ミネルバ大学は、Web上でアクティブラーニングを行うシステムをつくった。入試もWeb上。ここでは、英語と思考力とICTがセット。

★このM化の流れは、マス(数学)とメタ(モニタリング視点)と結びつけば、ポジティブなWell-Beingな世界が広がる。

★PISA→学力調査テスト→適性検査→適性検査型でデザインされるようになった公立高校入試→大学入学共通テストは、みな同じ構造で学力観を構成している。ただ、論理的思考でとまっている。私立中学入試の思考力入試や自己アピール入試、インタラクティブ英語入試のような新タイプ入試で数学的思考や創造的思考まで問う学びの構造にまでは、到っていない。

★公立学校が、この領域にリーチを伸ばさないと、「クリエイティブ格差」が生まれてしまう。だから、私立中高一貫校は、そんな入試をやめよというのは、日本の未来を見ていない暴言だろう。いや、もし、そういう意見がたくさんでてくれば、逆説的だが「クリエイティブな思考力」こそがますます重要になるだろう。

★いずれにしても、ミネルバ大学、マス、メタ。つまり、英語と深い思考とICTはM化の流れに合流せざるを得ない。

★このM化の適性育成の場がPBLであることは間違いないだろう。

 

|

2019年4月14日 (日)

2020年首都圏中学入試動向(02)「新タイプ入試」激増と世界が求める「創造的思考力」との関係

★今春の首都圏中学入試では、「英語入試」のみならず、それ以外の適性検査や思考力入試、自己表現入試などの「新タイプ入試」も激増。この傾向は今後も続くというか、おそらくもっと過激になる。今言うと、いろいろあるから、いずれその過激さは触れたい。

19

★この傾向は、私学の生徒募集戦略から始まった。公立一貫校の適性検査型に対応し、流れを私学に還流させようとしたものだった。しかし、一方で、そのウネリは、塾が作ってきた中学受験市場に対し、学校が主体的に中学入試市場を創る道を拓いた。

★最初は、塾側は、新タイプ入試は受ければ誰でも入るというぐらいの感覚だったが、実受験者も10,000人を超え、実際に合格する割合も63.0%と決して易しい入試ではなくなった。市場となったからには、塾も「新タイプ入試」に対応する講座を設け始めようとする動きも出るくらいになった。

★かくして、塾主体の受験市場と学校主体の入試市場の併存期が訪れた。いずれは融合するだろうが、まだまだ過渡期である。

★さて、この新タイプ入試は、実は、生徒募集戦略のためだけではなかった。大学入試改革に影響を確かに受けているから、その本質が見えにくい。しかし、思考力入試など、適性検査型入試以外に中学入試市場が創意工夫し始めたちょうど2013年に、OECDは、PISA以外にPIACCという成人向けの学びのスキルを評価する報告書を公開した。

Piacc

(内閣府の資料から)

★日常的な成人の学びのスキルにおいて、日本は読解力と数的思考力などはトップ。しかし、PIACCでスコアが日本より低い米国は、仕事におけるスキルでは日本より高い。これが意味していることは、日常生活と仕事で使うスキルが、日本は変わらないが、米国ははっきり違うということを示唆している。

★どう違うかというと、日本は基礎学力=知識・理解のレベルで生活も仕事も成り立っているが、米国は基礎学力はそもそも、問題にしていない。つまり、創造的思考を要するスキルを重視しているということだ。

★大学入試改革は、ここから始まったといってもよい。というのは、経産省はその当時すでに、生産労働人口の減少だけではなく、労働の質が論理的思考スキルのみならず創造的思考スキルが重要であることを、文科省にも情報提供していた。文科省も、それを受けて、産業構造が変わったら、今の初等中等教育と高等教育のシステムで対応できるのか、2009年ころからはじめていたリサーチをもとに、すぐに動き出した。

★それが、今混迷を極めているらしい大学入試改革。しかし、2030年には、労働生産人口は急激に減少するだけではなく、AI社会に対応できるIT高度人材が60万にくらい不足するということも経産省と協力して予測している。

★半分は高度外国人材になんとか日本で仕事をしてもらえるように、環境を整備中だが、さすがに、国内の高度人材も育成しなければならない。

Ai_1

(資料は内閣府から)

★2015年段階で、すでに米国と中国では、AIに対する研究や各国との協働研究が進んでいるのに、日本はだいぶ溝をあけられている。生産労働人口は減少するは、IT高度人材は不足するはで、リスクというより、すでに危険水域に入っているわけだ。

★2007年に改正されたときに学校教育法の文言に「創造性」が明示された。高校で創造性の育成を行うと明文化されている。もし創造性を無視するような学習指導要領を作成するならば、文科省は法律を守れなかったことにもなる。経済的にも制度設計的にも後手後手にまわることになる。

★しかしながら、もし私立中高一貫校に毎年進学する約8万人が、創造的思考力を有する人材育成の環境に置かれたら、2030年はかなりIT高度人材を養うコトができ、国力のダメージは救われる可能性がある。その間に、公立の教育を、一部の指定校だけではなく、全体の教育の質を向上させればよい。

★それゆえ、私立中高一貫校の入試市場は新タイプ入試を発展させているのである。もちろん、現場の先生方がみなこのことを自覚しているのではない。しかし、受験生の保護者の中には、このIT高度人材として、AI関連企業、AI医療関連、AI金融業界などで活躍している方も多く、市場ニーズは高まっている。すくなくとも、広報にかかわる先生方は、この市場の変化には敏感である。

★教育の本質として、創造的思考は大事であるが、本質だけでは、市場は成立しない。市場が欲することが重要なのである。時代はクリエイティビティを欲している。それは間違いない。新タイプ入試の評価は、この新しい中学入試市場で支持されているのだ。

 

 

|

2020年首都圏中学入試動向(01)「英語入試」激増と今年から稼働する「大学入試英語提供システム」との関係

★2019年の首都圏中学入試において、英語入試を行う学校は激増した。大学入試改革の動きと共に、中学入試では適性検査型入試、思考力入試、自己アピール入試など新タイプ入試が激増しているが、その中の1つである英語入試も同様に激増。

★しかしながら、英語入試は、新タイプ入試における「論理的思考・創造的思考重視」という学びの論理の動きだけではなく、大学入試センターの個別的政治的動きに対応する意味もある。

Photo_15

★どういうことかというと、ご承知の通り、昨年末、大学入試センターが「大学入試英語成績提供システム概要」を発表したが、それによると、英語民間検定試験団体の試験を受検した場合、たとえば今の高2生だと、高3になった4月から12月の間に2回までの成績を活用できるということになっている。

★英語民間検定試験団体は複数だから、同じ団体のものでなくてもよいのだが、出せるのはとにかく成績は2つ分までなのである。だから、IELTSを2回受けてTOEFL2回うけても、その中の2つまでしか成績を活用できない。しかし、生徒が何回受けたかはどうやって大学側は調べることができるのか。それは物理的に不可能である。

★それゆえ、大学入試センターが、共通IDを発行して、成績データベースを一元管理して、成績の提供は、センターと大学でやり取りしようということになっている。そうなると、受験生は、共通IDを大学入試センターから発行してもらい、そのIDを民間検定団体の英語を受検する際に、ID記入用紙に書いて受検することになる。

Photo_16

★ああ面倒だから、民間検定試験など受験しないと思っている人もたぶんに多いだろうが、そうなってくると、東大は受験できるが、早稲田の政治経済学部やICUは併願できないということになる。気づいたときには、両私大は、大学入試英語成績提供システムを通した成績票を要求するから、間に合わないということになるのだ。

★個別に受けて、成績表を添付する出願形式ばかりではなく、この提供システムに属していないと出願できない場合もあるのだ。なんだこんな面倒なこと!と怒ろうが、批判しようが、現高2は、はやくも、この11月に共通IDを大学入試センターに申請しないと、2021年春の大学入試に間に合わないのだ。

★しかも、これは在学生の場合、図にあるように、在学高校が一括して申請するから、学校側が俊敏に動かなければ、間に合わない。高校の進路指導部が、一般入試を受ければよいからと暢気なことをいっていると、併願できる大学とそうでない大学がでてきて、困るのは生徒なのだ。

★それと中学入試における英語入試の激増はどんな関係があるのか?それは、大学受験勉強が今ままでのように直前ギリギリまででよいというわけにはいかなくなったということだ。現高2は、高3になるや民検定試験を受検することになる。おそらく、50万人も受検する(もしも全員受検したらの話)わけだから、大混乱するに決まっている。はやめに好成績を残さないと、入試に間に合わないということになりかねない。

Sfc

(今年、慶応湘南藤沢は英語入試を行った。来年以降他校への影響は必至だ。また増えるだろう。スライド提供は首都圏模試センター)


★つまり、英語に関しては、実質高2までにハイレベルなスコアを収めておかねばならない。各学校が今までのカリキュラムを1年前倒しにすることがすぐに可能だろうか?もちろん、私立学校の場合はやってのけるが、この提供システムを活用する大学は中堅以下でもかなりでてくるだろう。

★すると、今までのように習熟度でできる生徒の場合はそう難しくないが、そうでない生徒にも促進的なカリキュラムを提要しないとなると話はだいぶ違ってくる。グローバル教育を掲げる学校は多いが、その学校が、こんなところで「英語格差」を生み出すわけにはいかない。

★そこで、入学当初から英語ができる生徒が入ってくれれば、態勢を整えやすい。だから、新タイプ入試でも、英語入試の実質合格率は54.9%と低くなっている。三田国際などは、英検で準1級を持っていても合格しないケースもあるぐらいだ。

★中学受験における学校選択で、自分は英語入試を受けないかもしれにが、英語入試や帰国生入試をきちんと行っている学校を選択すると、そうでない学校に比べ、英語の面倒見がよいはずだ。高2までに英語力を高める必要があるからだ。実質、高1までに高める必要があるだろうから、英語ができる生徒がすでに30%くらいまでいれば、そうでない学校に比べ、シナジー効果も絶大だ。

