【2019年度首都圏中学入試(49)】 勢いと現実と成熟と 第二次中学受験市場にシフトほぼ完了。そして・・・。
★2019年首都圏中学入試は、市場的には勢いがあった。応募者総数は伸びたし、受験生数という実数も増えた。しかし、現実はそう甘くない。たしかに、超学歴ブランド校以外は、満身創痍になりながらも、果敢に新タイプ入試を開発し、断行した。受験市場が活気を取り戻さなければ、経営は成り立たない。
★この勢いを生んだのは、超学歴ブランド校ではなく、自分たち自身の創意工夫の労作を市場が評価したことだったが、その恩恵を欲しいままにしたのは、超学歴ブランド校だった。この矛盾に打ちひしがれながらも、学校が主体的に創造的アクションを起こしたことは、そこに中学受験市場の質の成熟が生まれ、新たな私立学校の活路を見出すことにつながった。
★34年前までは、もともと私立学校は、偏差値で学校選択をするという習慣はなかった。よく偏差値悪玉論や偏差値メーカーの中学受験塾の批判があるが、一部は当たっているが、本当はちゃんと分析したほうがよいかもしれない。
★何事も光と影、メリットとデメリットという両義性がつきものである。
★1980年代前後、偏差値で選ぶ習慣は、大学受験においてだった。しかし、何せ受験生数の多い時代だったから、各予備校の偏差値はそうあてになるものではなかった。しかし、共通一次試験、それに続くセンター試験誕生以降、そのローカル予備校の偏差値がいっせいにつながる。
★そこから、今のような大学の序列が一気呵成に広がった。それは予備校のせいでも、文科省のせいでもない。もちろん、無意識のうちにあるいは意図的に便乗したということはあるかもしれない。しかし、20世紀は、強欲資本主義の世紀である。合理化、計算可能性、予見可能性を追い詰めていく歴史である。
★受験も市場であれば、それを回避できない。しかし、市場は持続可能性を維持しようとするから、チェック機能も一応は働く。その役目が私立学校だった。これは優勝劣敗主義路線を政策発想とした官学の系譜に対峙する私学の系譜に立ち戻るとわかる。
★そして、そこには今超学歴ブランド校となっている私立学校の姿も見ることができるだろう。
★だから、私立学校の受験市場は、この大学受験予備校の偏差値を逆利用とするところから始まった。それが、34年前だった。というのも、そのころは、今の超学歴ブランド校をつくった一極集中型の流れを固定化しようという動きがうまれていたからだ。
★この手法は、資本主義的ではなく、権威主義的な市場の作り方だった。それゆえ、偏差値という指標で、その権威から私立学校を解放しようというシャーネリスティックな発想と偏差値がアクロバティックに手をつないだのである。折しもホストコンピュータが10年遅れであったが日本にも上陸して、合理化、計算可能性、予測可能性を強化する動きにも重なった。
★中学受験の大衆化が生まれたのである。これによって、権威的集団に、はいれなくても、思考力・表現力・応用力を身につける合格戦略を生み出す情報戦が同時に始まった。
★そして、逆利用というコントロールは、所詮はかなく、強欲資本主義の波にのまれ、偏差値主義が誕生することになる。しかも、このときの思考力・表現力・応用力は、やはり超学歴ブランド校の中学受験大衆化側の奪還にすぎず、それ以外の学校は知識ベースをもとめられるようになった。大衆化というのは、結局学歴ピラミッドを確立し、その序列の中で、トップでなくても満足できる層をつくりあげればよかったからである。
★バブルの勢いもあり、このピラミッドを守っていれば、年収1000万以上の生活はできたのである。
★しかし、バブルがはじけて、デフレの波が襲いかかり、ピラミッドのトップ層・準トップ層以外の居心地がわるくなった。OECD・PISAの結果のせいでいやおかげで、学力重視の学習指導要領になり、公立学校と私立学校の差別化戦略で、まだ余力のある家庭を私立学校の市場にとどめることができた。
★ところが、歯止めが利かない少子高齢化にリーマンショックや度重なる大災害によって、さすがにピラミッド維持が難しくなて来た。そこに公立中高一貫校の到来で、一気に私立学校はアドバンテージを奪われる形になる。
★私立学校の存在意義を考えなくてはならない事態だったときに、ある意味その象徴であった戦後教育基本法が政府の政策によって改正されることになってしまった。
★存亡の危機をどう乗り越えるか、麻布の前校長氷上先生は、戦後教育基本法をデザインした座長の1人南原繁の孫であったということもあり、いろいろな場所で講演をしていた。私も講演に参加して、懇親会でしたたかワインを飲み交わし、そのときに≪私学の系譜≫論をどうつないでいくかという話になった。
