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2019年2月 2日 (土)

麻布の中学入試問題 東京オリンピック・パラリンピック問題

★毎年麻布の入試問題を見るのが楽しみである。これぞ思考力型入試だといわんばかりの問題を世に問うからである。麻布の入試は4教科であるが、各科目の知識を問うものではない。物語思考、数学的思考、アート思考がシステム思考としてつながっているかどうかをたまたま各教科の素材で問うてきているとみなしたほうがよい。


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(麻布の創設者江原素六の胸像。私学の系譜の第一世代。「青年即未来」という言葉は、麻布が永遠の進歩主義の学校であることを伝統とするということだろう。)

★今年もやはりおlもしろい。たとえば、社会の問題では、2020年東京オリンピック・パラリンピックに関する問題を出題。話題性で注目を浴びようという「けれんみ」たっぷりであるが、一方で、世の中が注目している現象や事象についての歴史認識や社会構造の変化との関係についての社会学的なものの見方を問うてくる。学問と実践のつながりを大切にしているカリキュラムポリシーが反映している。

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★もちろん、オリンピックそのものの歴史ではなく、近代の社会構造や産業構造の変遷のダイナミクスを解明しながら、その影響をスポーツはいかにうけてきたかをまずは考える。

★軍事力中心社会から経済力中心社会へシフトする近代社会の変容の背景にある近代社会の矛盾とスポーツの光と影を考えていく記述問題が続く。そしてAIに代表されるような知性中心社会へシフトする未来をどうするかというシークエンスになっている。

★たとえば、近代的スポーツには、それぞれ、もともと地域や民族の固有の文化に根差したプロトタイプがあるが、それが近代的なスポーツになることによって何が変わったのかと問われるわけである。

★近代化の矛盾やグローバリゼーションの影を生み出す要因を問うているわけである。


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★また革命や戦争、市民の抵抗に対して、政府はスポーツをどのように利用するのかという権力の構図を問うてくる問題もある。これは東大の日本史や世界史で問われる問題ともはやくも通じている。入試問題という枠組みの中で、問いの本質にチャレンジするエリート校のアイロニーがここにはある。

★私学の系譜は、政府から抑圧されたり閉校の憂き目に遭遇するたびに、あの手この手で乗り切ってきた。いかなる枠組みや拘束も、わが精神の自由は縛れるものではないという意志。生きることの意味を絶やさない戦略がここにはある。

★そして、スポーツと労働の問題も扱い、稼ぐというコトと自分の生きる道との融和をどうするか、働き方改革の本質を問いかえすようないまここでの問題が出される。

★ファイナルクエスチョンがまた粋である。今後予想される社会の変化の問題の解決を、スポーツで行うにはどうしたらよいのか創造的問題解決で締めくくる。


★時代の変化に翻弄されてきたスポーツと今度はそのスポーツで未来を創造するにはどうしたらよいのか。遠くの現象や事象ではなく、なじみのある事柄から壮大な歴史的背景や物語を映し出し、過去から未来へパースペクティブを一気呵成に広げていく。思考力型問題の醍醐味がここにはある。

★それにしても、一方で時代に翻弄されつつも世に影響を与えてきた麻布の教育。これからもそれは変わらないという意志が伝わってくる問題でもある。

★時代が学歴ブランド校というレッテルを麻布に貼ろうとも、そんな世評に右顧左眄することなく「青年即未来」の真髄である自由な精神は全く影響を受けることはないという意味だろう。たしかに、そのようなレッテルを嗜好する近代日本の優勝劣敗発想を払拭する戦略を展開して活躍しているOBもたくさんいる。この精神性こそ江原素六から継承する私学の系譜の根本精神である。


★ただ、同時に麻布という学校の今後の存在の意味はいかに問われていくのだろうか。翻弄されてきたスポーツの新たな展開への問いは、麻布自身の自問自答でもあるのかもしれない。

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