★もちろん、英語の必要性は、大学入試改革のためというより、その後のソサイエティ5.0に向かう時に大いに必要とされる。というのも、2030年頃には、高度人材の50%は外国人高度人材で占められているから、そこでコミュニケーションをとったり、ある意味競争になったとき、英語でなければ議論もできないという状況になっているはずだからだ。

★なぜ、日本語を学んでもらえないのかと思うだろうか。いまでさえ、外国の高度人材は、英語でコミュニケーションができる環境にないから日本をスルーし始めている。2030年以降、このままでは日本の国力は下がっている。仕事のしやすい環境を創らざるを得ないのである。外国からの高度人材の方々と協働するしか他に道はない。

|

2019年4月13日 (土)

21世紀型教育の意味(12)聖学院 授業デザイン研究会アップデート 学習する組織とU理論を統合 (了)

★各チームのプレゼンテーションが終了すると、波部先生は、チーム全体の思考コード番号を集計し、分布図をみんなで作成した。そして、この分布図の現れ方は、コアモデルの各結節点とどんな関係があるのかチームで議論し、プレゼンして欲しいと。

Dsc00327

★コアモデルのシステム図と思考コード集計データとのつながりに何かがあると波部先生は独自に気づいて問いを投げた。はやくも私のナビファシリテーターの出番はなくなった。結局、数学的思考は、「分析」と「統合」の繰り返し。あるいはループである。そして、その繰り返しやループは、多様な形の置換なのである。そして、その置き換えにちょっとずつ違いがあることに気づいたり発見があると「発想」が生まれる。

★この数学的思考こそファシリテーターの極意みたいなものだ。もちろん、いろいろな形に「置き換える」とき、多様な能力、たとえば、ガードナーのような多重知能を使う。しかし、1人でこれらの多重知能を満遍なく使いこなせる人はそういない。

★それゆえ、チームワークが肝要ということになる。

Dsc00334

★結局、授業物語→物語フローチャート→アハ体験フローチャート→コアモデル一般化→思考コード分析→データ化→具体と抽象とデータの統合という授業スクライビングのワークショップは、数学的思考の持ち主であり、ナチュラルなリーダーシップの持ち主でもある波部先生のファシリテートによって拡充し促進したのであった。

Dsc00358

★そして、最後は、参加者一人一人の気づきを静かに分かち合って終了。スーパーバイザーの児浦先生がチェックアウトを促していった。

Dsc00350

★様々な気づきの分かち合いが進んだ。そして最後は井上先生。自分が困っていたことが、実はみんなで分析してもらいながら、いつのまにか理想形であるかもしれないという浮上に驚いた。そのギャップが、今後の自分の授業のイノベーションにつながるかもしれないと。

★つまり、授業スライビングという学習する組織の活動は、チームによるU理論の道行だったのである。授業物語→物語フローチャート→アハ体験フローチャート→コアモデル一般化→思考コード分析→データ化→具体と抽象とデータの統合は直線を描いて進んだのではなく、Uのカーブを描いて進んだのである。

★もともとクリエイティブ・スクライビングとは創発のためのU理論の手法である。しかし、これができるには、仲間の関係が学習する組織になっている必要がある。

★ビジョン共有、チームワーク、システム思考、メンタルモデル、自己マスタリーという5つのトレーニングが相互に関係しGrowth Mindsetが起きている場でなければうまくいかない。この研修を学内で自前でできるようになる内製化が可能だというコトは、聖学院がいかにすてきな学校組織のモデルであるかというコトである。

★AI社会こそ、感性豊かで高感度な知性をもった人材づくりは重要であるのは、みな知っている。しかし、どうやってそれは可能になるのか。それは聖学院に学ぶ時がやってきたのだ。

 

 

|

21世紀型教育の意味(11)聖学院 授業デザイン研究会アップデート 学習する組織とU理論を統合 ④

★授業スクライビングの次は、フローチャートの各項目の生徒の学びのスタイルのフローチャートを各チームでつくり、さらにそこにアハ体験の記号を付けていくワークをした。これはいつものことなので、波部先生はサクッと進行した。

Dsc00310

★しかし、波部先生は、どのチームもこんなにアハ体験の記号がついているとは!ウーン、それでもどこかで最もアハ体験して欲しいという教師側の意図ってありますよね。どうします?という気づきがあったので、どこかのタイミングで問いを投げてみたらと回答した。エッ、なるほど、しかしそのタイミングとは?リニアーに考えないで、メンバーの行為に覆いかぶせていけばループになってトルネードが起こるから大丈夫ですよと回答。ファシリテーターとナビファシリテーターの阿吽の対話もいい感じで進んだ。

★アハ体験フローチャート分析のプレゼンは、やはりどのチームも随所でアハ体験が起こっているはずというものだった。そこでチームからチームへプレゼンがシフトする合間で、波部先生は、どこか大きなアハ体験を期待しているというのはあるでしょうか?と問いを投げると、間髪入れずに、井上先生が、4技能の調和を考えたとき、どの技能の場面でもアハ体験をしてくれればとむしろ思いましたと。

★ここは全員アハ体験だった。というのも、井上先生は授業の型が決まらなくてと吐露していた発言を思い出し、これが型が決まらないという原因だったのかとさっと共有した。ある意味型について問いかけた波部先生はGood jobじゃんという気持ちも広まったし、井上先生も、ああそういう型もありだった。何を迷っていたのだろうという気持ちが湧いていたと思う。さっと回答した爽やかな声質でそれは仲間に一瞬にして伝わった。

Dsc00312

★さて、次は思考っコード分析に進みましょうかと波部先生。いつも通りだったら、そう進むから、そんなことを聞き返す必要などないのに、わざわざ問うてきたということは、そろそろアレンジですかねという波部先生の気づきだと私は理解した。そこで、波部先生は何の先生と。数学ですよ。ですよね。数学的思考で大切にしていることは何ですか?エッ、方程式化やグラフ化や図式化などにするということですかね。それって結局何ですか?変換だと思いますが。そうですね、端的に言うとどんなスキルですか?ああ、「置き換える」ということですね。なるほどと。

★そこで、波部先生は、授業進行フローチャートやアハ体験フローチャート分析をもとに、もっと一般化した図をチームで描いてくださいと問いを投げかけた。学びのコアモデル分析に進んだのである。

★波部先生は、仲間の議論やワークを見ていて、これって一般化だから当然、これをモデルに応用していけばよいという話ですよねと気づいた。そうそう、1人でやっていると一般化したとしても、果たして独りよがりではないかと不安に思ってしまうけれど、これだけ仲間が一般化しているわけだから、自分の授業の構造ってこうなんだという理解はありますよね。

★でも、いきなりこれが英語科のコアモデアルとはならないし、まして聖学院のコアモデルとはならない。不足しているというのではないですよ。はい、わかりました。つまり、共有しないと押しつけになるというコトですよね。それにしても、1人ひとりの先生のコアモデルを同じような授業デザイン研究を通してやっていくとなると、月一回ではできません。どうしたら。。。それは、スーパーバイザーの児浦先生にどうするかは振ったらどうですかと。それはそうですね!と。

Dsc00323  

★そんな対話をしながら、次は思考コード分析に移った。さくさくチームで議論がもりあがりながら進んだ。波部先生は、出来具合を見計らって、各チームにプレゼンを促した。


|

21世紀型教育の意味(10)聖学院 授業デザイン研究会アップデート 学習する組織とU理論を統合 ③

★ファシリテーター波部先生は、ダイアードのあと早速授業スクライビングのワークショップに歩を進めた。英語科の井上先生が自らの4技能をフルに生かした50分の授業を7分間に圧縮して物語として語った。それを同時に数学科の本橋先生が転写、すなわちスクライビングをしていく。ただし、文章や箇条書きではなく、できるだけフローチャートに「置き換える」行為をする。

★波部先生のスクライビングRP(ロールプレイ)をする先生を選択する時、本橋先生を選んだのは、数学科の先輩であり、頼みやすいというコトもあっただろうが、本橋先生が多言語主義者で、英語も堪能であるというコトもあっただろう。

Dsc00292

(左から7分間で授業の物語を語る井上先生。物語をフローチャートに置き換える本橋先生)

★この授業スクライビングは、実は創造性のループとしてシークエンスが連なっていく。そもそも井上先生の授業は、何か教科書やテキストに依拠しているのではなく、授業展開や授業素材はすべて自前だ。つまり授業創造を行っているのである。

★それを7分間の物語に再創造するわけである。また、本橋先生も転写するけれども、フローチャートとして置き換えるわけだから、これもまた再創造なのである。

Dsc00299

★授業スクライビング終了後、波部先生は、本橋先生にフローチャートを使って、井上先生の物語を再現するプレゼンを促した。この手順は、波部先生自身、経験済みなので、なんなく遂行していた。

★本橋先生のプレゼンを、井上先生は真剣に耳を傾けていた。2度目の経験であるが、今回は4技能と思考コードの関係を考えながら創意空をした。思考コードは昨年秋以降に聖学院が取入れることに決定したいから、そういう意味では、井上先生はここのところチャレンジングで、果たしてこれでよいのかどうか困っていると吐露して物語を語ったぐらいだ。

Dsc00307

★本橋先生のプレゼンを聞いている参加メンバーの息使いや嘆息する反応も聞きながら、自分が困っている現状の認識が井上先生の内面で渦巻いていただろう。しかし、その渦はまだまだ序の口だった。

★とぴうのも、ファシリテーター波部先生とナビファシリテーターは、この段階ですでに、「困っている」という事態をどのように解消できるのか、といっても解決策ではなく、井上先生が自らこれでよいのかどうか判断できる足場をこの場でどう生み出すか、スクライビング後のプログラムの進行を少し調整しようという話になったのだ。