★しかし、氷上先生は、私学全体の動きに興味はなく、それは無関心なのではなく、プロテスタンティズムの信念からいって、各学校が自律して本質的な教育を追究することが大事であって、大同団結することはかえって危ないという考え方だった。
★だから、自ら土曜日に哲学授業を開き、南原繁の弟子でありながら戦後教育基本法の教育刷新メンバーだった私学人とは距離をおいた丸山真男の著作集を生徒と読み合い、対話した。
★新教養主義と名付け、紆余曲折はだいぶあったようだが、それが今日の土曜の「教養総合」の講座群としてシステム化されるにいたっている。
★しかし、それができるのは、読書に抵抗がなく、考えることが大好きな生徒が集まっている麻布だからこそできるのであって、他の多くの私立学校でできるだろうか。
★そのころから学歴ピラミッドは崩れる予兆はあったが、なんとか維持しようという保守免疫システムがまだまだ作動していた。
★超学歴ブランド校以外の学校が思考力型問題を出そうものなら、塾からの大ブーイングがあった。うちの生徒はそんな問題を解くことはできないと。かつては、一本のカリキュラムで、受験生全体を麻布のような学校に合格するかどうかはわからないが、思考力・表現力・応用力を身につけようと高邁な理想を断行していた中学受験の大衆化のウネリを形成するのに一役買った中学受験塾も、みずから手を貸した中学受験の大衆化の波に逆襲された。カリキュラムの複線化というより細分化への方向に走った。
★しかし、それでよいのかと奮起したのが、当時のかえつ有明の校長石川一郎先生(今は香里ヌヴェール学院学院長)であり、聖学院の校務部長だった平方邦行先生(今は工学院附属の校長)だった。思考力入試をつくり、知識が十分でなくても論理的思考力や創造的思考力の素養があり、入学してから知識の体系をつくっていける可能性のある生徒を受け入れ、超学歴ブランド校でなくても、同じように活躍する生徒を輩出できるのだと共鳴した。
★折しも、公立中高一貫校の適性検査型入試の発想を活用しようという新タイプ入試の動きも出始めていた時だから、タイミングとしては両先生の判断は時代の精神を鋭く読み取っていたことになる。
★ここに賛同したのが現在の三田国際学園の学園長大橋清貫先生(当時は広尾学園学園長)だった。ただし、大橋先生は、マーケティングから物事を判断するので、あくまで教科試験の中に、論理的思考と創造的思考を十全に埋め込み、バランスをとった。これによって、超学歴ブランド校の生徒が受験したとしても、創造的思考力を鍛える三田国際学園対策をきちんとしてこないと受からないというハードルを設定した。これが功を奏した。
★実は、それまでの「思考力・表現力・応用力」とは、論理的思考のことを意味し、創造的思考を含んでいなかった。これは適性検査試験も同様である。
★ところが、思考力入試によって開かれた私立学校独自の新タイプ入試は「創造的思考」をふんだんに入れ込んだ。自己アピール入試、プログラミング入試、アクティブラーニング入試、PBL入試など論理的思考×創造的思考を発揮する新しいテストが百花繚乱というのが今日である。
★だから、最初かえつ有明が思考力入試を断行しようとしたとき、塾側から思考力なんて今もあるから目新しくないと拒否され、「作文入試」という名称で行っていたぐらいなのだ。論理的思考と創造的思考の差異が理解できなかったのが、当時の中学受験の大衆化の特徴だった。
★しかし、今や創造的思考というのは、AI社会を予測する多くの人が認知する言葉となった。中学受験の大衆化は依然として止まらないし、それはよいことだと私は思っている。
★一つの権威や一つの組織に集中するコトほど悪はないと思っているからだ。
★大衆化でも、論理的思考のみならず創造的思考まで共有できれば良いのだ。もちろん、現段階では、まだ論理的思考の共有で、寸止め状態ではあるが、それでも論理的思考を鍛える受験生と知識を憶える受験生とという分断線が解消され、すべての受験生が少なくとも論理的思考力を学ぶ市場となったことは、中学受験市場の学びの成熟化だし、それに伴い学校選択の成熟化も広がった。
★第一次中学受験市場の大衆化は、権威から受験生を解放する高邁な理念をホストコンピュータで実現しようという塾が大きな働きをした。
★第二次中学受験市場の大衆化は、論理的思考を広めようという新タイプ入試のイノベーションを行った私立学校が大きな働きをした。もちろん、これを支える認知多様性の評価システム=思考コードシステムをつくった模擬試験会社の役割は大きいし、その情報が広がるSNSツールの働きも見逃せない。
