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2019年2月20日 (水)

【2020年度首都圏中学入試動向の切り口_08】 中学入試市場のプラットフォーム多様化へ④

★前回、「今までの一つの偏差値だけで、学力を測定され、未来のキャリアをそれでレッテル貼りされるのは、保護者もそうだが、受験生本人が一番嫌であろう。しかし、このことに高偏差値の受験生やその保護者は気づかない。その学校の先生も気づかない。このことが、日本社会の危機なのである。エッ!と思うであろう。いったいここのどこにリスクが横たわっているのか?それは、中学受験市場のマーケットの特徴をちょっと考えればわかる」と述べた。ちょっと考えてみよう。


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★まず、なぜ高偏差値の受験生、保護者、学校は気づかないのかというと、1986年から2011年までは、学歴ブランド校―学歴競争校というシンプルな二元論だった。これは、いうまでもなく近代化路線の閉塞の極限なのである。1つの偏差値、つまり知識の出し入れの正確性の予見可能性を測定できる学力を基礎学力としていたからである。

★もちろん、これは明治という日本の歴史的特性がある。近代というのは誰にでもチャンスがある社会を理想としている。当時、その理想を実現する象徴が近代官僚制だった。しかしながら当初の官僚制はかなり不透明だった。

★その名残は、1985年までは、私立中学受験にもあった。そこで、誰にでもチャンスがあるはずだというのを偏差値というデータによる可視化をする塾が現れた。それによって、一気に中学受験は大衆化する。超富裕層―富裕層―準富裕層にアッパーマスと準アッパーマスが参加できるシステムデザインが広がった。

★近代というのは、このようにつねに、自由・平等・博愛を阻害するリスクを解消するリフレクシブ近代化機能(再帰的近代化機能)を持っている。この決定的な発見は、しかし、ブレア―クリントン時代の社会学者ギデンズやドイツのベックに明快に論じられるまで待たなくてはならなかったが。

★いずれにしても、ポストモダンの専売特許のような再帰性は、しかし、近代が誕生したころからすでに作動していた。ブレア―クリントンのブレインとして社会学者ギデンズがいるが、この政権は、教育―教育―教育によって経済を再生させようとした政権であり、その夢は途絶えるが、この「リフレクシブ」という「再帰性」は、教育に入り込み、今や「主体的・対話的で深い学び」において欠かせない学びの機能になっている。そればかりか、企業の研修や人材育成コンサルティング手法で欠かせない機能にまでなっている。

★もっとも、この機能は聖書に由来し、それをマインド生成システムに全面的に合理的に取り入れたのがあのヘーゲルである。ダイアローグという対話には、このリフレクションが欠かせない。しかもヘーゲルの対話は、のちの心理学の発達理論のダイナミクスのヒントになっている。そのダイナミクスの源泉はリフレクションなのだ。ということは、リフレクションといえども、クリティカルシンキングなしに安易に取り入れるのは少し考えものなのである。

★それはともかく、再帰的近代化機能は、阻害要因としてのリスクを解消するのが、次の瞬間それがデータ化というシステムを活用しているために産業化されてしまうという新たなリスクが生じる。これによって、子供たちのキャリアのレッテル貼りが起こり、本来自由・平等・博愛を取り戻すはずだった時代の動きが、一挙に物象化・凝結化して凍てついてしまう。

★麻布のような本来再帰性近代化機能を生み出す学校も、学歴ブランド校として物象化してしまう。もちろん、これに対峙して新教養主義を前校長の氷上先生を中心に展開したのだが、氷上先生の近代化理論は素朴近代化理論がゆえに、啓蒙思想を脱構築できなかった。

★だから、2011年以降、氷上先生は自分自身の活動として再帰性に挑戦するも、学校全体としては、その重要性にまだ気づいていない。もちろん、消えてなくなっているのではなく、眠っているだけだが。まして、他の高偏差値校は、その近代理論は牧歌的で、建学当初は社会的リスクに対して警鐘を鳴らす役割を果たしていたが、今は、自校の生徒募集のリスクを回避する行動でとまっている。

★歴史は、それでよいのかと時代を俯瞰しゆさぶるから、学歴ブランド校以外が、偏差値競争をしているだけでは、ある意味市場で評価されなくなるリスクに先に気づき、再帰的近代化機能を働かせる。

★そのとき、ルール変更、つまり基準の変更というイノベーションを創出する。それが新タイプ入試に象徴される新しい学びの登場であり、それを最も先鋭的に行った三田国際が、学歴ブランド校とではなく、イノベーションブランド校として衝撃的にデビューすることになったわけだ。

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