 

|

21世紀型教育の意味(09)聖学院 授業デザイン研究会アップデート 学習する組織とU理論を統合 ②

★今年から聖学院の授業デザイン研究会の学習する組織の次元はアップデートした。これまでは、スーパーバイザーが児浦先生で、私がファシリテーターとしてかかわってきた。しかし、久しい間交流をしていただいた結果、私自身も聖学院の多くの先生方と阿吽の呼吸でワークショップができるようになってきたので、そろそろファシリテーターを先生方自身がやってみませんかと提案した。

★すると、二つ返事でシフトしようということになって。ファーストペンギンは数学科の波部先生。学校というのは、本当に忙しいから、波部先生と私が事前にリハーサルをするというこなどできない。そこで、ワークショップ本番のとときに、私がナビファシリテーターとして、陰に陽に波部先生と対話しながら、つきまといながら、なんかCMであるような感じで、というか鏡になるというのがよいかもしれないが、二人三脚で行うことにした。

★というわけで、スーパーバイザー児浦先生、ファシリテーター波部先生、ナビファシリテーターが本間で行うことになったのである。



Dsc00274

(左から英語科主任の井上先生、ファシリテーター波部先生。今回スクライビングする授業のプレゼンは、井上先生)

★学習する組織のワークショップの最初は、ダイアードからはじめることにしている。波部先生は何度もいっしょに経験しているから、ダイアードの運営の仕方は自然にできる。つまり、こうなっているから、ファシリテーターとナビファシリテーターの対話が成り立つので、誰でもすぐにできるわけではない。

★だから、いきなりこの対話はうまくいくと確信した。波部先生は、そこからやはりやるのですかと問いかけてきた。できますよねと返すと、できますが、語るテーマやトピックはどうしますかと。このワークショップが成長する種になるのがよいかなといつも思って、決めていますと回答すると、波部先生は、あっといって、スクライビングのための授業の7分間プレゼンをする井上先生と対話し始めた。

★簡単に概要を聞いて、波部先生なりに肝を予想した。この対話型組織が聖学院のベースなのだ。

Dsc00286

★そしてダイアードが始まった。ファシリテータは時間のデザイナーであり、空間のデザイナーであり、そのアフォーダンスの力をデザインしてマインドをメタデザインしていくコンピテンシーが必要である。波部先生はすぐに体得した。なぜそんなことが?それは普段の授業からPBL型の授業を展開しているから、すでにその素養は開発されているのである。だから、私はナビゲーターになればよいだけなのだ。

★テーマは、「物語」にしたようだ。生徒とどんな物語を紡いでいくかをダイアードした。私がやるダイアードは、いわゆる心理学的な研修のときにやるもではなく、色彩論のダイアード。互いの精神の色彩の対比を明らかにしつつ、調和の色がワークショップが終わったときにできあがっているかという精神の成長物語でもある。うまくいくときもあるし、失敗してしまうときもあるが、聖学院で失敗したことは一度もない。

★そして、実はファシリテーターの色付けも極めて重要だ。ファシリテーターはアートシンキングも大切というコトだが、波部先生をはじめ、聖学院の先生方は、担任をやりながら、授業を行いながら、生徒1人ひとりの自分色を大切にし、それらが混ざり合ってどんな色になって行くのか、軌道修正するのか、日々かかわっているから、アートシンキングは実はお手のものなのである。

|

21世紀型教育の意味(08)聖学院 授業デザイン研究会アップデート 学習する組織とU理論を統合 ①

★聖学院の先生方と授業デザインのアップデート方法を模索して10年が過ぎるだろうか。そのとき聖学院の教師ではなかったがステークホルダーの1人として児浦先生もかかわっていた。学習する組織とU理論をベースに研修を模索していた。

★ところが、そのときの若きメンバーが今は聖学院の基盤のリーダーとなり、児浦先生も聖学院の教師となってから、急激に聖学院の教育の質はアップデートしまっくっていたし、当初の「思考力入試」が、さらにパワフルになった。学内は創造的雰囲気、ワクワクする気持ち、自らの想いに深く深く歩んでいく空気に満たされるようになった。

Dsc00388

★そして、今春その雰囲気が受験生やその保護者の共鳴共振共感を得て、多くの生徒が果敢に挑戦してきた。3つの思考力入試も応募者は100名を突破したし、思考力入試だけで30名の入学があった。特待入試も応募者が集まり、結果偏差値も3ポイント以上上昇した。

★今年は児浦先生は、21教育企画部長であると同時に広報部長(実は国際部長でもある)でもある。教育活動のラインナップをわかりやすく発信するだけではなく、思考力入試セミナーなど経験も大切にする広報活動を行い、教育活動の生徒と教師の内なる絆と信頼感が、いかに学びの意欲を生みだし、生徒一人一人が自分の才能を開示し、仲間と協力して、共に飛びたてるようになるかシェアする広報活動も行っていく。

Dsc00358

★そのためには、教師や生徒がさらに一丸となることは重要である。児浦先生は、ステークホルダーを巻き込み風通しのよい学校組織を強化しているが、一方で内側から研修もできる人材を仲間同士が協力して形成できる学習する組織を創ることにも余念がない。

★ちょうど今年は、生徒も増え、団塊世代の教師も退職する時期にあたる。それゆえ、新しい教師をたくさん迎え、盛り上がっているこの時期に、きちんとビジョンを共有し、チームワークをパワフルにできる学習すす組織を創る仕掛けをしている。それに、学校が3ポリシーのゾーンが循環し、良質重力場を創っていくには、感性と知性の豊かな葡萄の木ができなくてはならない。この葡萄の木をシステム思考というが、これを活用するのは学習する組織の基盤でもある。

★聖学院の先生方は、互いにメンタルモデルを理解し、寛容にそれを尊重し合って、豊かな信頼関係をもともとつくる特徴がある。これはおそらく毎朝礼拝を教師も生徒も全員で行っているからだろう。また協力するパワーも強いが、一方で自分の道を追求する自己マスタリーも大事にしている。ウェル・ビーイングは、自己の道と仲間との支え合いがあって成り立つが、これが「学習する組織」の醍醐味である。

★もちろん、教師の学習する組織は、そのまま生徒にも感染する。聖学院全体が学習する組織として発展し、そのベースにシステム思考という知の葡萄の木が豊かに成長する。この学習する組織と知の森の好循環を教師も生徒も参加して創っていく学校に、自覚的になろう(メタ認知も豊かにしよう)というのが、児浦先生のビジョンであり、その戦略が教師の授業デザイン力というソフトパワーの強化なのだろう。

今年の聖学院のリーダーのラインナップが同校ホームページで公開されている。なるほど創造的かつ戦略的リーダーの布陣ということのようだ。

|

2019年4月12日 (金)

21世紀型教育の意味(07)ピアジェを体現する紀平梨花選手。

★昨日11日、今季の世界ランキング上位6カ国が出場するフィギュアスケートの世界国別対抗戦が、マリンメッセ福岡で開幕。女子ショートプログラム(SP)で紀平梨花選手が自身の持つ今季世界最高点を更新する83.97点をマークした。注目は今まで紀平選手がSPで外しがちなトリプル・アクセルをビシッと決めたことだった。

★印象的な紀平選手の言葉は、「ギリッギリのギリギリセーフでした」と成功したトリプル・アクセルへの感想だった。最近のスポーツ番組は、アスリートの演戯だけではなく、そこに到る公式練習風景からバックヤードでの選手の調整のプロセスまで取材していることである。

★結果のみならず、そこに到るポートフォリオまでわかるし、アスリートが動画を見返したり内省したりしているリフレクションの様子までわかる。これは、まさにアクティブラーニングやPBL、そして大学入試改革や新学習指導要領のエッセンスとも重なる光景である。フィギュアスケートを他の競技に置き換えるだけではなく、他の学びの領域に置き換えても共通する学びの過程である。

Photo_14

★しかし、今回は、そのような外面的な学びの行動の手順だけではなく、内面的な学びのシステムまで見え隠れしたことがおもしろかった。

★公式練習でうまくいっていたトリプル・アクセルが、演技6分前の練習ではうまくいかなかった。普通ならドキドキしてしまうだろうが、すぐにテープの巻き方の強さを調整した。紀平選手は「違和感」を感じたと言っていた。私のような一般人ならみすごすような違和感だっただろが、紀平選手の幼いころからの経験によって際立って育った身体感覚能力が微妙な違和感をも感じるセンサーを開発していたのだろう。

★それゆえ、すぐに直前ギリギリまで調整した。この「調整」という言葉は紀平選手も使っているが、「調整」するには、何らかの基準に照らし合わせて感じるのであるから、紀平選手は何らかの「基準」を身体の中にもっているのである。これを学びのコアモデルとしよう。

★紀平選手は、今回巧く飛んだトリプルアクセルの感覚を忘れないようにしたいと語り、この感覚を同じように使っていきたい。そうすればミスをなくすことができるとまで語っていた。つまり、これはコアモデルを飛ぶたびに「同化」しようということだろう。

★もちろん、今までも同じように「同化」してきた。しかし、失敗もあった。そのつど「調整」し、再び成功する。しかし、そのときのコアモデルは、パワーアップしている。この「違和感」→「調整」→「コアモデル」の循環(上記図)が、まさに身体の内部で起きている学びのシステムである。

★学びの行動プロセスは、学びのコアモデルという身体内部でできるシステムプロセスによって生まれている。かくして、学びの行動プロセスという「記号」とコアモデルができる身体内部で起こっているシステムプロセスという「意味」の関係によって、学びは生まれているというコトが了解できるニュースだった。

★この記号を構成するシステムと意味を構成するシステムの循環がうまくいけばいくほど結果はすばらしいものになる。これはフィギュアスケートに限らない。他の領域でも応用可能。つまり「同化」できるし、条件の違いもあるから、その時は「調整」するのである。

★トップアスリートの演技、練習風景、バックヤードで起こっているシークエンスは、子供たちの学びに応用が利く。大きなヒントになる。

★かくして、紀平梨花選手は、経験から生まれるコアモデアルの同化と調整を行いながら、「記号」と「意味」の二重のシステムの循環を構成している。まさにピアジェ理論の体現者である。

