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2018年12月27日 (木)

【学校の組織開発01】NPに取り上げられた工学院に聴く

★工学院大学附属中学校・高等学校が、News Picks(NP) Vol.3に取り上げられたことをきかっけに、カリキュラムマネージメントリーダー(CML)の岡部先生から話を聞くことができた。なるほど見方が違っていい感じ。

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★岡部先生は、教務主任の田中歩先生と協働して、工学院の組織開発をしている。組織開発と言っても、同校の場合は、大学との関係もあり、そう簡単ではないようだ。

★岡部先生と田中先生の組織開発のアプローチは正反対。岡部先生は社会学的アプローチだし、田中先生は心理学的アプローチだという。

★しかし、共通点の範囲が広い。それは岡部先生の社会学的アプローチであるエスノメソドロジーと田中先生の心理学的グループダイナミクスは、フラットな対話で階層性や分断といった見えない壁を崩していく点で同期している。

★権威や権力によって壁を強引に取り除くのではなく、互いにそれが壁だと気づくことによって、協力して取り除いていこうというモチベーションを内燃するように仕掛けることだ。それが二人の対話の手法のようだ。もっとも、最初はブルトーザーで開発して、あとはケアするというコトなのかもしれないが。

★というのも、岡部先生は、一般に日本の学校は、やはりピラミッド型組織だから、生徒の学級も実は自然と階層性ができてしまっている。偏差値とか成績の序列が問題になるけれど、そこを変えたところで、学校と学級の組織が階層的であれば、どうしようもない。むしろ、条件が揃っていないのだから、弊害の方が多いと考えているからだろう。

★改革しなくても子供にとって負荷をかけ続けることになるし、条件を揃えないで無理やり改革しようとすると、目先の変化で終わって、結局成果が出ない。困るのは子供たちだという。

★岡部先生と田中先生のジレンマはそこだったというが、そんなことを意識して日々学校運営をしているところがすごい。もちろん、岡部先生は社会学的視点をもっているから、これが近代の歴史が包含している内的矛盾だなんてことは百も承知だ。

★だから、相手がデカすぎて、精神的には疲弊する。岡部先生が見ているのは、普通の人が見ている目の前の出来事だけではなく、その向こうに立ちはだかっている近代の怪物なのである。

★それは、田中先生も同様だ。しかし、協働することで、なんとかタフになれるということらしい。幸い、二人だけではなく、協力者は同校にはたくさんいる。

★そんな話を聞きながら、ああなうほど、岡部先生は、NPに取り上げられている人物や、その人物が経営している組織の形態を見ているのだなと気づいた。岡部先生自身、やはり小回りの利く柔軟でフラットなNew Power 組織になろうとしているところばかりが紹介されているよねと。

★工学院も、完全にではないが、組織開発ありきの教育改革であるところが、編集者に伝わったのだろうというのが、岡部先生の視点であった。

★ただ、岡部先生は、その組織開発の背景にある経済制度や経済現象は、まだまだ日本社会は古いから、活性化している組織はグローバルな動きをせざるを得ない。その点も工学院はシンクロしていると。それにしても、岡部先生は柔らかい顔立ちなのに、言うコトは歯に衣着せない。国立大学が英語教育の改革に躊躇しているのも、頭脳流出を防ごうという防衛機制だろうとキッパリ。

★いずれにしても、この人口論的経済成長論は、もう立ち行かない。少なくとも、工学院は、人材のリソースの開発ができる組織でありたいという信念で、日々実践している。岡部先生は、2004年の段階で、今は絶版だが、「未来を創る学校」に、2050年を見据えて論考を掲載していたほどだ。

★そのようなマクロ視点を持ちつつ、一方で、生徒1人ひとりの非認知的能力と認知的能力の両方の成長をデータ化して見える化して様子を把握するデータサイエンスも実施している。鳥の目と虫の目というわけだ。

★田中先生もエゴグラムというデータから生徒の心理学的発達を調べているし、岡部先生は独自の工学院GMRというシステムと自由記述からのデータマイニング手法で、生徒のケアやフォローをしている。ある意味マーケティングもしている。

★二人の先生は、データによる診断的対話とグループダイナミックスによるシェアリングやエスノメソドロジーという言語の背景に潜む無意識の想いを見出すことによって組織開発のツボを見出している。

★大胆なというのは聞こえは良いが、強引な組織開発の場合が多い。ところが、二人の先生は、自然と変わっていく、自生的な組織開発、この場合は組織発達と訳したほうがよいと思うが、ツボを刺激することでそれを実行しているのである。

★二人の先生の組織開発の行動は、中原淳教授の新刊「組織開発の探究」をプリズムとしてあてると、実に理にかなった新し動きであることに気づく。

★生徒が1人1台タブレットやPCを持って授業に参加しているから、診断型組織開発手法を駆使できているし、エスノメソドロジ―とグループダイナミクスをPBL型授業やPBL型活動に応用して対話型組織開発も実践している。もちろん、これができるのは「思考コード」という未知の活動を探究するときのコンパスがあるからだが。これを作成した一人が田中先生でもある。

★しかもその両手法のエイジェンシーの役割を2人でやっているわけだから、診断型×対話型組織開発の新しい統合の流れができている。

★岡部先生が言うには、最大の協力者であるのが、広報支援をしている加藤昌弘先生だという。というのも、広報というより、この新しい組織開発には、公開ドキュメンテーションが必須である。SNS、サイト、フライヤーの量産が必要ということだ。

★この外に広報しつつ、内部広報の役目を果たすには、加藤先生の活躍が欠かせないということだ。加藤先生は、イラレまで活用できるというから驚きだ。英語の教師でICT堪能。グローバル教育とSTEAM教育の両翼を大事にしている工学院の申し子のような存在ではないか。ウム、そういえば、岡部先生も田中先生も英語の教師だった。

★ともあれ、かつて田中先生に、外注も大事だけれど、コアな部分は内製化できるようにしておく必要があるんですよと言われたことがあった。なるほど、それは、このことかと気づいた。

★しかも、奥津教頭代理と島田教頭が、クール&ホットというパートナーシップをうまくロールプレイしているという。数学的思考と環境経済的マインドの両輪、すなわちスキルフルとマインドフルがうまく回り始めているようだ。

★そして、STEAM教育の基盤となるICTの強化も情報チームの先生方が着々と進めているという。

★PBL型授業は、組織開発いや組織発達の強烈なソフトパワーだったということがようやく了解できたのだった。横浜ミーティングは、近大のシステムにも関係していた友人も参加していて、なかなかすてきだった。

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