★そして、2020年中学受験市場は、グローバル市民の場となる方向性がみえてきた。グローバル教育の充実、STEAM教育の充実が、それに対応する新タイプ入試のイノベーションをさらに拡大する。これによって、塾業界も、ある大手予備校一極集中の状態を崩し、生徒1人ひとりが自分のペースで、自分のものの見方考え方を見つめながら、認知的能力と非認知的能力の成長を促していけるファシリテーターが存在する個別塾やスモールサイズの塾が栄えるであろう。
★構えはスモールサイズでも、サイバースペース上は知のネットワークが無限に広がるAI時代の塾が生まれる。そして、これに伴い私立学校の在り方も変わっていく。ただその姿は、もう少し待たなくてはならない。
★現段階は、第二次中学受験市場の大衆化の段階であって、今後第三次にシフトしていくウネリが新たに生まれてくるというタイミングだろう。
★受験も市場であれば、それを回避できない。しかし、市場は持続可能性を維持しようとするから、チェック機能も一応は働く。その役目が私立学校だった。これは優勝劣敗主義路線を政策発想とした官学の系譜に対峙する私学の系譜に立ち戻るとわかる。
★そして、そこには今超学歴ブランド校となっている私立学校の姿も見ることができるだろう。
★だから、私立学校の受験市場は、この大学受験予備校の偏差値を逆利用とするところから始まった。それが、34年前だった。というのも、そのころは、今の超学歴ブランド校をつくった一極集中型の流れを固定化しようという動きがうまれていたからだ。
★この手法は、資本主義的ではなく、権威主義的な市場の作り方だった。それゆえ、偏差値という指標で、その権威から私立学校を解放しようというシャーネリスティックな発想と偏差値がアクロバティックに手をつないだのである。折しもホストコンピュータが10年遅れであったが日本にも上陸して、合理化、計算可能性、予測可能性を強化する動きにも重なった。
★中学受験の大衆化が生まれたのである。これによって、権威的集団に、はいれなくても、思考力・表現力・応用力を身につける合格戦略を生み出す情報戦が同時に始まった。
★そして、逆利用というコントロールは、所詮はかなく、強欲資本主義の波にのまれ、偏差値主義が誕生することになる。しかも、このときの思考力・表現力・応用力は、やはり超学歴ブランド校の中学受験大衆化側の奪還にすぎず、それ以外の学校は知識ベースをもとめられるようになった。大衆化というのは、結局学歴ピラミッドを確立し、その序列の中で、トップでなくても満足できる層をつくりあげればよかったからである。
★バブルの勢いもあり、このピラミッドを守っていれば、年収1000万以上の生活はできたのである。
★しかし、バブルがはじけて、デフレの波が襲いかかり、ピラミッドのトップ層・準トップ層以外の居心地がわるくなった。OECD・PISAの結果のせいでいやおかげで、学力重視の学習指導要領になり、公立学校と私立学校の差別化戦略で、まだ余力のある家庭を私立学校の市場にとどめることができた。
★ところが、歯止めが利かない少子高齢化にリーマンショックや度重なる大災害によって、さすがにピラミッド維持が難しくなて来た。そこに公立中高一貫校の到来で、一気に私立学校はアドバンテージを奪われる形になる。
★私立学校の存在意義を考えなくてはならない事態だったときに、ある意味その象徴であった戦後教育基本法が政府の政策によって改正されることになってしまった。
★存亡の危機をどう乗り越えるか、麻布の前校長氷上先生は、戦後教育基本法をデザインした座長の1人南原繁の孫であったということもあり、いろいろな場所で講演をしていた。私も講演に参加して、懇親会でしたたかワインを飲み交わし、そのときに≪私学の系譜≫論をどうつないでいくかという話になった。
★しかし、氷上先生は、私学全体の動きに興味はなく、それは無関心なのではなく、プロテスタンティズムの信念からいって、各学校が自律して本質的な教育を追究することが大事であって、大同団結することはかえって危ないという考え方だった。
★だから、自ら土曜日に哲学授業を開き、南原繁の弟子でありながら戦後教育基本法の教育刷新メンバーだった私学人とは距離をおいた丸山真男の著作集を生徒と読み合い、対話した。
★新教養主義と名付け、紆余曲折はだいぶあったようだが、それが今日の土曜の「教養総合」の講座群としてシステム化されるにいたっている。
★しかし、それができるのは、読書に抵抗がなく、考えることが大好きな生徒が集まっている麻布だからこそできるのであって、他の多くの私立学校でできるだろうか。
★そのころから学歴ピラミッドは崩れる予兆はあったが、なんとか維持しようという保守免疫システムがまだまだ作動していた。