 

|

2019年4月11日 (木)

21世紀型教育の意味(06)「経験」は学びの種である。

★幼児教育から初等中等教育までの教育のシークエンスを、成長の度に出遭う「経験」で描いていったとき、J.デューイが自然=経験という意味で進化論的だし、同時に啓蒙主義的でもあることがわかる。結局、デューイもまたヘーゲリアンから抜けきれなかったのかもしれない。精神の弁証法の比喩は種からから成長する植物という自然の行為であり、この成長過程こそ学びの過程である。

Experience

★種は、いかなる条件でも成長し、開花し、実を結ぶわけではない。自然の多様な条件を満たさなければならない。したがって、人間の良質の経験とは、適切な教育条件によって支えられるものであり、なんでもよいから経験をすればよいというものではない。

★しかし、そんな良質な経験は大人になるにつれて、用意されなくなる。用意するのは自分自身である。よって主体的とはいかなる条件でも良質の経験ができるように創意工夫する創造性なのである。

★創造性とは、好き勝手なものを創ればよいというわけではない。デザイン思考が成功するのは、最適でない環境にあって、最適化というデザインをする創造的思考を発揮できるかというコトである。

★人間にとって、最適化とは自然と社会と精神の悪循環を好循環に変換する創造性の働きによってなされる。re-creation。このあくなきループがどこまで広がるシステム思考を生み出す創造性が最適化を生成する。そのrecreationはワクワクするではないか。

★しかし、小学校低学年までは、良質の経験を学校が作りだすことはできる。まだ子供たちは自分でその環境を創ることは難しい。その環境を創ることができるようになるためにも、経験という学びの種を大事につくらなければならない。

★小学校までに良質な経験ができれば、そこには学びの過程、あるいは思考の過程をどこまでも発展させられる知の遺伝子が形成される。

 

 

 

|

2019年4月 9日 (火)

21世紀型教育の意味(05)「主体的」とは自らの才能を豊かにするアクション

★「主体的・対話的で深い学び」と「探究」というのが、重要なプログラムとして位置付けられているのが新学習指導要領。しかし、これは合体して「主体的・対話的な探究」と置き換えてよい。「深い学び」と「探究」を学びの活動として分ける理由が見当たらない。

★せいぜい前者は「科目の授業」を想定し、後者は「総合的な探究の時間」という領域の違いを表すタイトルの違いしかないと言えないことはない。もしそうだとしたら、そんな壁は取り除いた方がよいし、そうでなければ教科横断なんでできないだろう。

Photo_13

★ハワード・ガードナーの多重知能理論はあまりに有名だ。IQだけではなく、8つの能力がどうも人間にあるらしいと。このMIに対してさらに情緒面をデフォルメしたのがEI。ガードナーの友人である学者たちはEIという社会的情緒的知性を発展させた。そしてゴールドナーがEIをIQと対照するためにEQと置き換えて、世に広めた。教育心理産業が認定トレーナーを養成する団体を結成して広く深く浸透させている。

★しかし、これって、教科なのだ。言語的能力は、英語や国語だし、論理的数学能力は数学や理科だし、空間能力は図工や技術、絵画、ボードゲームだし、サイバースペースも入れると情報だ。音楽的能力は音楽であり、身体能力は体育である。コミュニケーション能力は社会であり、内省的能力は宗教や哲学だろう。そして博学的能力は学問を超える能力で、各教科の知性を拡充する力だ。

★かくして、ガードナーの多様な知性は、現状の教科授業では行き着いていないが、現状の教科の授業から出発できてしまう。

★もしも、各教科で教科の特性である知性を養うことができたら、それは「主体的・対話的な探究」となろう。しかもさらに圧縮するだら「主体的な対話思考」ということになる。

★対話思考は実は探究と同じことだ。では、「主体的」という言葉が残るのは、どんな意味があるのか。そもそも対話思考は主体的でなければならない。ということは結局「対話思考」プログラムが各教科で行われれば、「主体的」行為も含まれてしまう。

★というわけにはいかない。たしかに、カントが言う認識主体という意味では、「対話思考」に包摂される。サルトル的な実存的行為としての主体も結局弁証法的でなければ成立しないから、「対話思考」に包摂される。ハイデガーの言う存在者が存在への道を回復するという意味でなら、それは対話思考以外にあり得ないから、やはりこれも包摂される。

★それでは、わざわざ「主体的」を付け加えるのは、腹痛が痛い、頭痛が痛いという同語反復になるのではないか。

★いや、それがならないのだ。5タラントもらった人が商売をしてさらに5タラント儲けた人は、タラントを与えたオーナーにほめられ、さらに商売をするように支援される。1タラントをもらった人が地中に隠して、1タラントを守り抜きましたとオーナーに行ったところ、銀行に預かったほうがましだ。増やすことができないならば、その1タラントも取り上げ、増やせる人にくれてやろうという物語がある。聖書で語られていることだ。

★もちろん、これは比喩であって、投資の方法のススメではない。やらない理由をウダウダ述べて、自分の才能を豊かにする行為をしないことを批判しているわけだ。つまり、この譬えは、自らの潜在的な才能を開花し豊かにしていくことが人間の行為であると。つまり、この行為こそ主体的な行為なのである。

★潜在的な才能を拡充していくビジョンは、対話思考にははじめから包摂されていない。対話によって、現状を精神的に豊かにしていくことはできる。そのためのカント的、サルトル的、ハイデガー的主体性は対話思考にあらかじめ内包されている。

★しかし、才能を開花し豊かにしていく野心を対話思考に結びつけることは、21世紀の新しい学びの地平である。

★よって、新学習指導要領は、対話思考によって、生徒一人一人が自分の才能を豊かに開示していくことを目指しているのである。その才能は、IQだけではなくEQもあるし、MIという多重知能に相当する。そしてその多重知能は、それぞれの教科で学ぶことができるはずなのだ。

★これが21世紀型教育の「主体的な対話思考」ベースの授業PBLの本意である。

|

21世紀型教育の意味(04)クリエイティブ・クラスを輩出するキャリア・デザイン

★21世紀型教育のキャリア・デザインの醍醐味は、クリエイティブ・クラスを輩出するところにある。この教育は、東大初綜理加藤弘之の生み出した≪官学の系譜≫とは違い、加藤弘之と対峙した≪私学の系譜≫の第1世代の福沢諭吉や在学時代に加藤弘之と論戦した≪私学の系譜≫の第2世代石川角次郎(聖学院初代校長)の私学人の精神が脈々と生き続けている。

★≪私学の系譜≫の第1世代と言えば、他に、江原素六(麻布の創設者)、新島襄(同志社創設者)、そして、今度1万円札になるらしい渋沢栄一など。第2世代と言えば、他に新渡戸稲造、内村鑑三、高橋是清(開成初代校長)が超有名。

Photo_12

(麻布のOB齋藤佳太氏作の「劇」上演の時に配布された。若きアーティストにも≪私学の系譜≫の知/血が流れている。)

★≪私学の系譜≫のクリエイターは、今でいう学歴社会などまったく関係なかった。啓蒙思想、キリスト教、仏教など、加藤弘之やその仲間である法律進化論者と対峙する発想がコンコンと湧いていた。これは、現在の国連が黄金律は、宗教・民族・人種などを超えて共通する精神であるとしているのと一致している。

★加藤弘之を引き合いに出すのは、彼自身、福沢諭吉と啓蒙思想を共有して当時のメディアで活躍していたのに、東大初綜理になるや転向し、啓蒙思想を蒙昧思想として普遍的原理を排除する社会進化論(デューイや米国のプラグマティズムとは違う)を展開、私学を追い詰める政策の正当化理論を打ち建てた。中江兆民のルソー学校が壊滅されたのもその流れだっただろう。

★それはともあれ、麻布出身者齋藤佳太氏と出遭ったのは、もう15年くらい前だろうか。あの当時麻布出身者との出遭いが多数あって、PBLプログラム創作や今でいうファシリテーターやジェネレーターであるラーニング・アドバイザーの役割形成のプロジェクトを楽しんでいた。

★彼らは、当時氷上校長とよく対話をしていたということもあって、そのとき私も氷上先生とお会いし、≪私学の系譜≫論の影響を受けた。先日齋藤佳太氏から、最近学校ともコラボすることがあってもう一度≪私学の系譜≫について掘り起こしてみたいとメールをもらった。

★麻布と言えば、そのキャリア・デザインが東大と直結するのは受験市場での話で、人間力という教養マーケットでは、クリエイティブクラスの輩出ということであろう。クリエイティブ・クラスとは自然・社会・精神のトータルな世界を創造する人材。

★21世紀型教育のキャリア・デザインは、このクリエイティブクラスを輩出する≪私学の系譜≫がマインドセットされている。

|

2019年4月 8日 (月)

21世紀型教育の意味(03)海外大学準備教育も超える。

★ミネルバ大学のことはあまりにも有名だ。同大学の学生のクリティカルシンキングの力は全米一位だというから凄い。そして、21世紀型教育機構の教育理念とシンクロしているところもいっぱいある。そう考えたとき、21世紀型教育における中等教育は、このような大学に接続することであり、何も20世紀型大学につながることだけを目指す必要はないしという発想が、メンバー校で湧いている。それだけではなく、そもそも今ある大学から選択するという発想が21世紀型教育ではないという発想までも沸いているのである。

M


★現状の大学に接続することは、21世紀型教育機構加盟校にとって、ある意味、プロクルステスのベッドである。かといって、海外大学進学準備教育で解決するかというと、特に米国や英国の大学は学費が高すぎる。

★限界費用ゼロ社会になるとしているときに、そんなに高い学費は、本当に未来の投資になるのだろうか。もちろん、国内の大学の接続に中高時代の才能教育を捨てざるを得ないような事態があるとするならば、海外大学にいくしかないかもしれない。

