★2019年度、令和元年の教育が始まった。私立中高一貫校では、多くの新校長が誕生している。時代を画するときに遭遇する新リーダーはレガシーとイノベーションの平衡を創り出しながらダイナミックな精神で動く不思議な特徴を発揮するものであるから、2020年中学入試市場は活況を帯びるだろう。
★そんな中、私は幾つかの学校を横断しながら、学習する組織のプラットフォームが拡充すればよいなあと8つのC(※)を胸に秘めながら動くいていくのは相も変わらずであるが、最近は、ずいぶん風通しがよくなった感じで、先生方とリサーチやワークショップをやっていて何かが変わる予感が降りてきている気がする。
★「学習する組織」の肝は何と言っても「ビジョン共有」である。ビジョン共有は、しかしながら、「チームワーク」「システム思考」「メンタルモデルの相互理解」「自己マスタリー」の関係総体によって生み出されるもの。何かビジョンが明快にあって、リーダーがその文言をみんなで唱えさせるという20世紀型A軸タイプの組織では難しい。
★しかし、実際には、まだ20世紀型A軸タイプの組織が結構存在しているのを横目で見て、驚いている。幸い私がコミュニケーションをとっている学校組織は、さすがにそれはない。
★ただ、20世紀型教育のB軸タイプ組織はある。これは先生方も企業人もこのイメージで動いている場合が多いかもしれない。ビジョンはまず間違いなく、その組織にとって、そして社会インパクトにとっても、善きものと思い込まれている。したがって、自分たちのビジョンを「絶対善」として共有しようとリーダーはする。
★学校の教師や企業のスタッフは、必死にその絶対善を信じ、あるいは受け入れ、そのビジョンに導かれて授業や業務を遂行していく。誰かにビジョンを明快に示して欲しいとかゴールをはっきり決めて欲しいと、正解を求める習慣が暗黙に共有されている。チームワークがつくられ、風通しがよいから、情報共有もなされ、成果を出す組織としては実に効率よく強いチームだ。
★しかし、実際には、各教師や各スタッフは、その「絶対善」を受け入れるときには、葛藤がある。なぜなら、ビジョンは理念的な要素を含んでいる。理念的なものは実は人それぞれに違う。つまり理念に対するメンタルモデルが違う。ところが、20世紀型組織は、仕事なのだから、自分のメンタルモデルではなく、組織の「絶対善」に従うものだと暗黙のうちに強いるから、メンタルモデルとのギャップを我慢するストレスが高くなる。
★だから、長持ちしない。「利益」に依拠するメンタルモデル、「平等」に依拠するメンタルモデル、「保守としての自由」に依拠するメンタルモデルなど思考や判断の依拠する「善」が人によって違うから、「利益」に依拠するメンタルモデルを持っている人は離職するだろう。
★逆に「絶対善」が「利益を上げること」の場合、「最高善」や「平等」に準拠して行動する人の場合は、耐えられなくなったら、そこを離職するだろう。いや、「利益」に依拠している人は、もっと「利益」があがるところを見つけた場合、転職するのも素早い。
★かくして、「絶対善」を上から共有しようが、上からも下からも共有しようが、客観的な側面しか見ようとせず、主観的なメンタルモデルを互いに理解していない場合、目に見えない葛藤を解決することが難しい。しかも、「絶対善」のクリティカルチェックができないから、見た目循環しているようにみえても、その組織が「暗黒面」に接近していることもある。
★そこで、その主観的な面をオープンマインドで相互理解していこうという組織開発が、20世紀末には行われたが、学校や教育関連産業で行われるようになったのはようやく最近である。制度設計のよしあしは別にして、令和元年は働き方改革元年でもあるからだろうか。
★そんなわけで、好き放題、タメ口で語る教師仲間や会社スタッフが、「絶対善」ではなく「最高善」としてクリティカルチェックをしながら、学習する組織を創っていける21世紀型教育のB軸タイプ組織が登場した。
★しかしながら、そうはいっても、20世紀型A軸タイプと21世紀型B軸タイプは、いったりきたり。好き放題、タメ口をいうのを嫌うレガシーに片方の足をおいている仲間もいるし、そういう仲間に対し、モードとして好き放題、タメ口を使うという本質を見失っている疑似イノベーターの集まりの場合もあるからだ。
★学習する組織の理想型は、21世紀型教育のC軸タイプ組織。実は、最高善は、具体的なビジョンや文言というモノに宿るというより、チームの中からいろいろなアイデアが沸き上がってくる関係が生成されている状態のコトを言うのである。主観的なメンタルモデルをぶつけ合うのではなく、相互主観という永遠に進化する≪共メンタルモデル≫を作りながら、その過程でアイデアが生成される人材関係の最適平衡が最高善になっているのである。仲間やスタッフが、依拠すべきメンタルモデルが多様であってまったく構わない。もちろん、アンチ民主主義的メンタルモデルは、21世紀型の学校では採用されないのは、言うまでもない。
★学習する組織の理論の創始者ピーター・センゲは、アメリカの心理学者カール・ロジャーズの次の言葉を引用している。「もっとも個人的なことこそが、もっとも普遍的なことなのだ」と。 かくして、≪共メンタルモデル≫によってこそ、最適ビジョンが生成され、結果的に共有される。
★というわけで、学習する組織は、信頼関係を生成する人づくりがめちゃくちゃ大事になる。こういう組織が学校の場合、生徒が集まるのは必至だし、創造的思考力が生まれるカリキュラムイノベーションが湧き出る泉を掘り起こすことができるし、最高善を生み出すプラとフォーム自体をそれぞれの領域で創出する(たとえば、プロジェクトを立ち上げたり、起業したり、NGOなどのコミュニティをつくったり)人材がそれぞれの道を切り拓く大学を見つけて合格していくだろう。今、この理想に近いのは、教務主任田中歩先生がジェネレーターとなって人づくりをしている工学院田中歩モデルであろう。この田中歩モデルは、まだ中学入試市場でその存在を知られていない。新時代を迎え、拡充することを期待したい。
※8C
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