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2018年12月 5日 (水)

New Powerの学校あるいは教師(02)桐蔭学園への期待

★2011年秋、平方邦行先生と石川一郎先生、大橋清貫先生、鈴木裕之氏(スタディエクステンション代表)、そして私の5人が集まって21世紀型教育を創る会構想を描いていた。今の21世紀型教育機構の前身である。

★知識・理解という領域から、批判的創造的思考力に軸足を置く学びの場を生徒とともに創っていくにはどうしたよいのか幾度も論じ合った。3・11を経験し、コントロールできない自然の猛威を体験し、改善改革ができない組織の醜悪さを毎日のようにメディアで目にし耳にする日を送っていた。

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★3・11の前には、チュニジアやエジプトで民主革命が起こっていたが、次の年から中東でテロが本格化して2015年のパリ同時多発テロが起こった。すでに2001年9月11日にアメリカ同時多発テロ事件が起こって以来、グローバリゼーションの影の部分が日常化していた。

★2008年には、リーマンショックがあって、もともと世界の痛みと私立学校の教育は影響していたが、3・11は、遠くの出来事ではなく、私たちの問題だった。

★グローバリゼーションの矛盾を解決できる人材を育成するにはいかにしたら可能か?学歴偏重が生み出していると思われる国の組織のゆがみを是正する教育改革への提言はいかにしたら可能か?私たち自身はいかに変容しなければならないのか?3・11以降急激に広まったSNSの先にあるコンピュータサイエンスを教育にいかに組み入れるか?
★思考力の領域については、ブルームのタキソノミーの改訂版や21世紀型スキルを学びつつ、2000年から米国やフィンランド視察をして学びのプログラムをデザインしてきたPBLを授業の中にコンパクトに入れられるかどうか実験していた。

★そんなとき、あれは2012年の10月だったと思うのだが、京都大学高等教育研究開発推進センターの第84回公開研究会に参加した。エリック・マズールハーバード大学教授(物理学・応用物理学)のPI(peer instruction)を体験するためだった。20世紀型の講義形式がいかに情報伝達だけで、参加している学生に好奇心をインスパイア―できていないか辟易していたマズール教授が、講義形式の授業の中にPIを埋め込むことによってその問題をクリアしたのだが、そのPIのワークショップ型講義がそれだった。
★2011年から2012年にかけて、学校の先生方とPBL型授業を実験するも、いきなりでは難しい先生方も多くいるので、その問題をいかにクリアするか考えていた。それだけに、このPIの威力はすぐに了解できた。

★それ以来、21世紀型教育機構加盟校では、PIL×PBL型授業を研究開発・実施している。2013年春に、21世紀型教育を創る会を私立学校の仲間が開設して、21世紀型教育を行っていくことを宣言した。

★しかし、その時はまだIBを超えるグローバル教育を構築できていなかったし、PIL×PBL型授業といっても、なかなか中学入試市場では受け入れられなかった。

★ただ、2013年21世紀型教育を創る会(21会)を立ち上げたとき、政府・文科省も教育再生実行会議を立ち上げ、2020年の教育改革を論じ始めた。政府と文科省の考える教育改革と同時並行で21会を進めることができたので、相違点と共通点をはっきりさせながら21会の議論を深めていくことができたのはラッキーだった。

★グローバル教育については、いちはやくCEFRをストラスブールの欧州評議会で学ぶことができた。2015年のパリ同時多発テロが起きるまで、よくストラスブールにいき、CEFRの仕組みをストラスブール大学の大学院生などにインタビューさせてもらった。なぜストラスブール大学かというと、そこはEUの拠点の1つだし、同大学は日本語の学部があるため、日本語が堪能な学生が多いからだ。

★それで、「C1英語」という用語を21会は使い始め、21世紀型教育機構にバージョンアップした時に、C1英語は加盟校全体が目指す英語4技能の柱となった。

★PIL×PBL型授業については、今では多くの学校で当然行うような雰囲気になってきたが、2013年当時は、受験市場からは一蹴された。しかしそんなとき、2014年だったと思うが、尊敬する中原淳先生と実は京大の公開研究会でお目にかかっていた溝上慎一先生が編集している「活躍する組織人の探究 大学から企業へのトランジション」という本に出遭った。

★その本では、まだ中高の学びが、大学、企業というトランジションに大きな影響を与えているという検証はされていなかったが、大学で、未来を構想しながら、主体的に自分で考え判断する学びや人間関係を豊かにしていく活動をしていた学生は、企業でもプロジェクトなどで活躍しているという仮説を検証していた。

★そして、溝上先生は、大学前の学びにも注目すると予告をしていた。このような主体的に自分で考え判断する学びはまさにPBLだと思い、未来を開くPBL型授業の正当性・信頼性・妥当性の根拠がここにあると確信した。

★その後、溝上先生は、桐蔭学園の教育アドバイザーとしてアクティブラーニングを同校の先生方と研究開発実践していった。当然、アクティブラーニングの手法だけではなく、それを通してトランジションの行方はどうなるかという研究をすると思っていたら、やはり予想通り、アクティブラーニングとトランジションを研究した本を桐蔭学園の先生方と出版した。もうすでに複数冊出版している。

★私たちのPIL×PBLとは相違点もあるが、ディスカッションやプレゼンなどを大切にしているという点では共通している。桐蔭学園は、きっと大きく変わるだろうと思っていたら、AL入試という新タイプ入試も実施するようになっていた。来春からは桐蔭学園中等教育学校として一本化・共学化を果たすというから何か大きな改革が起こっているのだろう。

★そんなことを思っていたら、先日同校が会場の統一合判の保護者会で話すチャンスがあり、岡田校長と少し話す機会も頂いた。岡田校長によると、「大きな改革をしています。新しい進学校として大きく変わります。溝上先生が、同校の理事長代理になり、桐蔭学園トランジションセンター 所長・教授に移籍したことがそのことを示唆しています」ということだった。

★桐蔭学園の学生は、このような新しい進学校の教育に支えられながら、大学、社会へとトランジションしながら大きな活躍をしていくことになるだろうが、それを溝上先生が学問としてとらえ返し、世に発信するわけだ。つまり、岡田校長が挑戦している大きな改革は、そのまま論文として発表され、日本をいや世界を変える動きになる。

★日本のアカデミズムは、私立学校を研究することはなかった。東大アカデミズムは社会階層論で、私立学校を、特に私立中高一貫校を富裕層の子弟の行く学校として批判し、私立学校にできても公立学校ではできないことが多いと一蹴してきた。

★しかし、政府や文科省は、公立中高一貫校などには、その私立学校の教育のエッセンスを導入するなど実際には私立学校を研究してきた。

★そんな過去の経緯を大転換する学問的な展開が桐蔭から起ころうとしている。桐蔭の大きな改革、新しい進学校という動きは、日本や世界を巻き込む大きな一つの流れとなると期待している。それにはやはり学問の力が重要になるのだ。

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