★しかし、私たちは、ミネルバ大学を見習うべきではないか。既存の国内外の大学に高校生を進ませる道のみしかないわけではなく、起業と同様、ミネルバ大学のように高等教育機関を新しく作ってしまえばよいのだ。

★まあ、そう簡単にはできないが、野心はもっていたほうがよい。そうメンバー校の幾人かの校長は野心を抱いている。実際にミネルバ大学が出来ているのである。9月にジャック・マーがアリババを去る時、もしかしたら彼は新しい大学を創るかもしれない。ミネルバ大学という前例に続く動きがもっとあってよいはずだからだ。

★限界費用ゼロ大学へ。時代は変わる。既存の高大接続しか考えないキャリアデザインはもはや賞味期限切れだろう。

|

21世紀型教育の意味(02)パーソナライズドラーニング リベラルアーツベースであることが大切。 デストピア未来を回避するために。

★シリコンバレー、特にGoogleに象徴されるように、1人ひとりに適合したパーソナライズドラーニングとかアダプティブラーニングとかいわれるものが、21世紀型教育だと言われる。それはその通りだと思うが、モンテッソーリ教育とICTがつながった試みが注目されているように、背景にはリベラルアーツがある。

★それが、日本に移植されると、教育産業によって、リベラルアーツが外部化される。かつてのジョブスやシリコンバレーのCEOが、リベラルアーツを外部化しないで、大切にしているのに。教育産業に言わせれば、いやいやリベラルアーツは学校がやるものだから、基礎学力定着に関する効率性は私たちが請け負うから、余った時間で大いにリベラルアーツをやってくださいとまことしやかなことを言う。

★いやいや学校だって、リベラルアーツをやってきたかというと、必ずしもそうでない。そこで、21世紀型教育機構は、リベラルアーツの現代化、リベラルアーツ3.0を21世紀型教育の基礎としようとしている。

Ai

★もしリベラルアーツなきパーソナライズドラーニングが浸透したら、どうなるかというと、図にあるようなデストピア未来が待っている。もちろん、GAFAは、だからこそリベラルアーツを大切にしようというのだろうが、それが各国の市民に共有されていないければ、防ぎようがない。

★もっとも、グローバル市民は、いやおうなくAI市民に移行せざるを得ない。そのときリベラルアーツ3.0が教育で実施されていたら、デストピア未来はユートピア未来にシフトできる可能性がある。

★昨日の統一地方選挙は、相変わらず保守党の勝利だが、議員一人一人の言動指針は、地方市民の目線に合わせているものが増えている。国の力に頼るのではなく、自分たちの力で!という流れ。もちろん、選挙戦略だと言われれば、そうだろうが、少なくともそういう風潮が生まれているからであるのは確かだろう。

★もちろん、その動きも政党に属している場合は、その政党の枠組みの中で動くしかないが、少なくともパーソナライズドな動きが濃くなってきたことは確かだ。もちろん、その実態や実現性に関しては、それほど期待はできないが、確実に上記の図のような流れに沿っているのだろう。

★教育と政治は結びつかないかもしれないが、そんなことがないのは、ちょっと考えればむしろその関係は強いと気づくはずだ。教育からも政治からも21世紀型にシフトする共振が広まることにエールを送りながら、自分は自分なりに、粛々と真正21世紀型教育のプラットフォームを支援していくしかあるまいと思っている。

|

2019年4月 7日 (日)

21世紀型教育の意味(01)文法は必要である。文法不要論の浅薄さ。

★21世紀型教育。歴史的に牧歌的近代を支える教育が、ポストモダンを強化する教育になり、20世紀は、再帰的モダニズムという安心安全というフェイク状況をつくり、その背景にリスクを生みだし、リスクマーケットを生み出す巧妙な人材養成機関としての教育という強欲資本主義極致の時代を迎えた。そこから脱するために、21世紀型教育は出発している。歴史的にはそういう意味があるのであって、もう21世紀だから、目指すのは22世紀型教育だという愚かというか、20世紀末のポピュリズムの制度設計内に汚染された発想を浄化できていない人々がいるのは相変わらずである。

Lshb

★それだけ、まだまだ21世紀型教育は市場形成を貫徹していないというコトを示唆しているから、もしSDGsを本気でやろうとしている人々がいるなら、そこをよく考えていこうではないか。だいたいSDGsというのは、新たな活動ではあるが、世界の痛みの問題集であって、人間存在の根本問題なのに、できるだけわかりやすく、表層だけ知ってもらえればよいというビジネスが、つまりありたき姿と現実のギャップを思い知って、どんな課題があるかラインナップを並べる方法を販売しているのだ。

★まったく困ったものだが、それでは、人間存在の根本問題に触れるにはどうしたらよいのか。それは子供たち自身が自分の関心と興味、好奇心をもったところから出発する以外にないのに、子供に任せるのではなく、やはり教師が導かなければと神になってしまっている場合が意外と多く、それはICTを使おうが、ディスカッションをいれようが、21世紀型教育ではない。

★こういうと、教えない教師がいいんだという発想がでてくる。そもそも21世紀型教育は教える教えられるという関係よりも、大人も子供も学び合うコトが前提だから、「教えない」という言説すら使わないのだ。学び合いの中から「好奇心」「興味」「関心」は生まれるものだ。子供に任せられない好奇心などという発想は、学び合うという「対話」をしていないだけのことである。

★ところで、英語や現代文・古典・漢文で、「文法」の授業が、21世紀型教育では不要であるといわれがちだが、それは決定的な間違いである。従来型の英語の大学入試問題のような文法問題を教える必要はそれほどないが、それ以上にもっと言葉の構造を子供と探究していく「文法」の授業は必要だ。

★「言葉」の構造は、人間の根本的な存在を反映しているからだ。最初「記号」に過ぎない「言葉」が「意味」をもつメカニズムは「文法」の授業によって覚醒するわけだ。

★それと好奇心や興味・関心はどうかかわるのか?言葉は「文字」として「絵画」の源であり、「音声」として「音楽」の源であり、「構造」として「関数機能」の源であり、「ミメーシス」として「創造性」の源であり、「抑揚」として「感情」の源泉であり、「声の大小」として「運動」の源泉であり、「コミュニケーション」として「信用」と「気づき」の源泉であり、これら「総体」として「物語」や「ドラマ」、「ミュージカル」、「舞踊」の源泉である。

★母国語であれ、第二外国語であれ、「文法」の授業がワクワクしないはずがない。

|

2019年4月 6日 (土)

学びの組織を開発する先生方と共に≪14≫ 「対話」は、言葉の構造のネットワークによって創出。

★先に述べた「言葉」が「構造」を隠しながらやりとりされ「対話」が生じる。その隠された意味に気づくことがスリリングで魅力的であるとしてワクワクする人もいれば、一方で、わからないことに対する不安と恐怖を醸し出す人もいる。

★前者は深い学びを望んでいる人だし、後者は目先の利益を優先する人に多い。「わからない」「難しい」・・・などと面と向かって抑圧的に向かってくる人は、私の仲間にはいないが、組織が硬直化しているスタッフの番頭さんは、そういうジャブを頻繁に打ってくる。それが、どんなにFixed Mindsetを、私にではなく、組織に蔓延させていくことになるのか気づいていない。

Photo_11

★それでも、私は「調整(accommodation)」を試みる。私の「記号」の意味と相手の「記号」の意味の共通点とズレを探し、できるだけ、共通点のミメーシスを探して置き換えて、理解できる部分が多いというコトを探る。しかし、相手がもし思考停止していたら、固定化された意味以外は受け付けない。

★だから、その状態は、不安を増幅し、「わからない」を連発させる。そして、そんな状態になっている人は、そういう気持ちを生み出す私の言動を忌み嫌い、恨み、やがては糾弾し始める。もし互いに理解をしなければ、世界の痛みを解決できないとしたら、夜を徹して対話をするが、相手が自己利益を守るだけの反応で、その防衛機制が、世界の痛みを増幅するにまったく値いしなければ、私はさっさとそこから去ることにしている。

★しかし、授業におけるPBLでは、簡単に生徒は逃れることができるわけではない。だから、そのような事態になれば、鬱屈するし、そのクラスは、ネガティブな雰囲気が蔓延し始める。

★もし、そのようなクラスが多い学校だとしたら、あまりに暗い雰囲気が蔓延し、そもそも生徒は集まらない。だから、生徒を集めるようにするには、徹底的にGrowth Mindsetをする必要がある。

★そんなの簡単だ。相手を尊重し合えばよいのだ!愛だ!と言いまくる先生もいる。その先生の属している学校は意外に暗いというパラドクス。

★しかし、そんな学校が本気で、言葉の構造を学ぶ組織になり、互いに異なる記号や意味をミメーシスによって調整し始めると、つまり、これがPBLなのだが、この本質的な対話が教師も生徒もできる学校になり、学習する組織の創出が行われるようになると、一気に魅力を放てるのである。

★このミメーシスという置換スキルは、マルチインテリジェンス(多元知能)そのもので、詩学、美学、スポーツ、建築など身体によるレトリックの内面化というリベラルアーツによって育成される。ICTはどうなの?バーチャルな時空の身体化という新しいリベラルアーツの領域だから、それを包含するリベラルアーツの現代化が必要だというのはそういうわけである。学習する組織では、この隠れた構造を有する記号という言葉どうしの交換が行われる対話によって生まれる思考をシステム思考という。私は、対話思考と置き換えるときもある。

★そして、この隠れた構造を有する記号という対話は、人によってその構造が異なる。しかもその構造の中には、不変のコア構造を有している。そこは崩すのはあまり得策ではない。地球の核は不変だが陸上や海は様々な条件によって変化するのと似ている。

★この不変のコア構造こそその人のメンタルモデルである。ここを崩したり、そのメンタルモデルに気づかない人は、別のメンタルモデルにすり替えられる危険性がある。このようなメンタルモデルの破壊やすり替えを洗脳という。