★超学歴ブランド校以外の学校が思考力型問題を出そうものなら、塾からの大ブーイングがあった。うちの生徒はそんな問題を解くことはできないと。かつては、一本のカリキュラムで、受験生全体を麻布のような学校に合格するかどうかはわからないが、思考力・表現力・応用力を身につけようと高邁な理想を断行していた中学受験の大衆化のウネリを形成するのに一役買った中学受験塾も、みずから手を貸した中学受験の大衆化の波に逆襲された。カリキュラムの複線化というより細分化への方向に走った。
★しかし、それでよいのかと奮起したのが、当時のかえつ有明の校長石川一郎先生(今は香里ヌヴェール学院学院長)であり、聖学院の校務部長だった平方邦行先生(今は工学院附属の校長)だった。思考力入試をつくり、知識が十分でなくても論理的思考力や創造的思考力の素養があり、入学してから知識の体系をつくっていける可能性のある生徒を受け入れ、超学歴ブランド校でなくても、同じように活躍する生徒を輩出できるのだと共鳴した。
★折しも、公立中高一貫校の適性検査型入試の発想を活用しようという新タイプ入試の動きも出始めていた時だから、タイミングとしては両先生の判断は時代の精神を鋭く読み取っていたことになる。
★ここに賛同したのが現在の三田国際学園の学園長大橋清貫先生(当時は広尾学園学園長)だった。ただし、大橋先生は、マーケティングから物事を判断するので、あくまで教科試験の中に、論理的思考と創造的思考を十全に埋め込み、バランスをとった。これによって、超学歴ブランド校の生徒が受験したとしても、創造的思考力を鍛える三田国際学園対策をきちんとしてこないと受からないというハードルを設定した。これが功を奏した。
★実は、それまでの「思考力・表現力・応用力」とは、論理的思考のことを意味し、創造的思考を含んでいなかった。これは適性検査試験も同様である。
★ところが、思考力入試によって開かれた私立学校独自の新タイプ入試は「創造的思考」をふんだんに入れ込んだ。自己アピール入試、プログラミング入試、アクティブラーニング入試、PBL入試など論理的思考×創造的思考を発揮する新しいテストが百花繚乱というのが今日である。
★だから、最初かえつ有明が思考力入試を断行しようとしたとき、塾側から思考力なんて今もあるから目新しくないと拒否され、「作文入試」という名称で行っていたぐらいなのだ。論理的思考と創造的思考の差異が理解できなかったのが、当時の中学受験の大衆化の特徴だった。
★しかし、今や創造的思考というのは、AI社会を予測する多くの人が認知する言葉となった。中学受験の大衆化は依然として止まらないし、それはよいことだと私は思っている。
★一つの権威や一つの組織に集中するコトほど悪はないと思っているからだ。
★大衆化でも、論理的思考のみならず創造的思考まで共有できれば良いのだ。もちろん、現段階では、まだ論理的思考の共有で、寸止め状態ではあるが、それでも論理的思考を鍛える受験生と知識を憶える受験生とという分断線が解消され、すべての受験生が少なくとも論理的思考力を学ぶ市場となったことは、中学受験市場の学びの成熟化だし、それに伴い学校選択の成熟化も広がった。
★第一次中学受験市場の大衆化は、権威から受験生を解放する高邁な理念をホストコンピュータで実現しようという塾が大きな働きをした。
★第二次中学受験市場の大衆化は、論理的思考を広めようという新タイプ入試のイノベーションを行った私立学校が大きな働きをした。もちろん、これを支える認知多様性の評価システム=思考コードシステムをつくった模擬試験会社の役割は大きいし、その情報が広がるSNSツールの働きも見逃せない。
★そして、2020年中学受験市場は、グローバル市民の場となる方向性がみえてきた。グローバル教育の充実、STEAM教育の充実が、それに対応する新タイプ入試のイノベーションをさらに拡大する。これによって、塾業界も、ある大手予備校一極集中の状態を崩し、生徒1人ひとりが自分のペースで、自分のものの見方考え方を見つめながら、認知的能力と非認知的能力の成長を促していけるファシリテーターが存在する個別塾やスモールサイズの塾が栄えるであろう。
★構えはスモールサイズでも、サイバースペース上は知のネットワークが無限に広がるAI時代の塾が生まれる。そして、これに伴い私立学校の在り方も変わっていく。ただその姿は、もう少し待たなくてはならない。
★現段階は、第二次中学受験市場の大衆化の段階であって、今後第三次にシフトしていくウネリが新たに生まれてくるというタイミングだろう。
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