★Fixed Mindsetは洗脳への道であり、そうなってくるとデモクラシーから外れ、暗黒面に突入する。意外や意外、多くの領域の組織であるあるのお話だ。

★というわけで、PBLのミッションは実に高邁であり、いまここで未来への希望を見出すプラットフォームなのである。しかし、それには「言葉」や「対話」の隠れた意味や構造をミメーシスによって可視化し、共有していくことが極まりなく重要なのである。

 

 

|

学びの組織を開発する先生方と共に≪13≫ 言葉の構造

★PBLを実施していく時、大切かつ強烈なメディア(媒介)は、「言葉」である。私たちは、ある単語やフレーズ、センテンス、パラグラフ・・・を交換し合いながら理解したり、論理的に思考したり、創造力/想像力を働かせたりしている。

★日常言語はよくわかっているつもりでも、実はその言葉の交換を繰り返していく過程で、そんな意味があったのかと新しい世界に導かれる時もある。同じ言葉という記号をやりとりしていながら、意味がどんどん広がったり縮まったり、別次元にジャンプしたりするのがおもしろいし、誤解も生み、トラブルも起きてしまうときもある。

Photo_10

★実は、「言葉」は伸縮自在の意味を持つ記号という構造になっている。意味というのは、実は思考スキルで成り立っている。どんな種類があるかは、世の中随分、明快になってきているし、学習指導要領でも論じられているから、ここではこれ以上述べないが、その意味を生み出す思考スキルの中で、ミメーシスとしての置換スキルだけが、さらにはみ出している。そんな構造に「言葉」はなっている。

★ミメーシスは、「模倣」と訳されるが、「置換」と置き換えたほうが思考が広がる。

★以上のことは、ピアジェをもとに、このところワークショップをやって、気づいたコトである。

★これによって、「最近接発達領域」の可視化もできる。特別なことはしていない。名古屋大の今年の世界史の問題「パルテノン問題」、ケンブリッジの「リンゴ問題」、京大の「女性の就業率国別比較問題」、そして、とある「X問題」(キンダーガーデンにヒントをもらった)を掛け合わせると、上記の図のような構造にまとめられる。

★このワークショップは、先月から5箇所くらいでやったのだが、最終のワークショップで、このような形に結実した。この言葉を活用して「対話」をするとどうなるかは、次回に。

★そうそう、この「記号」を「レゴ」に置き換えたり、プログラミングの時に使う「ロゴ」や「コード」に置き換えても同じことである。

|

富士見丘 SGH甲子園2019 最優秀賞の意味!

富士見丘の高2生(現高3)は、SGH甲子園2019で英語プレゼンテーション部門で最優秀賞を獲得した。

Photo_9

(写真は同校サイトから)

★3月23日(土)に関西学院大学で、「SGH甲子園(全国スーパーグローバルハイスクール課題研究発表会)2019」が開催され、研究成果プレゼンテーション部門〔英語発表〕において、高校2年の3名が最優秀賞を受賞した。もちろん、英語でのプレゼンテーション。

★同校のSGH甲子園での受賞は3年連続。2017年には、英語プレゼンテーション部門で優秀賞を獲得しているし、2018年には、ラウンドテーブルディスカッション部門で優秀賞を獲得している。そして、一昨年に続き、7月に開催される国際的な研究発表会「Global Link Singapore 」に、再び招待されることにもなった。

★今回、代表の3名は、“Trashed Treasures ―FOOD LOSS-”と題する発表を行い、マレーシア・フィールドワークを経た研究成果をプレゼンした。富士見丘のSGHは、探究の仕方の基礎演習から始まって、慶応大学、上智大学などと高大連携して、グローバルなフィールドワーク(シンガポール、マレーシア、台湾、釜石など)や世界各地の高校生と交流しながら探究の道を推し進めていく骨太のプログラム。

★マレーシアは、金融・保険・不動産、クリエイティブ、医療、教育の4つ分野でソフトパワー未来都市を構築するイスカンダル計画を実施している。2006年から始まり、2025年には完成する予定で、300万都市が生まれる予定。

★実際に、中国やシンガポールなどの投資も相次ぎどんどん成長している。日本の経済を脅かす存在になるかもしれないと一方では言われているぐらいだ。

★ともあれ、イギリス、アメリカ、オランダなどから医療やAIなど高度専門技術を育成する教育機関が集積しているのである。マレーシアだけではなく、シンガポールや台湾などに訪れた富士見丘生は、日本をはるかに超える教育水準に驚愕し、その中で、富士見丘の教育の水準の高さを改めて気づくわけである。

★だから、自分たちが、日本の未来を救うというミッションをしっかりと抱く。そのミッションが自分のキャリアデザインに当然つながる。それゆえ、卒業生89名の2019年度の大学合格実績は次のようになった。定員厳格化という厳しい大学受験の環境下にあって、高パフォーマンスである。教育の水準の高さが、もたらした結果であろう。

慶應義塾大学    2名

上智大学      5名

青山学院大学    3名

立教大学      5名

中央大学      7名

法政大学      8名

学習院大学     2名

成蹊大学      8名

成城大学      5名

明治学院大学    4名

獨協大学      7名

津田塾大学     3名

東京女子大学    5名

日本女子大学    7名

学習院女子大学   1名

駒澤大学      1名

専修大学      5名

日本大学      2名

東洋大学      1名

武蔵大学      1名

白百合女子大学   6名

清泉女子大学    3名

フェリス女学院大学 1名

日本赤十字看護大学 1名

東京医療保健大学  1名

東京都市大学    2名

東京電機大学    1名

|

2019年4月 5日 (金)

静岡聖光学院 新校長に星野明宏先生。突き抜ける成長力育成へ

★今年4月より、静岡聖光学院の新校長に星野明宏先生が就任した。前校長岡村壽夫先生は学院長に就任し、引き続きカトリック精神と学問的な学びの伝統を継承するアカデミック精神を持続可能にする役割を担っている。

★一方星野明宏校長は、持ち前のラガーマン魂で、科学的人づくりの組織強化を牽引していく。星野校長の人づくりの手法は、学内外で、教師も生徒も切磋琢磨できるGrowth Mindsetの竜巻を生み出す手法。一気呵成に前に進み、イートンカレッジやUCバークレー、京都大学、東大などの人材リソースを巻き込んでソフトパワーと機動力を拡充していく、得難きリーダーである。

1521173296008

★当然、この教育活動は、教師も生徒も時代を動かしていく力になる。そのようなある意味日本の危機的状況をも救うことになる包括的能力は、やはり学問的で、実践的で、プロジェクト型の学びのプラクシスの環境設定が重要である。

★研究したくなる学びの空間、プレゼンしたくなるカッコいい空間、議論したくなる空間、自己陶冶したくなる空間、感動を共有できる空間、エスタブリッシュスクールならではのハウスの空間、一見ハードパワーにみえるキャンパス空間も、心理学的なアフォーダンスメカニズムという付加価値を付けるコーディネートをするのも星野校長ならではのマーケティングデザイン力が生み出したものだ。

★もちろん、学際的で探究的な深い学び、問題を追究していく議論、仮説検証していくフィールドワークや実験の活動など、本質的な教育の組み立ては教師一丸となって立ち臨む組織強化を着々と行っている。

|

2019年4月 4日 (木)

学びの組織を開発する先生方と共に≪12≫京都聖母学院幼稚園 人間の在り方を生み出す学びの核が育つ

★京都藤森にある京都聖母学院幼稚園の田中圭祐園長とお会いできた。PBLというのは、実は幼稚園にその原型があるという。たしかにPBLの系譜である構成主義的な学びは、ピアジェから始める(教育以外の領域ではもっと以前からあった。アリストテレスの詩学や認知動態的な考え方はその起点かもしれない)としたら、その原点はやはり幼児教育というのは納得できる。

Photo_8

★京都聖母学院の幼稚園の一日の中の重要なプログラムの1つに、エッセイズという小さな手をつかって、学びの核を生み出す子供たちの自由作業がある。オバマ大統領、スティーブ・ジョブス、ピーター・ドラッカーなど著名人が経験しているモンテッソリー教育は、そうそう藤井聡太7段も体験しているということで、今とても注目されている。

★しかし、京都聖母学院幼稚園の手を使った作業は、モンテッソリー教育とはコンセプトとはまた違う。型を積み重ねていくうちにある大きな力を生み出すのがモンテッソリー教育ではあるが、だからといって、その教育を享受した子供たちがみなスーパースターになるわけではない。

★ところが、京都聖母学院幼稚園の自由作業エッセイズは、DoingとBeingの螺旋的な言動が、自然と気づかないうちに将来にかけての学びの核を生み出していく。子供によってその核のカタチは違うが、すべての子供たちに学びの核が自然と生まれるメカニズムになっている。小中校の授業とは違って、学び方を教えるのではなく、暗黙知としてのあるいはデフォルトモードとしての学びの核が生まれるのである。

★この学びの核が生まれるのを待たずして、学び方を教えてしまうと、すべての子供にそれが伝わるとは限らないし、かりに学び方を覚えたとしても、それを柔軟に変容させることはなかなか難しいだろう。

★自然との交流―自由作業―象形文字を書く書道など、触れるもの、つくるものは植物や動物など具体的な生物が多いが、このDoingは、ちょっとずつBeingを意識する変容過程が埋め込まれている。この同化と調整という経験こそピアジェのいう構成主義的学習観=メカニズムに結びつくのだろう。

★だいぶ抽象的な描き方をしてしまったが、とにかく、幼稚園は、人間の成長の力をコンコンと生み出す泉なのだと改めて、気づいた。

|

アサンプション国際 新校長に丹澤直己先生

2019年4月1日から、大阪の箕面市にあるアサンプション国際小学校・中学校高等学校の校長に丹澤直己先生が就任した。アサンプション国際は、21世紀型教育改革を行って3年。小学校、中学校、高校いずれも生徒募集に成功し、画期的なカリキュラムイノベーションも進化させている。

★すなわち、子供が自ら未来を拓く勇気と自信と信頼と叡智と創造性を生み出せる才能開発型カリキュラムである。

Photo_6


★丹澤先生とは、副校長時代から、共にPBL(Project Based Learning)の研究プロジェクトでごいっしょしていたから、優雅で最強の校長であると私は確信している。

★今回、小学校から高校まで一貫してマネジメントする校長に就任されたのは、まさに天命ではないかとさえ思う。というのは、丹澤先生ご自身、OGであるため、母校の教育の質を向上させることや、在校生というより、丹澤先生にとっては同窓生であるから、生徒に対する愛情の深さは右に出るものがいないほどだ。

★それに、海外経験も豊富で、異文化の背景まで熟知されている。大学の教壇にも立ち、教育委員会での活躍もしてきた。

★自らが英語教師として、アサンプション国際の小学校から高校まで一貫したイマージョン教育をデザインし、英語を超えて、生徒1人1台のタブレットの環境も生かし、PBL型授業を推進している。

Photo_7


★先日、丹澤先生のアサンプション国際のビジョンと3ポリシーの膨大なプラン書を拝見したが、同校サイトでは、それをコンパクトに上記のような図としてデザインしている。膨大な思考の塊を今度は簡明なキーワードとイメージに描いているのだ。

★つまり、海外経験や大学で講義を行ってきたということは、このようなシステム思考を有していることが、その背景にある。

★PBLでは、ロジカルシンキング、クリティカルシンキング、クリエイティブシンキングができる授業を展開すると丹澤先生はいつも語っているが、それには、データと物語とシンボルという多角的な表現が欠かせない。

★丹澤先生とPBLを学び合ていると、フローチャートで授業デザインを先生方と作成したり、思考コードや思考スキルの構成についてもプロジェクトメンバーと議論している姿に、海外型の校長の特徴があふれている。

★そして、ポーランド研修に生徒を導き、一般の日本の学校では、想像もつかない、存在の深淵に迫る平和教育プログラムを展開している。21世紀は女性のリーダーの時代。チーム丹澤が率いるアサンプション国際は、大注目の学校である。

 

 

 

|

2019年4月 3日 (水)

学びの組織を開発する先生方と共に≪11≫今PLがヤバイ♪3ポリシー広報戦略会議で使える。

★最近かかわっているミーティングは、理事会であろうと、広報戦略会議であろうと、カリキュラムイノベーション会議であろうと、私が参加する時は創発会議にしていただいている。事実の報告会議だったとしても、分かち合いは挿入するから創発型ステージにジャンプするようにしていただいている。

★ある学校の広報戦略会議では、小学校から高校までのブローシャ―やフライヤーをつくる会議だったのだが、コンセプトメイクをするために、小学校低学年、高学年、中学、高校で行われているそれぞれのPBL型授業のサイクル図を書いて、並べてみた。ここはAI(アプリシエイティブ・インクワイアリ―)手法で。DDDDをインタビューしながら、スクライビングしていくわけだ。参加メンバーが必ずしも教務ではなく、事務局メンバーもいっしょだったので、自分たちの学校の基幹である授業のシークエンスをいっぺんに12年間分一望できた。共有のため息が広がった。

Pl

★しかも4つの発達段階も共有できたわけだから、参加メンバーの表情がもう違っていた。やはり子供たちの成長物語を共有できると最高なわけだ。しかも、ピアジェ→パパート→レズニックという構成主義の系譜ループも織り込んでいったから、広報戦略会議は、チームワークにシステム思考が加わったわけだ。

★これでは、まだこの会議での私たちの作業が運命共同体にならないので、もっとハッとするようなイマジネーションを生みだし共有しなければならない。そんなとき活用するのが井庭崇先生とそのチームが開発している多様なPL(パターンランゲージ)カード。広報戦略会議は、3ポリシーを受験生といかに共有するかというイマジネーションを表現するミーティングだから、どうしても物語が極めて重要である。

★それで、成長物語の骨組みをAI手法で「共構築」したのだが、もっと「共想像」が必要だったので、今回はミラパタ(キャリアデザインのためのパターンランゲージ)を活用してみた。必要なカードを選択して12年間並べた。すると、当然ではあるが、螺旋構造になるので、同じカードが複数枚必要になる。ここで、なるほど、ミラパタは3セットぐらいを混ぜて活用すれば創発がおこるなと。今回は1セットだけだったので、何度も使うカードはポストイットで代替した。

★カリキュラムイノベーション創発会議では、プロジェクトのPLカードを活用するが、これは本当にそれだけで創発できる。リフレクションで使うコトが多いが、夏期研修は、5時間くらいあるから、これとミラパタのPLカードをシャッフルして1時間くらいで、PBL授業のデザインをしてみるワークショップも挿入してみようかと閃いた。

★そんなこんなを実践しているうちに、ついに理事会でのプレゼンでもPLカードを活用してみることにした。キュートなキャラが堅い雰囲気を和らげるし、データの話の背景に隠れていることを見出すことがいかに魅力があるか気づくと最高なんだという話を長々せずに、PLカードを提示することによって、なるほどと瞬間的に了解してもらえる。

★つまり、プレゼンしながら、今話した事は、たとえば、こんなカードで示してみましょうと挿入すると、なるほどそういう視点で了解するのかとモニタリングになるわけだ。これがワークショップなら、今までの私の話をこれらのPLカードから幾枚かチョイスして並べてストーリーにしましょうよとなるのだが、理事会はまだまだそこまではジャンプできない。

★しかし、今まで私が話したことを受験生の親だったら、こんな物語として気づいてくれるかもしれないとリフレクションすると、説得力が違う。そして、そのときのPLカードの選択の仕方だが、上記写真以外に、ラーニングとプレゼンテーションのPLカードもごちゃまぜにして、そこから選択して並べてみる。

★こんなことをしていると、アマゾンでPL本やカードをポチっとしているメンバーをみかける(微笑)。おおー。自己マスタリーにも刺激的ではないか。ビジョン共有、チームワーク、システム思考、自己マスタリー、そしてどのカードを選択するかでメンタルモデルまで開示される。

★中原淳先生の組織開発の本と井庭崇先生のPL本とカードは、学習する組織を創造する時に欠かせないメタ・ツールである。

|

2019年4月 2日 (火)

学びの組織を開発する先生方と共に≪10≫ビジョン共有は工学院田中歩モデル

★2019年度、令和元年の教育が始まった。私立中高一貫校では、多くの新校長が誕生している。時代を画するときに遭遇する新リーダーはレガシーとイノベーションの平衡を創り出しながらダイナミックな精神で動く不思議な特徴を発揮するものであるから、2020年中学入試市場は活況を帯びるだろう。

★そんな中、私は幾つかの学校を横断しながら、学習する組織のプラットフォームが拡充すればよいなあと8つのC(※)を胸に秘めながら動くいていくのは相も変わらずであるが、最近は、ずいぶん風通しがよくなった感じで、先生方とリサーチやワークショップをやっていて何かが変わる予感が降りてきている気がする。

21

★「学習する組織」の肝は何と言っても「ビジョン共有」である。ビジョン共有は、しかしながら、「チームワーク」「システム思考」「メンタルモデルの相互理解」「自己マスタリー」の関係総体によって生み出されるもの。何かビジョンが明快にあって、リーダーがその文言をみんなで唱えさせるという20世紀型A軸タイプの組織では難しい。

20

★しかし、実際には、まだ20世紀型A軸タイプの組織が結構存在しているのを横目で見て、驚いている。幸い私がコミュニケーションをとっている学校組織は、さすがにそれはない。

★ただ、20世紀型教育のB軸タイプ組織はある。これは先生方も企業人もこのイメージで動いている場合が多いかもしれない。ビジョンはまず間違いなく、その組織にとって、そして社会インパクトにとっても、善きものと思い込まれている。したがって、自分たちのビジョンを「絶対善」として共有しようとリーダーはする。

★学校の教師や企業のスタッフは、必死にその絶対善を信じ、あるいは受け入れ、そのビジョンに導かれて授業や業務を遂行していく。誰かにビジョンを明快に示して欲しいとかゴールをはっきり決めて欲しいと、正解を求める習慣が暗黙に共有されている。チームワークがつくられ、風通しがよいから、情報共有もなされ、成果を出す組織としては実に効率よく強いチームだ。

★しかし、実際には、各教師や各スタッフは、その「絶対善」を受け入れるときには、葛藤がある。なぜなら、ビジョンは理念的な要素を含んでいる。理念的なものは実は人それぞれに違う。つまり理念に対するメンタルモデルが違う。ところが、20世紀型組織は、仕事なのだから、自分のメンタルモデルではなく、組織の「絶対善」に従うものだと暗黙のうちに強いるから、メンタルモデルとのギャップを我慢するストレスが高くなる。

★だから、長持ちしない。「利益」に依拠するメンタルモデル、「平等」に依拠するメンタルモデル、「保守としての自由」に依拠するメンタルモデルなど思考や判断の依拠する「善」が人によって違うから、「利益」に依拠するメンタルモデルを持っている人は離職するだろう。

★逆に「絶対善」が「利益を上げること」の場合、「最高善」や「平等」に準拠して行動する人の場合は、耐えられなくなったら、そこを離職するだろう。いや、「利益」に依拠している人は、もっと「利益」があがるところを見つけた場合、転職するのも素早い。

★かくして、「絶対善」を上から共有しようが、上からも下からも共有しようが、客観的な側面しか見ようとせず、主観的なメンタルモデルを互いに理解していない場合、目に見えない葛藤を解決することが難しい。しかも、「絶対善」のクリティカルチェックができないから、見た目循環しているようにみえても、その組織が「暗黒面」に接近していることもある。

★そこで、その主観的な面をオープンマインドで相互理解していこうという組織開発が、20世紀末には行われたが、学校や教育関連産業で行われるようになったのはようやく最近である。制度設計のよしあしは別にして、令和元年は働き方改革元年でもあるからだろうか。

★そんなわけで、好き放題、タメ口で語る教師仲間や会社スタッフが、「絶対善」ではなく「最高善」としてクリティカルチェックをしながら、学習する組織を創っていける21世紀型教育のB軸タイプ組織が登場した。

★しかしながら、そうはいっても、20世紀型A軸タイプと21世紀型B軸タイプは、いったりきたり。好き放題、タメ口をいうのを嫌うレガシーに片方の足をおいている仲間もいるし、そういう仲間に対し、モードとして好き放題、タメ口を使うという本質を見失っている疑似イノベーターの集まりの場合もあるからだ。

★学習する組織の理想型は、21世紀型教育のC軸タイプ組織。実は、最高善は、具体的なビジョンや文言というモノに宿るというより、チームの中からいろいろなアイデアが沸き上がってくる関係が生成されている状態のコトを言うのである。主観的なメンタルモデルをぶつけ合うのではなく、相互主観という永遠に進化する≪共メンタルモデル≫を作りながら、その過程でアイデアが生成される人材関係の最適平衡が最高善になっているのである。仲間やスタッフが、依拠すべきメンタルモデルが多様であってまったく構わない。もちろん、アンチ民主主義的メンタルモデルは、21世紀型の学校では採用されないのは、言うまでもない。

★学習する組織の理論の創始者ピーター・センゲは、アメリカの心理学者カール・ロジャーズの次の言葉を引用している。「もっとも個人的なことこそが、もっとも普遍的なことなのだ」と。 かくして、≪共メンタルモデル≫によってこそ、最適ビジョンが生成され、結果的に共有される。

★というわけで、学習する組織は、信頼関係を生成する人づくりがめちゃくちゃ大事になる。こういう組織が学校の場合、生徒が集まるのは必至だし、創造的思考力が生まれるカリキュラムイノベーションが湧き出る泉を掘り起こすことができるし、最高善を生み出すプラとフォーム自体をそれぞれの領域で創出する(たとえば、プロジェクトを立ち上げたり、起業したり、NGOなどのコミュニティをつくったり)人材がそれぞれの道を切り拓く大学を見つけて合格していくだろう。今、この理想に近いのは、教務主任田中歩先生がジェネレーターとなって人づくりをしている工学院田中歩モデルであろう。この田中歩モデルは、まだ中学入試市場でその存在を知られていない。新時代を迎え、拡充することを期待したい。
※8C
Curiosity
Communication
Creative Thinking
Critical Thinking
Collaboration
Contribution
Confidence
Challenge

|

2019年4月 1日 (月)

5月17日「神奈川南部私立中学フェスタ2019」 12歳の選択の意味

★5月17日(金)、はまぎんホールヴィアマーレ(桜木町)で、「神奈川南部私立中学フェスタ2019」が開催される。このエリアは、神奈川県の中でも「新タイプ入試」やそこに反映しているカリキュラムの新機軸に挑戦している学校が多い。

Img253

★大学合格実績も国内大学だけではなく、UC系列の大学やハーバード大学などのアイビー系の海外大学に進学し始めている先進エリアである。

★だから、5つのテーマについて、オール私学の教師でパネルディスカッションにも挑戦できる。

Img254

★従来、いや今もまだまだそうだが、中学受験市場は塾が基盤をつくっていたが、塾で面倒が見ることができない新タイプ入試を、私学自身が創発して、私学も中学入試マーケットを創出するようになった。

★「中学受験市場」と「中学入試市場」は、今まで見分けがつかなかったが、市場のトッププレイヤーが塾か学校かで差異がわかる時代になったのが昨今の中学入試市場3.0である。もちろん、この両市場は、今後も共生していくのだが、どちらかに従属されることのない状況をつくり、塾歴社会という言説を脱構築する必要はある。

★もっとも、それを決めるのは歴史である。学校か塾かというより、子供にとって最適な学びの環境や深い思考力とは何なのかを切磋琢磨して追求していくことが時代のダイナミクスである。

|

3月の人気の項目と学校

★前回、今年の3月のホンマノオト21のアクセスランキングベスト50を掲載したが、中学入試情報や麻布のように複数の記事がランキングに入っているので、カテゴリー分けして、各項目ごとのアクセス数の和で並べ替えてみた。すると、麻布に関する記事が最も多くアクセスされていた。第2位は聖学院。その次に、「学習する組織」「中学入試情報」「PBL」というカテゴリーが続くが、学校としては聖学院の次に工学院、三田国際と続く。

Photo_5

(麻布のサイトから。「青年即未来」という麻布創設者江原素六の精神は、今でも魅力的だ。)

★しかし、ランキングにかかわりなく、ここに掲載されている項目や学校が、今年注目される可能性は大である。

1:麻布
2:聖学院
3:学習する組織
4:中学入試情報
5:PBL
6:工学院
7:三田国際
8:都立中高一貫校
9:八雲学園
10:東京都市大等々力
11:世田谷学園
12:聖光学院
13:巣鴨
14:かえつ有明
15:桐朋女子
16:東洋大京北
17:洗足学園
18:武蔵
19:横浜創英
20:香里ヌヴェール
21:恵泉
22:昭和女子大附属昭和
22:聖ドミニコ学園


|

19年3月ホンマノオト21アクセスランキングベスト50

★今年3月の<ホンマノオト21>のアクセスランキングベスト50は、次の通り。大学合格実績の季節だから、それ関係の記事にアクセスが多かったのは当然ではあるが、やはり都立中高一貫校の東大の数は、このブログでもアクセスが多かった。ホンマノオト21の情報は偏っている割には、ほかのメディアと重なる部分もあるのかもしれない。

 

1:【2019年大学合格実績05】都立中高一貫校の東大合格恒常化の意味
2:麻布と聖学院と三田国際に象徴される首都圏中学受験市場の多様性
3:春一番!2020年中学入試へ各学校が動き始める。
4:【2019年大学合格実績02】東京都市大学附属等々力の躍進の意味。 五島...
5:【2019年大学合格実績04】世田谷学園の東大合格者躍進の意味。
6:【2019年大学合格実績01】聖光学院 東大+京大合格 100名!その意...
7:【2019年大学合格実績03】巣鴨の東大合格者躍進の意味。
8:2020年首都圏中学入試の学校選択(09)聖学院の場合
9:2020年首都圏中学入試の学校選択(11)八雲学園の場合 進化がとまらな...
10:2020年首都圏中学入試の学校選択(10)工学院の場合 伸びる大学合格実...
11:学びの組織を開発する先生方と共に≪02≫組織の成長は柔と剛の複眼思考にか...
12:【2019年度首都圏中学入試(38)】 桐朋女子 本物教育の旗を掲げ続け...
13:学びの組織を開発する先生方と共に≪04≫学習する組織の土台システム
14:聖学院とかえつ有明 中学受験市場のプラットフォームの多様化を拓く
15:学びの組織を開発する先生方と共に≪03≫八雲学園 チームワークのスーパー...
16:PBLの肝はマインド思考×システム思考(02)東工大の数学の問題は立すて...
17:PBLの肝はマインド思考×システム思考(01)名古屋大の世界史をヒントに...
18:PBLの肝はマインド思考×システム思考(08)SDGs実現のための研究を...
19:学びの組織を開発する先生方と共に≪01≫マニュアルやパッケージの背景を読...
20:かえつ有明 2020年度中学入学生から「別学から共学化へ」
21:麻布の中学入試問題④ 理科 おいしいコーヒーの淹れ方を科学する
22:学びの組織を開発する先生方と共に≪09≫「コア」とクリエイティブ・ラーニ...
23:2020年首都圏中学入試の学校選択(07)香里ヌヴェール学院の場合②教...
24:洗足学園 今年も人気 その理由の向こうに見える時代のウネリ。
25:武蔵という学校 教育改革の拠点?
26:埼玉西武でも私立中高一貫校フェア!体験学習も目白押し。
27:麻布の中学入試問題 東京オリンピック・パラリンピック問題
28:2020年首都圏中学入試の学校選択(01)概要
29:麻布の中学入試問題で、学びを学ぶことをおススメします。
30:学びの組織を開発する先生方と共に≪07≫社会システムとクリエイティブ・ラ...
31:工学院 探究型PBLと自己マスタリー型PBLと担任力
32:【2019年度首都圏中学入試(45)】 横浜創英 応募者総数前年対比12...
33:麻布の中学入試問題② アクティブブレインな算数の問い 麻布に学ぼう
34:2020年首都圏中学入試の学校選択(04)東洋大京北の場合
35:麻布の中学入試問題③ 国語 成長のアルゴリズムを組み立てる それにしても...
36:香里ヌヴェール学院の授業 考えることが好きな生徒が生まれる
37:学びの組織を開発する先生方と共に≪05≫クリエイティブ・ラーニングと学校...
38:三田国際 2019年度入試も人気
39:工学院 学習する組織のメカニズム実現の完成に目途(1)
40:PBLの肝はマインド思考×システム思考(05)京都大学の生物の種分化問題...
41:学びの組織を開発する先生方と共に≪08≫構成主義の系譜とクリエイティブ・...
42:工学院 学習する組織のメカニズム実現の完成に目途(2)
43:【2019年度首都圏中学入試(47)】 塾の合格実績の一極集中が崩れるか...
44:PBLの肝はマインド思考×システム思考(07)大阪大学の地理の論述を学ぶ...
45:2020年首都圏中学入試の学校選択(03)恵泉の場合
46:工学院 学習する組織のメカニズム実現の完成に目途(3)ピアジェにいったん...
47:聖学院の優しさと強さ~聖学院と麻布と武蔵と栄光と
48:グローバル教育3.0にシフトするとき(01)昭和女子大学附属昭和の場合 ...
49:2020年首都圏中学入試の学校選択(05)聖ドミニコ学園の場合
50:東洋大学京北の人気の意味するコト 希求される哲学



 

|

« 2019年3月 | トップページ | 2019年5月 »